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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還47

 コモドらは街道沿いの森の中を進んだ。

 コモド、カンスケ、ヌイ、ウルフ、イシュタル、アメリア老師。そして付き従う武者達五十人は異様な格好をしていた。

 全身黒装束で包み、一メートルほどのヤトの直刀の他に星型の刃の付いた投擲武器を持っていた。異様なのは格好だけではない。味方でさえ、気付けぬほどの存在の消し方が実に巧妙であった。彼らは忍者という集団らしい。案内人のコモドの隣にいるのは年嵩の女性の忍者で、案内人のコモドが、まるで彼女に導かれているようだった。

 時刻は午後を過ぎ、夕暮れを迎え、夜になった。グミ村が見える付近まで移動すると、斥候が二人、足音も立てずに闇の中へと消えて行った。

「忍者って凄いんだなぁ」

 コモドは思わず感嘆の言葉を漏らした。

「チヨの配下は訓練されてますからね」

 ヌイが言った。

 そのチヨという年嵩の女性は一人離れて木の上で待機していた。

 ここまで大人しくついてきたパパスがちらちらと彼女を盗み見ていた。

 一時間が過ぎ、午後九時半。斥候が戻って来た。チヨが木から舞い降りた。

「頭、どうやらグロウストーン村に潜んでいた生き残りはいなかったみたいです。こちらのグミ村は構えることなく、家屋に入って全員が就寝してます。巡回も門番もいません」

「分かった」

 チヨはコモドを振り返ると衣装で隠れた口元を向けて言った。

「コモド殿、計画通り、寝込みを襲いましょう」

「うん、そうだね。グミ村の人達の布団が汚れちゃうけど、背に腹は代えられないからね。行こう」

 ウルフとイシュタル、カンスケが正面に残り、逃げて来た者を討つ役となった。ヌイは薙刀をイシュタルに預け、小刀を手にした。

「大丈夫ですよコモドさん。心得はあります」

 こちらの心を見透かしたようにヌイは微笑んだ。

「それではコモド殿とパパス殿。姫様とアメリア殿で組んでください。村の奥の方は我らが一手に引き受けますので」

 チヨが言った。

「大丈夫なのか?」

 パパスが問う。その声が本当に気遣わしげだったのか、チヨは目元を微笑ませて応じた。

「御心配には及びません。でも、ありがとうございます」

 そしてチヨは村に向き直った。

「行きましょう」

 その声と共に忍者達に交じり、コモドらも駆けた。音がするのはカンスケの甲冑だけだったが、途中で方角が変わった。配置に向かったのだ。

 正面の門を避け、迂回し、西側の壁に来ると、忍者達は鞘に収まった剣を地面に立て、壁に掛ける、正方形のさほど出っ張っていない鍔に足先を置いて跳躍して向こう側へと消えて行った。アメリア老師がその老体に驚くほどの力を漲らせて助走も無く向こう側へ跳んだのはさすがだが、コモドとヌイ、パパスはそうはいかなかった。

 チヨと数人の忍びが壁の上から顔を覗かせた。

「我々の様に刀の鍔を足掛かりにして下さい」

「とは言ってもとても跳べないぞ」

 四人は忍び達の真似をしたが、パパスが思わず困惑気味に言った時、全員の手が掴まれ、壁の向こう側に引っ張られた。

 コモドと老師は着地したが、ヌイとパパスが転倒していた。

 忍者、いや、忍び達は紐を引っ張る。刀が向こう側から引き上げられ彼らの手に収まった。

「あ、あの」

 チヨが困惑気味に声を出した。

 見ればパパスが彼女の片手を掴んだまま、立ち上がり動かなかった。

「パパス殿?」

 チヨが再び尋ねるとパパスは我に返ったように大笑いした。その口をコモドが塞ぐ。パパスは理解したようにコモドの手を叩いた。

「いやいや、悪い。チヨ殿がその、カッコよくて……な」

 お、これは。コモドはヌイと顔を見合わせていた。

「ありがとうございます。さぁ、各々役目を果たしましょう、合流地点はウルフ殿達がいる村の入り口です」

 コモドが頷くと忍び達は手際よく消えて行った。

 四人は村中央を小走りで目指す。牛舎の物陰に隠れ、改めて外に巡回している者がいないことを見るとパパスが言った。

「行くぞ、コモド。俺の村に居座る無礼者どもを成敗するんだ」

「パパスさん、声は低くね。それじゃ、ヌイさん、老師、またあとで」

 二手に分かれ、コモドとパパスは闇の中を駆けてまず、一つ目の民家の扉の前に来た。鍵は掛かっていなかった。

 コモドが頷き先に入り、パパスが後に続き、静かに扉を閉めた。夜目に慣れてきたため、民家の中がある程度は見えた。

 コモドが動き、パパスが後に続いた。小さな民家の一室に三人のインバルコの兵が眠っているのを見た。甲冑は側に無造作に置かれていた。

 二人は動いた。パパスも手にしているのは自慢の手斧でなくショートソード風の直刀だ。二人はそれぞれの相手の真上で刃を掲げると頷いた瞬間、振り下ろした。

「ぐぼっ!?」

「げぶっ!?」

 いびきが断末魔の呻きに変わる。残る一人は寝たままだった。パパスが死体を凝視していたのでコモドが始末した。

 パパスと顔を見合わせ頷いた。パパスが二階の存在を知らせるために上を指さした時だった。

「あー、くそ、喉が渇いた」

 声が聴こえ、階段を下りて来る乱雑な足音が響いた。コモドが出ようかと思ったがパパスが飛び出していった。

「何だ、おま」

 敵の声はそこで途切れた。後に続くと階段の半ばでパパスが直刀を敵の心臓に突き刺していた。抜け殻になったそれをパパスは慎重に抱き留め下に持ってきて置いた。

「二階にもいるようだ。行くぞ、コモド」

 パパスの表情は険しかった。コモドは彼を先に行かせて良いものか悩んだ。

 その時だった。

「誰かいるのか?」

 上から声がし、敵が顔を覗かせた。

 コモドは声色を変えて言った。

「ああ、喉が渇いてな。井戸まで行って来るわ」

 そこまでは良かった。

「そうそう、起こして悪かったな」

 パパスが調子を合わせたがこれが仇となった。

「誰だ!? 侵入者だ! 侵入者がいるぞ!」

 コモドは素早く駆け上がり、クサナギノツルギを敵の心臓に突き刺し、駆け上がった。二階は二部屋あり、兵士が五人もいた。

「野郎! 寝込みを襲うとは卑怯な!」

「黙れ、侵略者どもめ! テメェら皆殺しだ!」

 やけっぱちになったパパスが激高し、直刀を捨てて手斧を抜いて襲い掛かって行った。剣戟の音が木霊する。コモドも奥の敵目掛けて躍りかかったが、その頃には二階から飛び降りたと思われる敵兵が鋭い警笛を鳴らし、音色が寝静まった村中に響き渡っていたのであった。

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