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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還45

 馬の嘶きが聴こえ、振り返ると、そこにはペケに跨ったヌイがいた。ヤトの鎧兜に身を包み薙刀を提げている。

「コモドさん」

 彼女は笑みを浮かべて声を掛けてくれた。

「ヌイさんも来てくれたんだ」

「当たり前です。グロウストーンは第二の故郷、人知れず孤独に守っているあの方のためにも私達は急がなければ」

 精霊神のことだろう。

「そうだね」

 するとヌイは一礼して前方へ去って行った。

「どうだ、コモド殿。なかなかの姫武者ぶりだとは思わないか?」

 カンスケが隣で言った。

「思います」

 コモドは応じた。

「ならば、どうだ、今一度我が妹を妻に迎えることを考えてみては? それとも、貴殿の子種だけでも良いがな」

「カンスケ殿、その件はお断りしたはずです」

「靡かぬか。さすがはコモド殿」

 そしてカンスケはコモドの股に素早く手を伸ばし掴んだ。

「何だ、見栄を張りおって、大きくなっておるではないか」

「いじめないでくださいよ」

「ははは、悪い」

 こうしてグロウストーンへの行軍は続く。時刻は朝の八時を回っていた。

 斥候の武者が戻って来た。

「村の周囲に見張りはいません。静かなものです」

 コウサカ、ロベルト、パパスが訝しむのが分かった。これが敵の罠ならどうするか。だが、一兵たりとも逃しはしなかった。ヒューリー陥落の情報は入るはずがない。

 コモドがそう思っていると、コウサカが声を上げた。

「このまま攻める。私とロベルト殿は通常通り南門から、パパス隊はヌイ様と東門から攻めよ。敵はやはりグロウストーン村の方々が戻って来るとは思っていないのだろう。油断している間に叩く!」

 一同は頷いた。

 パパス隊が三百の手勢を率いて駆けて行く。

 遠巻きにグロウストーン村の南門を見詰めながら、コウサカがロベルトに話しかけた。

「パパス殿は位置に着いただろうか?」

「ええ、刻限です」

 ロベルトがコウサカに言うと、コウサカは腕を振り上げた。

「全軍、速やかに突撃! 村を取り戻せ!」

 甲冑の鳴る音だけが響く。武者達は南門へと押し寄せた。

 コモドも続いた。不思議なものだ。自分の村で、自分が一番に攻め込みたかったのだが、気付けば武者達に先を越されてしまった。戦場の空気に未だ慣れていない証拠だろうか。

「コモド殿、我らも行こう」

 カンスケが声を上げた。ウルフとイシュタルはパパス隊に加わったためここにはいない。カンスケに促され、コモドはようやく全身に血が巡るのを感じた。あの新緑色の髪の幼い子。精霊神を助けるのだ。

「応、カンスケ殿!」

 抜身のクサナギノツルギを引っ提げ、武者達の後に続いて南門へ突入する。狭い門を一列縦隊で進む。途中、さっそく戦端が繰り広げられていたが、狭い村の中では立ち止まっては身動きが取れなくなる。敵一人に対して二人ずつ残して、ぐんぐん村の中心へと進む。

 その途中、マッシュルームが群生していた場所が無残に踏みにじられていたのを見てコモドの怒りはグッと上がった。

 武者達が次々新手にぶつかり、村の広場へと出た。集会所の建物がある。そこに敵将が立派な装具に馬と共に身を固めて待ち受けていた。

「敵は小勢だ! 蹴散らしてしまえ!」

「あいつをやれれば!」

 だが、コモドの思いとは裏腹に敵兵が眼前に立ちふさがる。

「コモド殿、落ち着け、着実に行くぞ!」

 カンスケの声が隣で聴こえた。

 鎧に身を包んだ敵兵が槍を突き出してくる。

 コモドは身を捻って避けるや、そのまま跳躍し、敵の背に剣を振り下ろした。手応えはあったのだがありすぎる程であった。重たい斬撃の後には斜めに寸断された敵の断末魔だけが残されていた。

 この剣ならいける! 他のみんなの数倍の活躍、いや、働きができる! 俺が敵兵を斬って斬って斬りまくらなければ!

