表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コモドの帰還  作者: Lance
21/73

コモドの帰還21

 真夜中、コモドは寝室に忍び込んだクレハと向き合っていた。彼女の来訪は眠気を吹き飛ばしてくれる。もはやコモドは大歓迎だった。

 妹分から恋人へと関係が進み、今では気付けば彼女のことを考えていた。

 二人はベッドで向かい合っていた。闇の中だが、おそらくはそうだ。

「コモドにぃ。大好き」

 クレハがコモドに口づけしようとした時だった。

「コモド兄ちゃん、誰かいるの? クレハの声が聞こえたけど」

 隣室のアネーリオが入り口に立っているようだ。

「何やってるの?」

 素朴な疑問に答えたのはクレハだった。

「こ、これはね、夜襲に備えたお稽古なんだよ!」

「そうそう」

 少年が人一倍、夜に関して過敏だったことをコモドは思い知らされる。彼を責めることはできない。エクソアの経験が彼をそうさせてしまったのだから。

「俺もその稽古に混ざって良い?」

 その声にコモドとクレハは闇の中で顔を見合わせた。二人は答えに窮した。少年が一歩、部屋へ足を踏み入れた瞬間、クレハが飛び跳ねた。

「これは一対一でやる訓練なの。今日はおしまい。さぁ、良い子だから寝て寝て。今度はアンタを襲っちゃうかもしれないよ」

「その時は返り討ちにするよ。じゃあ、おやすみ」

 少年は去って行った。

 二人は同時に溜息を吐いた。

「クレハ、今日はこれまでね」

「うん。もう少しだったのにな。じゃあね、コモドにぃ」

「うん、クレハ」

 二人は軽く口づけを交わした。クレハは堂々と入り口から出て行った。




 2




「今までありがとね、カラカラ」

 長らくコモドのペットであったトカゲのカラカラが再び自由の身となり、別れも惜しむ様子も無く茂みへと消えて行く。薄情かもしれないが、トカゲの自由を奪ってきたのは自分であるためコモドには何も言えなかった。ただ、若干寂しかった。

 エクソア大陸の教会戦士団副団長フラマンタス宛てに手紙を出し終えると、コモドは手持無沙汰になった。

 今頃、村長宅では老師と村長、グミ村と港町ヒューリーの代表者達がコモドの知らせを聴いている頃だろう。クレハは給仕に勤めているかもしれない。クレハのことを考えるとどうにも気が休まらなかった。特に股間の熱と膨張が著しかった。

 集会所まで行くと、まだ何も聴かされていない年寄りと幼い子供達が春の陽だまりの中、話したり遊んでいたりしていた。

 少しの間こことお別れする。年寄りに関わらず村人達は頑なに反対するだろう。村の守護霊、精霊神様を見捨てるのかと。自分達の村をむざむざ渡すものかと。それは戦ったことが無いから言えるのだ。殺し合いを経験するどころか、見たことすら無いからだ。命の取り合いがどれほど恐ろしいものか、無力な民が戦士達に圧倒される様を一度体験させるしか道はない。

 そろそろ徴兵令が発令されるだろう。クルーは負ける。崩れる前にコモドはグロウストーン村やグミ村、港町ヒューリーから徴兵された人達をまとめ上げて戦場から逃げなければならない。無断退却は極刑だが、負けるのを待っている義理もない。愚王と無能な貴族達、利と欲にしか興味の無い将軍らが混迷極まる戦いを勝手にしていれば良い。

 だが、事態はコモドの予想よりも早く動いた。

 翌日、昼前に東門のジェイクが慌てて駆け声を上げまわっていた。

「王都からの使者だ! 王都からの使者様が来なさったぞ!」

 誰も彼もが手を止め、道を譲る。コモドはクレハと共にケーキを焼こうとしていたが、窓から見えた光景、聴こえた声に、ゾッとし慌てて外に出た。

「王都からの使者ってことは」

 隣でクレハがコモドの手を握っていた。

「大丈夫、大丈夫だよ。集会所に行こう」

 集会所の大きな建物の前に立派な外装をした馬が一頭止まっていた。その前に使者の兵士がいる。

「控えよ、我は王の使いなり。我が言葉は王の口から発せられたものと心得るべし」

 その言葉に村人達はそれぞれ顔を見合わせるばかりであった。

「控えよ! つまり頭が高いとうことだ!」

 使者の兵士は側にいた婦人を殴りつけた。

 村人達が一気に激昂するのをコモドは感じた。

「皆、跪くのだ」

 ロベルト村長が駆け付けそういうと、見本を示すように真っ先に両手両膝を地面についた。

 アメリア老師とヌイ、アネーリオは老師の家にいるらしく、姿は無かった。

 コモドとクレハも平伏すると、兵士はようやく満足げに鼻を鳴らした。

「五日後、十五から五十までの年の男は王都に集結するように。諸君らは愚かなインバルコを倒す光りの兵士として認められた! 以上だ!」

 村人達がざわめく。

 勝てるのか、どうか。そう口にするものが多かった。使者の兵士が去った後も集会所から人は途絶えることは無かった。だが、村人達は次第に顔を明るくさせた。老師のもとで稽古を積んだ自分達は並の兵士とは違う。そう確信めいた声が各地で上がる。ロベルト村長はコモドと顔を見合わせた。その顔がこの場で明らかな負け戦であることを告げるかどうか躊躇っていることを示していた。少なくともロベルト村長は自分のカリスマ性よりも上の人間の口からその言葉を聴かせるべきだと思っているようだ。そうでなければ、彼が言うだろう。

 満を持してアメリア老師とヌイ、アネーリオとルナセーラが来た。

「静粛に!」

 老師の一声で村人達はざわめくのを止めた。

「良いかい、よくお聞き。この戦、負けるよ」

 何故だ。と、口にする者はいない。老師の次の言葉を待っているようだ。

「男衆が戦場から逃げ戻って来たら、私達はこの村を一時去る。安心しな、一時だけだ」

 すると反対の声が上がった。

「いくら老師のお言葉とは言えど、村を加護してくれている精霊神様をお見捨てなさるのは納得できない!」

「そうだ! ここはあたしらの村だ! あたしらで守るんだ!」

「応っ!」

 残念ながらコモドらが予測した筋書き通りになってしまった。殺し合いを知らないからそんな強気なことを言えるんだ。腕を失い、身体を貫かれ、脚を砕かれ、ようやく自分達の無力感に気付くのだろう。だが、村人達は男も女も老人も子供も熱狂し士気は上がるばかりであった。

 やはり一戦交えるしかないようだ。

 アメリア老師とロベルト村長が溜息を吐いていた。

 だが、まずは戦場で生き残ることが先決だ。コモドはウルフの姿を見つけると彼に事情を話すために歩んで行った。ウルフなら戦場でも頼りがいがある。記憶の無い彼に対してコモドは何故かそんな思いを抱かずにはいられなかった。

「ウルフさん、実は」

 イシュタルと冷静に事態を見守っていたウルフは既に意思を固めていたようだ。

 コモドはクルーが負けることと村人達を戦場から脱出させることを話したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