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コモドの帰還  作者: Lance
31/73

コモドの帰還31

 荒れ狂う刃を避けに避けた。

 ここで片を付けてしまおうか。

 コモドは何故かシグマを殺したいとは思えなかった。ゲッブの屋敷で手下どもを殺したというのに、この男を斬ることに何故、躊躇いを覚えるのか。名を知ってしまったからだろうか。どこの誰とも分からない男ではなく、シグマという名の傭兵だと分かってしまったからなのだろうか。

「コモド殿、何をしている! 敵は隙だらけではないか!」

 カンスケが声を上げる。尤もだ。シグマはただ暴力を振るうだけの人形となっている。その軌道を、動作を見破るのは容易い。

 コモドの苦悩など知らずに額から鮮血を巻き散らし、シグマは唸り、吠える。

 乱暴に大上段に剣を構えた。その時だった。

 広くなった洞窟の底から物凄い速さで向かって来る影が見えた。と、思った瞬間、そいつはシグマを一飲みにしてしまった。

 真っ赤な眼光が宙で煌めく。

「来たぞ、皆、オロチだ!」

 カンスケが声を上げ片刃の剣を抜く。ウルフは腰から吊り下げていた大剣を、イシュタルは戟をそれぞれ構えた。

 シグマを飲んだオロチの首は瞬く間に地の底に戻って行った。まるで、何事も無かったかのように静寂が包んだ。

「あれがオロチか。速いな。カンスケ殿の言う通り、首は無限に伸びる様だ」

 ウルフが言った。

「更に底へ下り、オロチと対面を果たそう。奴の弱点は八本の首が生えている胴体。心臓だ」

 カンスケが言い、彼はコモドの肩を叩いた。

「残念だが、先ほどの狂人は生きてはおらぬであろう」

「そうだね。これで良かったんだ」

 コモドはシグマの冥福を祈った。

 そのまま前方を警戒しながら広く天井が高くなる洞窟を進む。

 赤が濃くなってきた。

 コモドは足を止めた。

 畏怖されるような眼光が彼を捉えていた。ヤマタノオロチは洞窟内の広大な石の広場に四つ足で立っていた。

 オロチの甲高い咆哮が轟いた。思わずコモド達は耳に手を当てていた。

「何という吼え声だ!」

 ウルフが吐き捨てる。

「コモド殿、クサナギノツルギを。忘れてはおらぬだろうな、唯一奴に通じる武器だ! 勇者よ、頼むぞ!」

 カンスケが雄叫びを声を上げて剣を手にオロチに向かって行く。

「イシュタルさん、我々も!」

「ええ」

 ウルフと、イシュタルも後に続く。

 ウルフらは八本の首と聳え立つ灼熱色の胴体を前に各々武器を繰り出し、牽制している。

 コモドはクサナギノツルギを抜いて駆けた。

 みんなが敵を引き付けている間に!

 一つの首が目ざとくクサナギノツルギの銀光を見たかと思った瞬間、眼前には大口が伸びていた。

「おわあっ!?」

 コモドは思わず驚きの声を上げ、クサナギノツルギを振るっていた。

 刃はオロチの顎を深々と切り裂いていた。まるでそんな感触は無かったというのに。

 右手に剣、左手に大切な鞘を持ち、落ち着きを取り戻しながらコモドは首へ斬りつけた。

 だが、オロチの首は引っ込んだ。

 そしてオロチの全ての首は炎を吐き出した。炎の壁のように迫り、三人は後ろに下がって合流していた。

 ウルフらは固まって移動した。賢明に駆ける背を炎は執拗に追っていた。

「コモド殿!」

 ウルフが声を上げた。

 やべっち! 見惚れてる場合じゃないなかった!

 三人が首を引き付け、胴体はがら空きだ。コモドは一気に距離を詰めた。だが、尾が襲ってきた。コモドはクサナギノツルギを信じ上段から振るった。尾が半ばから分断され、熱い血がコモドの顔面に降りかかった。

 オロチが悲鳴を上げる。炎が止み、ウルフらは耳を塞いでいた。

 今のうちに!

 コモドはオロチの胴体を掴んでよじ登ろうとした。

 だが、オロチの首が二本瞬く間に迫り、コモドを噛み殺そうとした。

 氷柱のように生え揃った牙の列を彼は見て後方へ飛ぶが首は入れ代わり立ち代わり襲って来る。

 せっかく、ウルフ達が作ってくれた隙を逃した。

 だが、コモドはクサナギノツルギを振るい、オロチの顔面を切り裂いた。鼻面を縦に割った。クサナギノツルギは効果覿面だ。だったら!

 コモドは襲い来る首を次々避けて斬りつけた。

 オロチの首達が悲鳴を上げる。

「やれる」

 コモドは確信し、空を噛むあぎとを避けて一本の首に剣を突き立てた。

 クサナギノツルギは抵抗もなくスルリと引き込まれる様にオロチの鱗を割り肉を破った。引く抜く。暴風雨のように血の雨が降り注いだ。

「傷さえつければ! もしかすると!」

 ウルフがコモドの隣に駆け付け、空中を漂う血を降らしている首が下りてくると同時に傷口に大剣を差し込んだ。

 オロチが再び悲鳴を上げる。

「通じる! 通じるぞ!」

「何と!?」

 歓喜するウルフと驚くカンスケの声が聴こえた。

「コモド殿、皆! オロチを斃すにはこの八本の首が邪魔だ。コモド殿が傷つけた後を残る我らで裂こう!」

「よし!」

 カンスケが頷き、イシュタルは臨戦態勢に入っていた。

「つまり、俺っちは?」

「裂いて裂いて裂きまくれ! コモド殿!」

 ウルフの激励するような声を受け、コモドは頷き、次々向かって来る首や顔を切り裂いた。

 コモドは邪竜の血を浴び、頭から爪先まで血みどろになっていた。夢中になって、飛び込み、首を、顔を裂いて回る。ウルフが、イシュタルが、カンスケが、洗練された技で傷口を更に深々と裂く。オロチの悲鳴は止まなかった。

「あのオロチに我が太刀が傷を付ける日が来るとは思わなんだ」

 カンスケは嬉しそうにオロチの傷という傷に寸分の狂いもなく剣を差し込んだ。血が噴き出す。

 そんな中、コモドの全力の一刀がオロチの首を分断した。

「良いぞ、コモド殿!」

 ウルフが声を上げた。

 クサナギノツルギはオロチの太い強固そうな骨を泥のように切断した。コモドは感触が無いことが信じられない思いだったが、声を上げて、次々向かってくるオロチの首に傷を刻む。

 イシュタルがコモドの傷を頼りに一本の首を半ばまで切り裂いていた。

 この戦い、勝てる。

 コモドがそう思った時だった。

 周囲の赤色が一段と光り輝き、オロチは眼光を漲らせ、甲高い咆哮を上げた。

 途端に切断面から新たな首が生え、生傷はあっという間に竜鱗に塞がれた。

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