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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還48

 コモドは夢中で斬って貫いた。

 そして開けた道を駆け、部屋に飛び込み、開け放たれた窓の外を見降ろした。

 未だに敵はよく響く警笛を鳴らしている。下にいるのは二人だ。今なら間に合うかもしれない。コモドは窓から飛び降りた。着の身着のまま二人の兵士が抜刀し、コモドを睨み付けている。

「ケチなコソ泥か? お生憎、ここは盆暗クルーからインバルコ帝国領土へなったのだ! 死ねえっ!」

 笛を吹くのを止め、敵兵は斬りかかってきた。

 コモドはクサナギノツルギで受け止め、逆に打ち返し、敵の刃を破壊して間合いを詰め一人目の喉を掻き切った。

「おのれ! このコソ泥め! やりやがったな!」

 もう一人が掛かってきたが、風を纏う重たい音がし、敵兵の顔面に深々と手斧が突き刺さっていた。

「俺は二階から飛び降りるなんて芸当はできんからな」

 パパスが合流し、斃した敵から斧を取り戻した。

 村中は静かだ。笛の音が聴こえなかったのかもしれない。

 そんな一抹の望みは破られた。

 甲高い金の音が鳴らされた。まるで暴虐的な音色に聴こえた。

 夜襲は失敗した。誰も責められない。総大将コモドの不覚というところだろう。ヤト式に腹を切らねばならぬかもしれない。

 家と言う家に灯りが点った。

 コモドはただパパスと佇立し様子を見ることしかできなかった。逃げるべきなのか、戦うべきなのか。まるで分からなかった。

 甲冑の音を響かせ、松明を手にインバルコの兵達がぞろぞろ出て来た。

「くそ、撤退だ!」

 コモドはようやく判断し声を上げた。

 だが、パパスが咆哮を上げた。

「俺のせいで作戦を台無しにしちまった! お前らにもチヨさんにも申し訳がたたねぇ! それにここは俺の村だ! コモド、お前は退け、総大将だ!」

「パパスさんは?」

「言ったろ、皆殺しにするってよ! うおおおっ!」

 パパスが血に濡れた手斧を掲げ幾つもの灯りの元へと突撃した。

「パパスさん!」

 コモドは考えた。いや、正常な判断とやらが何なのか分からない。一つ言えることは、パパスを死なせたくないということだ。

「クレハ、死んだらごめんよ!」

 コモドもパパスの後を追った。

 大勢を前にパパスは我武者羅に斧を振るっているが、長さが足りず、遠巻きに槍で打ち返されていた。

「卑怯者! 堂々と戦え!」

「寝込みを襲うお前に言われとうないわ! 哀れな盗賊め! 言われんでも捕縛する! それ、かかれ」

 敵兵が槍を捨てて剣を抜き放ちパパス目掛けて殺到した。

 コモドはパパスの背後で跳躍し眼前に躍り出るや、クサナギノツルギを大きく薙ぎ払った。

 打ち当たった敵の刃が次々に圧し折れる。

「今です!」

 どこからか声がし、二つの影が敵に向かい剣で喉を切っていた。

 パパスも改めて咆哮を上げて敵兵を鉄兜ごと真っ二つに切り裂いた。

 ヌイとアメリア老師がそこにいた。

「まったく、へまをやらかしたのはパパスの方かい」

 アメリア老師がなじる様に言った。

「悪かったよ! だけど、死ぬなら俺一人だ。お前ら、逃げろ」

「落ち着くんだよ、パパス。夜襲は、まだ失敗しちゃいない。ここが踏ん張りどころだ。成功に導くよ。騒ぎを聴いてウルフ達も来てくれるだろう。それまでの辛抱だ。気を抜くんじゃないよ!」

 アメリア老師が言うと、コモド、ヌイ、パパスは異口同音に返事をした。

「コソ泥め! それ賊を討ち取れ!」

 敵が声を上げる。

「賊もコソ泥もそっちだろうが!」

 パパスが怒鳴り返し斬りかかる。それが新たな戦端の開かれる合図だった。

 ヌイは小刀を手に、アクロバティックではないがアメリア老師の動きそのものを見せて敵兵を切り裂いた。それに安堵したコモドは自らが率先して、湧き上がる敵兵どもの中へと勇躍し、槍を断ち。剣を破壊した。アメリア老師は高々と跳躍し空中を行ったり来たりし、時には下段から攻めて不意を衝いて敵を仕留めていた。

