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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還37

 フラマンタスがギュネやマリアンヌ姫に会わないのかと尋ねて来たが、今回は旧交を温めるために来たわけでも無く、また彼女らの妨げにならぬためにも今は固辞した。

 翌朝、キリバスと二人の兵士と合流した。

「早いですな、もう、話がまとまったのですか?」

「まぁね」

 コモドは答えた。そして馬車に乗ると、考えた。実は昨日、握手を交わした後、フラマンタスが言ったことが妙だったのだ。

 あの後、フラマンタスが何かを言いたそうに表情を変えた。やはり援軍には何か条件が必要なのだろうかと、コモドが思っていると相手は言った。

「コモド、マグナスという名前に心当たりは無いか?」

「マグナス?」

 コモドは思案した。直近でマグナスという人物に出会った覚えは無くかぶりを振った。

「どしたの?」

「あの決戦の後、俺が持ち帰った剣なんだが」

「あのフランベルジェ型の?」

 ゾンビ騒ぎの決戦の際に、コモドは実は真紅の屍術師の死を確認してはいない。フラマンタスがとどめを刺したと言う証言と、行方不明だった教会戦士団長兼、王国の姫のクシルスト様が戻って来たところしか知らない。しかし、あれ以降、ゾンビ騒ぎは起こらない。やはりフラマンタスはとどめを刺したのだ。その時に彼は一本の剣を持って合流していた。

「ああ、その剣にマグナスと記されていたのだ。そしてこの教会戦士団の資料にも部隊長マグナスという人物の戦歴が記され、部屋まであった。だが、しかし、誰もマグナスという人物については会ったことも見たことも無いという結論に至った」

「変な話だね。何か幽霊みたいだね」

「そうだな。だが、私はもしかすればマグナスという人物は存在していたのではないかと思ってもいるんだ。剣があったのが証拠だ。そのマグナスという人物はあの最後の部屋で俺と居合わせ、何か偉大なことをして、その代わりにみんなの記憶から抹消されたのではと考えている」

 フラマンタスが生真面目な表情を更に硬くして言った。

 コモドは考えるがやはりマグナスという人物に心当たりは無い。

「全て憶測だがな。すまんな、変なことを聴いてくれて。それどころでは無いと言うのに」

 フラマンタスは軽く笑みを浮かべた。

「良いんだよ。その剣があったことは事実なんだし、推理したくなるのも分かる気がする」

 そうして二人は頷き合ったのであった。

 マグナスか。

 コモドは再び思案する。

「どうなさいました?」

 キリバスが尋ねた。

「キリバスさん、マグナスって名前に心当たりがない?」

 キリバスも考え込み始めた。

「コモド殿がおっしゃりたいのは、教会戦士団の幽霊戦士のことですよね」

「そうだね」

「残念ながら覚えがございません。我らは王国の兵士でありますが、教会戦士団の幽霊戦士のことは市井にも噂で広まってますよ」

 キリバスが二人の兵士を見る。

「ええ、優れた武勇を残しているとか」

「今では教会戦士団の守護戦士とも言われてます」

 二人の若い兵士はそれぞれ答えた。

「生家とかは無いの?」

「それが、家は城下にあったんです。マグナスの部屋もありました。ですが、親兄弟親類縁者、皆揃ってマグナスという名前にも人物にも心当たりは無いと言うのですよ」

 兵士の対座している方が言った。

「神隠し」

 キリバスがつぶやく。

「だね」

 コモドも頷いた。だが、ふと考えついたことがあった。あまりにも都合が良すぎるが、それでも可能性だ。フラマンタスの言葉を思い出す、皆の記憶から消えるほどの……。コモドは知り合いの記憶を失った戦士のことを思い出していた。

 記憶から消えることと記憶を失うことは違うことだが、どうにも偶然とは思えなかった。

 イシュタルさんか。

 コモドは記憶を失った戦士ウルフを導いてきた女性の姿を思い出した。彼女なら何かを知っているかもしれない。だが、あの冷静な顔は崩れず、知らないと返されるかもしれない。

「何か思いついたようですな?」

 キリバスが尋ねる。

「うん、ちょっとね」

 コモドはそれだけ答えると、目を閉じ後は馬車が揺れるままに身を任せた。



 2



 無人の町を間に挟み、休息を取りながら六日目で港町へと辿り着いた。

「ここ何て名前だっけ?」

 エプシスと文化の違わないこの風景を見ながら、コモドは爽やかな潮風を新調した布鎧で浴びキリバスに尋ねた。

「アレインです」

「アレインか。キリバスさん、皆さん、お世話になったね」

 ジェイクらが港で待機していたのを見てコモドは別れを切り出した。

「英雄と共に僅かな時でも歩めたのですから我々にとって身に余り過ぎる程、光栄な旅路でした」

 キリバスが言うと、二人の兵士が直立し敬礼した。

「ありがとう」

 コモドは頭を下げ、彼らに背を向けた。

 ジェイクらが元海賊船に乗り込み始めた。

「コモド、お帰り! どうだった!?」

 ジェイクら船員達がコモドが甲板に上がってくるとさっそく周りを取り囲んだ。

「そ、それが」

 コモドは苦悶の表情を浮かべた。

「何てこった!? 教会戦士団に断られたとなると、俺達は一生ヤトの民だ!」

 ジェイクが絶望の声を上げ、船員達も肩を落とした。

 コモドはジェイクの肩を叩いた。

「成功したよ」

 満面の笑みで言うとジェイクらは一瞬、固まったが、言葉を理解しコモドに飛びついた。

「この野郎! 紛らわしい顔しやがって! わざとだな!? え!? わざとだな!?」

「あははは、ごめんちゃい。ちょいとどんな反応するか気になって」

「そんなこと、わざわざ見なくても分かるだろう!」

 だが、彼らは喜んだ。万歳三唱した。

「コモド殿! 御達者で!」

 岸辺でキリバスを中心に警備の兵達が勢揃いし敬礼した。

 圧巻だった。船員らは戸惑いつつ仕事に戻る。

「ありがとう! またね、みんな!」

 コモドは手を振り朗報を持ち帰れて良かったと今更ながら安堵していたのだった。

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