「グロウストーン村のコモドここにあり! 来い雑兵ども! クサナギノツルギが相手をするぞ!」

 コモドは小さい体で大音声を上げた。良く通るコモドの声に大将の周りを固めていた敵兵が殺到する。

 剣で打ち合うや、敵の剣が折れる。コモドは突っ込み、心臓に一突き入れる。重い手応えと共に鎧を打ち破り、敵は眼を見開き震えて絶命した。コモドは剣を抜いた。クサナギノツルギから血が滴り落ちているが、刃は鋭利な輝きを見せている。

「敵の大将だな! グロウストーン村の村長このロベルトが相手だ!」

 ロッシを駆けさせ、戦いを繰り広げている雑兵の間をロベルトは抜けて長剣を掲げた。

「よくも俺の村を汚したな! 侵略者ども!」

「村長だと? 下郎が! 身の程を知れいっ!」

 長剣と長剣が交錯する。ロッシと敵の軍馬が主同様、鼻息荒く張り合うように身体を押し合っていた。

 コモドは勘が鋭いと自負していた。虫の知らせともいうのか、嫌な予感がした。

「ロベルト村長! そいつは俺が!」

 声を上げるが、雑兵らが次々コモド目掛けて殺到してくる。

「退け! お前達に構っている暇はない!」

 コモドは名乗りを上げたことを後悔しながら敵兵の間を駆け、跳び、不意を衝いて絶命させた。

 ロベルトは打ち合っているが、敵将の方が武力としては優っているようにも思えた。このままではまずい! まずいぞ、コモド!

「小男が!」

 雑兵が槍を繰り出す、コモドはそれを断ち切り、次なる長剣をも破壊すると、驚く敵の懐に飛び込み剣を旋回させて首を跳ねた。

 道が開いた!

 ロベルト村長が敵将の猛撃に押されていた。

 コモドは駆けた。必死に、地を蹴り勇躍した。ロベルトまであと少し。だが、刃は繰り出され、ロベルトの身体を貫いていた。

「うおっ!?」

 ロベルトの身体がロッシの上で揺れる。

「手間取らせおって!」

 ロベルトは落馬した。

 コモドの心臓が凍った。全身を寒気が駆け抜け、続いて底冷えするような怒りと憎しみが身体を燃やした。

「殺してやる!」

 コモドは駆けた。

「下郎どもが! うじゃうじゃと蛆虫のように湧きおって!」

 敵将が剣を振り下ろす。コモドは打ち合ったが、敵の剣は折れず、クサナギノツルギでもヒビさえ入れた手応えは無かった。

「コモド殿! 油断するな、そいつの持ってるのは特別な剣だ!」

 カンスケの声が届いた。

 くそっ、何でこんな奴に特別な剣が与えられる! インバルコの残虐非道の侵略者め!

 剣風が次々音を上げてコモドを後退させる。

「ちょこまかと、ネズミめ!」

 敵将が馬を駆けさせコモドに突っ込んで来た。

 コモドは馬を避けるや鞍を片手で掴んだ。

「ちいっ!?」

 敵将が馬上で振り返る。

 コモドはその左足に向かって刃を振るった。

「ぎゃっ!?」

 敵の脚が分断される。そして敵将は落馬した。

 コモドは鞍から手を放し、地に降りると敵将目掛けて駆けた。

「ま、待て!」

 敵将が足を失った痛みで涙を流しながら言った。その哀れな顔がコモドの手を止めた。

「何をしている、コモド殿! やらんか! ロベルト殿は助からんぞ! 仇を討て!」

 カンスケの声が轟いた。

 その言葉がコモドを現実に戻した。敵将は作り笑いを浮かべている。

 コモドは歩み寄ると剣を薙ぎ払った。

 敵将の首が胴から滑り落ちた。

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