 しかし、敵兵は合流するばかりで、三十人近く斬ってもまだまだ湧いて来る。パパスが息を荒げ始めた。

「何だい、パパス、威勢だけは良かったのにもうバテたのかい」

 アメリア老師が呆れたように言う。

「うるせぇ、まだまだだ! 俺の村から出ていけ、インバルコの侵略者ども!」

 気勢を上げるパパスだが、動きは緩慢だ。

 ヌイも細い息を吐いている。今は民家の前の広場だ。運よく囲まれてはいないが、そうなったら、誰かしらはただでは済まないだろう。一つありがたいのはグミ村が小規模の村だということだ。どうやら民家の数だけ駐留する兵隊数が決まっているらしい。ヒューリーの時もグロウストーンの時もそうだった。兵は限られている。夜襲を強引に成功させることができるかもしれない。

「加勢する!」

「遅れたな!」

 頼もしい声がし、ウルフとカンスケ、そして戟と薙刀を持ったイシュタルが合流した。コモドは望みを取り戻した。

「ヌイさん」

「イシュタルさん、ありがとうございます」

 ヌイは得意の薙刀を受け取りビュンビュン鳴らした。イシュタルも戟を突くように構える。

 再び戦いが始まった。

 イシュタルが長柄の月牙で文字通り次々敵の首を刈っていた。ヌイは敵と打ち合い押し、そして足を裂き、崩れたところを喉を裂いた。ウルフは次々両手剣で打ち伏せ、根性を見せたパパスがとどめとばかりに手斧では無く小剣に持ち替えて地面に縫い付ける。アメリア老師は素早い身のこなしで間合いを詰め、同じく弱点である喉を短剣で切った。カンスケは朱槍で敵の鎧ごと胴を貫き、次々重傷を負わせている。コモドは仲間達の活躍を肌で感じながら、無我夢中で敵の中を進み、武器や鎧を壊して回った。

「撤収! 城まで逃げるぞ!」

 さすがに大勢いたため、浅手の者や無事な者達がいた。そいつらは切り結んでいる僚友を見捨て戦場を後にしようとした。

 コモドは反転し、後を追おうとしたが、黒い影が跋扈し、交錯するや、逃げ始めていた敵兵は次々地面に斃れた。忍び集団が合流したのだ。

 ふと、隣から声を掛けられた。

「奥の方は全て滅しました。降伏勧告をなさいませ」

 チヨだった。

「う、うん!」

 コモドは慌てて引き返すと声を上げた。

「インバルコの兵士達に告ぐ、潔く降伏しろ! もうお前らに勝ち目は失われた!」

 するとインバルコの兵達は顔を見合わせ、投降した。

 コモドは自分の後ろにチヨと彼女の配下の忍び衆達がいることを少ししてから気が付いた。彼女達の黒い睨みが敵の戦意を削いだのだろう。

 インバルコの兵は十人足らずだった。それらを捕縛する。

「チヨさん!」

 パパスが忍びの頭目のもとへ駆け付けて行った。

 パパスの心を思い、コモドはヌイと顔を見合わせ、笑みを交わし合った。

「パパス殿、どうなさいました?」

「いや、その……申し訳ねぇ!」

 パパスは深々と頭を下げた。

「今回は俺のヘマで作戦を台無しにしちまった。犠牲者も出たかもしれねぇ! 本当に申し訳ねぇ!」

 パパスの謝罪を受けて口元は布で覆われているため見えないが、チヨは笑んでいるだろう。

「良いんです。夜襲は成功しましたし、パパスさんはしっかり己を省みております。私から言うことは、何もありません」

 そうして部下達の方へチヨが歩み始める。

「パパスさん!」

 コモドとヌイは思わず声を揃えて名前を呼んだ。

「行かなきゃ、パパスさん!」

「そうです! もう一押し!」

 二人は声を揃えて鼓舞した。

「勇気を持って!」

 パパスは頷いた。

「チヨさん、待ってくれ! 俺の話しを聴いて欲しい! 迷惑だったら断ってくれても構わない!」

 少し遠い位置だが、パパスの声は良く聞こえた。

「チヨさん、あなたが好きなんだ!」

「お!」

 コモドは声を上げヌイと握手した。

「やりましたね!」

「やったね!」

 チヨの返事は聴こえなかったが、戻って来たパパスの安堵した顔を見れば結果は分かった。

 危険な事態になったが、仲間達の活躍で強引に夜襲を成功させ、コモドは大将としての責任を果たせた。

「お主らは何をはしゃいでいるのだ」

 と、この後すぐにカンスケに呆れられたのであった。

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