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コモドの帰還  作者: Lance
32/73

コモドの帰還32

 復活したヤマタノオロチを前にコモドらは瞠目するばかりであった。

 オロチの首という首があっという間にコモドらの眼前に現れた。

 開かれた大口、隙間からヨダレ滴る牙という牙、コモドは寸前のところで身を後方に跳躍し避けた。だが、オロチの首は次々コモドを追い詰める。仲間に目を向けている余裕など無かった。外れて空気を噛む音が連続で木霊する。コモドは後ろに右に左に飛び回って避けた。と、頭上から別の首が迫っていたのをコモドは今更になって気付いた。

 オロチの口がコモドを飲もうと真上から襲い掛かって来た。

 だが、その間に割って入り、長柄の得物を振るってオロチの首を退散させる者がいた。

 イシュタルであった。

 オロチは口から血を流していた。

「口の中なら通用するけれど」

 イシュタルが言った。

 彼女の言おうとしていることは分かる。ダメージが小さいのだ。怯ませられたのは運が良かった。

「二人とも、大丈夫か!?」

 離れた場所からウルフの声が響き渡る。

「大丈夫よん!」

 コモドは応じた。オロチは口を閉じた。

「火が来るわ」

 イシュタルが戟を構えた。

「イシュタルさん、逃げなきゃ! 何やってんの!」

 コモドは彼女の背後で言ったが、唖然とする出来事が起きた。

 イシュタルが戟を回転させまるで盾にすると、その巻き起こす風が、今、正に吐き出した炎を逆にオロチの顔面に直撃させていた。

 オロチが悲鳴を上げる。竜鱗は焼け焦げていた。

 オロチの炎は自らの鱗を焼いた。だが、それほどの炎はとても起こせないだろう。ここではのんびり溶鉱炉を造っている暇も無い。

「みんな、聴いて、オロチの首を誘導するわ! ウルフ、カンスケ殿、陽動して、首が絡みつくように! ジグザグに!」

「一束に絡ませようとのお考えだな! やってみよう! 行くぞ、ウルフ殿!」

「承知した! 行こう、カンスケ殿!」

 カンスケが言い、ウルフと共に地面を剣で鳴らしてオロチを挑発した。

 怒ったオロチの首が伸びた。ウルフは駆ける。別の首も程なくしてカンスケを襲った。

「コモドさん、私達も!」

 冷厳な声を響かせ、イシュタルが言い、彼女は戟の石突きを、コモドは靴の踵を踏み鳴らした。オロチの残る首が一斉に二人を襲った。

「ジグザグに動いて合流するわよ!」

 イシュタルが声を上げる。

「了解!」

 コモドは応じる。

 イシュタルを先に、二人は右に左にそれながら夢中で駆けた。

 ウルフとカンスケがこちらへ駆けて来る。首が追って来ている。

 四人は合流すると、揃って後方へ離れた。

 イシュタルの作戦通り、オロチの首はグネグネと互いの首の間を通り絡みついていた。

「コモドさん! 今しか無いわ!」

 イシュタルが声を上げるとコモドは勇躍した。そのまま首をまとめて落とすものだと思っていた。

「違う! 背だ!」

 ウルフが指摘し合流する。

 イシュタルとカンスケは絡まり合った首を剣を振るったり鳴らしたり、飛び込む様子を見せたりと陽動していた。

 無防備な背は高かった。

「コモド殿、私の背に」

 ウルフが屈んだ。脈動する大きな紅蓮に染まった鱗の身体の隣でコモドはウルフの肩に両足を着いた。そのままウルフが立ち上がると、コモドは跳んだ。

 彼はオロチの背の首の根元に着地していた。そこが、へこんでいて一番低かったのだ。

 今、首を斬ればイシュタルとカンスケを助けられる。だが、やるべきことは違う。首は刎ねても生えてくるのだから。

「俺っちはね!」

 コモドはオロチの背を駆けた。そして一際脈打つ背の上で足を止めた。

「帰って、クレハと!」

 コモドは膝をつきクサナギノツルギを振り上げた。

「子供を作ってケーキ屋をやるんだい!」

 そして振り下ろす。何の手応えもなく刃はオロチの身体を通った。だが、心臓まで刃は届かなかったらしい。

「くそっ!」

 オロチがもがき苦しむ。そこに反対側から上がったウルフが合流した。

「傷さえつければこちらのものだ!」

 ウルフは大剣を傷口に突き刺し、掻きまわすように乱暴に切り裂いた。血煙が上がる。

「コモド殿!」

「何?」

「心臓までの道は開いたはずだ!」

「え? は、はい」

 コモドはまさかの言葉に動揺し、気を取り直した。

「ええい! 血みどろアッシュになってやんよ! オラオラオラ!」

 深く広い傷口の中に潜り込んだ。熱を帯びた皮膚と体液が手に身体にへばりつく。帽子だけはウルフに預けて来た。熱く密着する身体の中を骨ごと切り裂き進み、コモドの足が大きく脈打つ臓器の上に乗った。少々暗くてよく分からないが、コモドは声を上げてそれに向かってクサナギノツルギを突き刺した。

 オロチの一際甲高い悲鳴が聴こえた。赤い光りが頭上で明滅する。

「掴まれ!」

 ウルフが手を差し出した。

 コモドが跳んで手を伸ばすと、ウルフは片腕だけでコモドをヒョイと持ち上げた。

 光り輝いていた赤が暗くなったり赤くなったり激しく点滅している。

「二人に合流しよう!」

 ウルフが言い終わった瞬間、ヤマタノオロチは最期の咆哮を上げてドシンと落ちた。そして徐々に周囲が暗くなり始めた。ウルフが松明に火を灯す。離れた場所でもう一本の松明が見えた。

 ウルフと共に崩れ落ちたオロチの背から飛び降りる。

「よくぞやってくれた、勇者コモド殿!」

 松明を左右に振り回しながらカンスケの声が言った。

「いいや、俺っちだけじゃこうはいかなかった。ウルフさん、イシュタルさん、カンスケ殿、御助力感謝致します」

 コモドは丁寧に礼を述べた。実際言葉通りだ。首を封じたイシュタルとカンスケ、心臓までの傷口を掘り進ませたウルフ、幾ら弱点を手にしているとはいえ、小柄なトリックスター一人ではこうはないかなかった。

「本当にオロチは死んだのかな?」

 コモドが誰ともなく尋ねる。

「目から光りが失われたのが証拠だ。貴殿は、いや、我々はやったのだ。ヤマタノオロチを討伐したのだ」

 カンスケが嬉しそうに言いコモドの肩を叩いた。コモドは身体中に着いたオロチの粘液が固まりつつあるのを感じた。

「カンスケさん、カツヨリ様の館に行ったらお風呂に入れて頂戴ね」

「それぐらいお安い御用だ! さぁ、帰ろう。皆に知らせねば。安心せい、帰路は分かっている!」

 カンスケが言い、コモドらはその背についていった。

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