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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還30

 明くる朝、オルタで人々に見送られ、迎えに来たコウサカと共にウルフ、イシュタルと館へと上がった。

 カツヨリは赤を基調とした正装で現れ、コモドにクサナギノツルギを差し出した。

「ヤトの命運貴殿に託したぞ!」

「必ずや」

 コモドは頷いて受け取った。クサナギノツルギは軽く。腰に差していて落としたら気付ないかもしれない。そう思わせるほどだ。何せ家宝だ。先祖代々受け継がれてきた。その重みがコモドの双肩にのしかかり、軽かったはずのクサナギノツルギが重く感じられた。

 戦場となるホウレイ山までは再びコウサカが先に走って一同は馬上の人となった。

 遠くで見て近く感じるが、いざ、目指すとなると、まるで山は遠かった。一時間ほどで到着すると、赤い甲冑「武者」達が、コウサカを見つけて頭を下げた。

「ゴロウモリノブ殿は?」

「私ならここだ、コウサカ殿!」

 現れたのはコモドよりも若いが精悍で溌溂とした顔つきの武者だった。ロッシにも負けない見事な黒い馬に跨っている。

「そちらが、勇者殿か?」

 モリノブの問いにコウサカは言った。

「こちらが勇者コモド殿。お供のウルフ殿とイシュタル殿です」

「お初にお目にかかる。ゴロウモリノブだ。守備隊の総大将を務めている」

 コモドとウルフ、イシュタルは軽く頭を下げた。

「それで、状況に変化はございましたか?」

 コウサカが問う。

「いや、あの大敗以来、お館様の言う通り、無駄な兵は差し向けていない。オロチの気性を荒げてしまう故な」

「なるほど」

 モリノブの言葉にコウサカが頷く。ここまでコモドらは蚊帳の外だった。

「だが、一つ案じていることがある」

 モリノブの表情が曇った。

「何がありましたか?」

 コウサカが再び問う。

「妙な男が一人、洞窟の中に入って行ったのだ。止めようとした兵は振り回され、取り付く島もない。見たところ、コモド殿、貴殿らの国の者のようにも思えたがな」

 その言葉にコモドとウルフは顔を見合わせた。

「グミ村の誰かかな」

「人選に不満で無謀にも一人で挑んだということか?」

 コモドとウルフは、その謎の人物にまるで見当がつかなかった。イシュタルは表情を崩さず山のぽっかり空いた狭い入り口を見ている。

「ただ、物狂いなのか、うわ言を呟いて入って行った」

 そこまで言われても誰なのかコモドもウルフも分からなかった。

「ひとまずは、その人物を連れ戻すためにも我々は行きます」

 コモドが言うとモリノブとコウサカは頷いた。

「よろしくお頼み申す」

 そして多くの兵が見守る中、三人は人一人が通れる入口へと入って行った。



 2



 狭い道が続く。松明を頼りに進もうかと思ったが、何の力が働いているのか知らないが、洞窟内は赤い光りで照らされていた。

 コモド、イシュタル、ウルフで続いたが、ふと、三人は足を止めた。

「誰?」

 コモドはそう言い振り返る。

 そこには黒い甲冑に身を包み、コウサカのように顔を防具で隠した武者がいた。

「それがしの名はカンスケと申す」

 だが、コモドは看破した。声を無理に変えようとしても、誤魔化されはしない。

「カツヨリ殿、こんなところまで御家の主が来てしまって良いのですか?」

 ウルフとイシュタルの間を進み、コモドが言うとカンスケは笑い声を上げた。

「何をおっしゃる、それがしはカンスケ。と、言うことにしておいて下され。ご安心召され、武芸には心得がござる」

 カンスケはヤトの甲冑の胸を得意げに叩いた。

「無茶はなさらないでくださいね」

「心得た」

 そうしてカンスケを加えてコモドらは洞窟を行く。

 赤い光りに導かれる様に進むと、少しずつ道幅が広くなってきた。

 四人の足音、カンスケの甲冑の揺れる静かな音が洞窟内には無遠慮に響き渡っていた。

「オロチは起きている。今更、足音を忍ばせても無駄である」

 最後尾からカンスケが三人に向かって言った。

 それから列は入れ代わり、コモドとカンスケが先にウルフとイシュタルが後にという順列になった。

「ここから先は徐々に洞窟は広くなってゆく」

「オロチをご覧になったのですか?」

 ウルフがカンスケに問う。

「ああ、見た。デカい、赤い双眼に八本の首。それとなく感じる邪気、まさしく魔物であった。この洞窟を照らす赤い光りは、彼奴目の目が照らしておるのだ。貴殿らは信じるか?」

 カンスケが三人に尋ね返した。

「信じ難いが……」

 ウルフが辛うじてそう応じた。

「ハッハッハ、そうであろうな。その長首は無限に伸びるぞ、気を付けよ」

 カンスケは笑った後に、冷めた声でそう警告した。

 沈黙の中、甲冑と四人の足音だけが聴こえていたはずだが、コモドは足を止めた。

 カンスケが一歩進んで止まった。ウルフとイシュタルも停止した。

 聡いコモドの耳は聴いていた。地の底から足音がだんだんだんだんと、大きくなってくる。

「オロチのものではないな」

 カンスケが言った。

「先に入ったという我々の同胞か?」

 ウルフが言った時だった。

「コモドォォォッ! ウワアアアッ!」

 まだ出会っていないが、オロチ顔負けの大音声を響かせ、前方から猛然と一つの影が突っ込んで来る。

「生きてたのね」

 コモドは半ば呆れていた。

「何者だ、あやつは?」

 カンスケが問うが、ウルフが後ろに引っ張った。

 シグマは額の傷口から血を吹き出しながら迫るや、一閃した。

 コモドは短剣で受け止めた。

「こんなところまで。少し、しつこいんでない、シグマさんや?」

「コモドォォォッ!」

 血走った真っ白な目を見開き、コモドを頑と睨み付けながら重き唸りを上げる報復の刃が襲ってきた。

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