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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還38

 アレインを出港して三日、今は無用な刺激を与えぬためエプシス大陸を迂回し、ようやく水平線の向こうに陸地が見え始めた。

「ヤトです!」

 望遠鏡を覗いていた船乗りが声を上げた。

「当たり前だ」

 帆船の船長だった男が言う。

 戻ったか。問題はこの先、俺達にツキがあるかどうかだよな。運命神サラフィーが微笑んでくれれば良いが。

 コモドはそう思い、手にしている丸められた二つの書状を一瞥する。ヤトの国主カツヨリに宛てたものだ。フラマンタスからの具体的な手紙に、彼の上司、教会戦士団団長のクシルスト姫と、ギルバート神官長の連名のお墨付きである。

「なぁ、コモド」

 隣で舵を握るジェイクが話しかけて来た。

「約束、忘れて無いだろうな?」

 その問いにコモドは小さく笑った。

「なぁ、ジェイク。あんたは立派な男だよ。俺のおべんちゃらなんか無くても、あんたの決心次第でルナセーラさんはきっと振り向いてくれるよ」

「そうかな。なぁ、コモド、誰にも言わないでくれよ。お前だから言う。俺、四十一歳だが童貞なんだ。ルナセーラさんはそれでも気に入るだろうか?」

「良いんじゃない。二人で四苦八苦しながら共同作業するのも楽しいよ」

「そうかな」

「そうだよ」

 コモドが言うとジェイクは咳払いした。

「俺、帰ったら告白する」

「応援してるよ、頑張れ、ジェイク」

 コモドは同じ里の仲間の肩を叩いた。

「ん? すると、コモド、お前は童貞じゃないのか? 相手は誰だ?」

「ヒヒ、内緒」

 すると船長が声を上げた。

「減速させろ! くれぐれもヤトの船には傷つけるなよ、信用問題になりかねない!」

 そうして船は手慣れたようにヤトの漁船が並ぶ港へと入り停泊したのであった。

 グロウストーンとグミ村、ヒューリーの者達が出迎える。成功したのかも知らないというのに彼らの歓迎は熱烈で、コモドは再び英雄になったような気分だった。

「コモドにぃ!」

 船から下りるとクレハが駆け付けて来て抱き着いてきた。

「お帰り、コモドにぃ」

「ただいま、クレハ」

 コモドは背後にいたロベルトに書状を渡しながらクレハを抱き締め返した。

「ねぇ、クレハ、ちょっと良いものが見られるよ」

「良いもの?」

 コモドの視線の先ではガチガチに固まったジェイクがルナセーラ方へとぎこちなく歩んでいた。

「ジェイク、お帰り」

 ルナセーラは好意的にそう言った。次の瞬間、ジェイクは声を上げた。

「ルナセーラさん! 俺と、結婚してください! お願いします!」

 賑わいが止んだ。深く頭を下げたジェイクが顔を再び上げ、彼は勇気を見せてルナセーラの顔を見た。

「ジェイク、アンタ、この子らの父親になれる自信はある?」

 ルナセーラの周囲には親を失った子供達がいた。

「ありますとも!」

 ジェイクはそう答えた。

「アンタとは短いけど生真面目な人だってのは分かってるから。アタイで良いのかい?」

「俺は! あなたじゃなきゃ駄目です!」

 ジェイクの熱い言葉にクレハが軽く驚きの声を上げた。

「だったら、良いよ。アタイで良ければ結婚しよう」

「おお! ルナセーラさん!」

 大柄なルナセーラが手を広げるとジェイクがその胸に飛び込んだ。そして声を上げて男泣きした。

 周囲からは温かな拍手が送られた。

「お前達の結婚式の前に、こっちを先にしてやらなきゃな」

 いつの間にか隣に並んでいたロベルトが言った。

「お父さん?」

 クレハが尋ね返す。

「お前達が並々ならぬ仲だということは何となく分かってたんだ。クレハも成人したし、お前らがそんな仲なら後は俺は可愛い孫の顔が見たいね。グロウストーンでな」

 ロベルトの言葉にコモドとクレハは顔を見合わせ、ロベルトに向き直ると頷いた。

 ロベルトはジェイクとルナセーラの方へと歩んで行った。

「良いなぁ、ああいう熱い告白もされたかったかもしれない」

 クレハが言った。

「俺っちは! クレハじゃなきゃ駄目なんだ!」

 居合わせた人々がジェイクとルナセーラに気を取られている隙にコモドは声を上げて告白した。

「コモドにぃ、それ、ジェイクさんのと一緒じゃん」

「だってああいう告白されたかったんでしょう?」

「ごめん。コモドにぃのあの時の告白もアタシは大好きだよ」

 二人は人知れず、軽く唇を重ねた。

 それから翌日、コモドと、三人の長達は、カツヨリの家臣コウサカに導かれ、カツヨリの館を訪れた。今頃はオルタはジェイクとルナセーラの結婚式が始まっているだろう。四人ともその場で祝福の言葉を述べられないことが残念だったが、老師達が代わりに述べてくれるだろう。

 勾配を馬で上り、カツヨリの館に着くとさっそく目通りが許された。

「思っていたより早かったようだな、コモド殿」

 カツヨリはフラマンタスの書面を受け取るとそう言った。

「ええ、そうですね」

 コモドは応じた。

 カツヨリが手紙を開く。数分かけて二通の手紙に目を通し終えると彼は笑みを浮かべた。

「よろしい、話は決まった。我が方も援兵千五百を出そう」

 以前言っていた時よりも多い数だった。

「ありがとうございます」

 ロベルトとパパス、ラックフィールドがあぐらをかいたまま頭を下げる。カツヨリはコモドに向かってニコリと微笑んだ。友情の笑みだ。コモドはそう感じ、同じく笑みを返して頭を下げた。

 カツヨリによれば、フラマンタス率いる教会戦士団は準備が終わり次第、ヤトの国へ来るという。三人の長達はその言葉に燃えていた。

「私も鍛錬を積まねば!」

 帰り道、ラックフィールド町長が顔と体形に似合わない言葉を発し、ロベルトとパパスを笑わせた。ラックフィールド町長が抗議すると、ロベルトが提案した。戦いに出る皆で、アメリア老師の稽古を受けようと。グロウストーンの意地の一戦を行わなければならなかったのは、この稽古が人々の心に無謀とも言える確信めいた勇気を与えてくれたからだ。今回は逃げる戦じゃない。その無謀な勇気が必要だ。四人が戻った頃には日が暮れていて、ジェイクとルナセーラの結婚式は終わっていた。

 長屋に戻ったコモドを待ち受けていたのは孤児となった子供達とクレハであった。

「どしたの?」

 コモドは驚いて尋ねるとクレハ微笑んだ。

「ジェイクさんとルナセーラさん、今日ぐらいは二人きりにしてあげたいじゃない」

 ふと、コモドの股間が熱を帯びた。そういうことだ。

「そうだね」

 コモドは欲望を振り払って子供達に言った。

「カードゲームでもする?」

 子供達は笑ってコモドとクレハを囲んだのであった。

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