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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還40

 エクソアの艦隊は現れなかった。

 二週間にもなると人々はだんだん半信半疑になってきた。ヤトの人々はそんな彼らを宥め落ち着かせ、今日も食料を恵んでくれた。

 コモドは波止場で一人、お手製の釣り竿デラックスで海に糸を垂れていた。浮きが浮き沈みする。手応えはあまりない。コモドは餌を飲まれる前に竿を引き上げた。

 そこにはハコフグが、文字通り身体を箱型にし抗議していた。

「はいはい、めんごめんご」

 コモドはフグを針から外すと遠くに投げた。ポチャリと音をさせフグの姿は再び海の中へ消えた。

 コモドは珍しく不機嫌だった。ウルフとイシュタルのことを迂闊にも尋ねた己にもそうだったし、皆が戦友フラマンタスを信じられなくなっている様子が余計腹立たしかった。

 ウルフとイシュタルは何事も無かったように愛想よく話しかけてくれる。コモドはまだ彼らに謝罪する機会が得られない。心が定まらない。

「引いておるぞ」

 そう言われ、コモドはびくりとし、物思いに耽っていたことに気付いた。そして驚いたのは、黒い甲冑武者がそこに佇んでいたことだ。

「よっこらせ」

 甲冑武者はコモドの隣に並んだ。顔は防具で隠れていた。

「カツヨ……」

「シーッ。忍びじゃ忍び」

「では、カンスケ殿」

「そういうことだ。ずいぶん落ち込んでおるようじゃな。巷ではエクソアの援軍が現れないことに多くの者が不安と疑念をいだいているようじゃな」

「恥ずかしながら」

 コモドは愚かな民を代表して応じた。

「ああ、すまぬ、逃げられたようじゃな」

 カンスケに言われ竿を上げるとヤトの練り餌が見事に無くなっていた。

「援軍は来る。信じよ」

「え?」

「お主もまた疑念に囚われてはいけない。ワシはお主こそこの戦の影の総大将だと思っている。戦に迷いを持ち込んではいけない。その憂いのために多くの大切なものを失うぞ。今のうちに言いたいことを言って来い、行け、コモド殿」

「カンスケ殿」

 コモドはみるみる勇気が湧くのを感じた。自分が落ち込んでいたのだと思い知らされる。甲冑武者は背を向け去って行った。

 よし、俺っちのやることは二つ!

 コモドは勇躍し、長屋へ駆けた。

 ウルフとイシュタルの部屋へ行くと戸は開けられ、二人は各々の武器の刃を入念に研いでいた。ヤトの小刀もあった。

「ウルフさん、イシュタルさん!」

 コモドは外で声を上げた。

「おう、コモド殿!」

 ウルフが微笑み、イシュタルはいつもと変わりのない冷厳な眼差しを向けて来る。

「ごめんなさい!」

 コモドは声を上げて頭を下げた。

「俺っちは立ち入ったことを尋ねた。二人の仲を乱すようなことをした! 本当にごめんなさい!」

「コモドさん」

 イシュタルの声がし、コモドが見上げると彼女は、何と微笑んでいた。

「イシュタルさんが笑った!」

 コモドは思わず声を上げた。

「そうなのだよ、コモド殿」

 ウルフがイシュタルの肩に手を置き、歩んで来た。

「あの日がきっかけだった。コモド殿が去ったあと、いろいろ話した。そうしたらイシュタルさんはようやく私を信じてくれたようでな、笑ってくれるようになった」

「あなたを信じていなかったわけでは」

 イシュタルが言いかけるとウルフはその頭を大きな手のひらで撫でた。

「そうだな、お互いに信じ切れていなかった部分があったのだ。私はイシュタルさんの犯した罪をこの生が尽きた後も背負って冥界へ行くつもりだ。イシュタルさんの罪が少しでも軽くなればと思ってな」

「ウルフ……」

 イシュタルの目から涙が零れ落ちた。

「イシュタルさんはあの日から、笑うようになったし、泣くようにもなった。本当のイシュタルさんをようやく私にさらけ出してくれたのだ。だからきっかけをくれたコモド殿を責めるどころか私達二人は感謝している。ありがとう」

「コモドさん、ありがとう」

 二人の穏やかな笑顔がコモドの罪の意識を払しょくした。

「そうだったんだ」

「それよりも、コモド殿、あなたには今、やらねばならぬことがあるはずだ」

 ウルフが言った。

「うん、俺っちも二人から勇気を貰ったよ。やってくる!」

 コモドは勇躍してオルタの町中を駆けて叫び回った。

「エクソアの援軍は必ず来る! 絶対だ!」

 そのうちにアネーリオが加わり、どこからかクレハも後に続いた。ルナセーラとジェイクと共にいた子供達に至ってはヤト式の勝鬨を上げていた。

「えいえいおう! えいえいおう!」

 人々の顔にあった暗い影が少しずつ拭い去られる。コモドは声が枯れるまで、叫んで回った。

 そして言葉の力とはすごい。人々が意欲を取り戻した瞬間、波止場から声が上がった。

「船が来るぞ!」

 コモドは馬を走らせた。コウサカが小型艇で出ようとしていた。

「コウサカさん、俺っちも同道させて下さい!」

「コモド殿、ちょうどいい。エクソアの艦隊ならばあなたがいた方が話が進む。どうぞ」

 コウサカの隣に飛び乗り、三隻の小型艇は帆を上げ進み始める。

 エクソアの船は大きかった。減速し静止する。

 コウサカが尋ねる前にコモドが声を上げた。

「フラちゃん! 居る!?」

 数秒後、大きな身体が船縁から乗り出してきた。

 コウサカは驚いていた。

「エクソア大陸教会戦士団副団長フラマンタス、推参。遅れたな、コモド」

「ううん! 良いんだ、いろいろゴタゴタが片付いたからね」

 コモドは笑って応じた。声は枯れていた。

「ヤトの国主カツヨリの臣下コウサカでござる」

「フラマンタスと申します、コウサカ殿。私がこの軍勢の最大の権力を持つ者です」

「そうでしたか、では、どうぞ後に続いて来られよ。それから我が主の元へご案内いたします」

「痛み入る」

 こうしてエクソアの艦隊が援軍として無事に加わった。港に集結した人々の賑わいは物凄く、熱烈に怒ったフグのような箱型鎧の戦士達を歓迎したのであった。

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