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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還2

 コモドとアネーリオ、ウルフと連れのイシュタル、それに帆船の船員三名が無人になった海賊船に乗っている。

 折り重なる死体の山々を見て、アネーリオは怖じ気づく様子はなかった。イシュタルは静かに祈りを捧げていた。

「どうして祈るの?」

 アネーリオが不満気にイシュタルに尋ねた。

「全ての死者は平等に扱われなければなりません。天に昇った魂には神々が裁きを下すでしょう」

 イシュタルは再び祈りを始めた。アネーリオは不服そうで今度はコモドに尋ねた。

「この死体、海に捨てないの? 百体近くあるけど」

「海には海の魔物がいるのさ。そいつを呼びよせちまう。ドラゴン級の敵とまた絶望的な戦いをしてみたい?」

 約一年前、北の大陸をゾンビで騒がせていた首謀者、真紅の屍術師はドラゴンをも使役していた。コモドとアネーリオは共に立ち向かったが、かなわず、コモドがドラゴンの尻を突き刺して、驚かせて退散させるという運任せの戦術で辛くも自分達は命を繋ぎとめた。

「海の魔物ってどんなのがいるの?」

「足がたくさん生えた大きな化け物、翼は無いけど海の竜とも呼ばれるシーサーペント。代表的なのはそんなところかな」

「リヴァイアサンは?」

「ああ、海の神の化身として崇められてるね。次の港町で石像見られるから、その間に、少年がやるのは船の操縦の仕方を船員に教わることだな。こんな機会は滅多にないぞ。行っておいで」

「分かった」

 アネーリオは駆けて行き、程なくして舵を操る船乗りと接触していた。

「さて……と」

 コモドは歩み出し、ウルフを探した。

 彼は船尾で帆船を見張っていた。

「最終的にどのぐらいいけたの?」

「六十八かな」

「わぉ、負けたね。五十七だ。この差はでかいね」

「何故、短剣を使わなかったのだ?」

 ウルフは鋭く指摘した。そう、コモドは長らく腰にある短剣術を得意としていた。それが、ゾンビ騒ぎの中、ゾンビに接近して血を浴びる懸念を覚え、長剣を扱うことにしたのだ。正直、まだまだしっくり来ない。

「やっぱり動きが染み付いちゃってたかー」

 コモドは笑うしかなかった。

「で、ウルフさん、あんた達、何しに次の大陸に渡るんだい?」

「私達は落ち着ける場所を探しているんだ」

「家を建てたいわけね?」

「そういうことだな」

「何か条件はあるの?」

「そうだな、イシュタルは静かに暮らしたいと言っている。農業を侮るわけでは無いが、私も畑を耕して暮らしていければ良いかなと思っている」

「ふむふむ」

 コモドは頷いて提案した。

「だったら俺っちの故郷に来ない? 森に囲まれた小さいわけでは無いけど村だよ。ちょうど、里帰りするところだったし」

 コモドが言うとウルフは微笑みを浮かべた。

「あてもないし、御同道させてもらおうか」

「そうしな、そうしな」

 コモドは心から歓迎した。だが、彼にも考えがあってのことだった。今、この大陸は冷戦の真っただ中である。西のクルー王国と東のインバルコ帝国で大陸の覇権争いをしているのだ。表では見えないが、密偵を放てばどちらの国も戦争の準備をしていることが分かるほど、均衡が危うくなっている。そんな時にウルフという戦士がいるのが心強かった。



 2



 西部の港町ヒューリーに到着した瞬間、港の人々は慌てて駆け去って行った。

 それもそうだ、海賊船が到着したのだから。髑髏のマストはまだ畳まれていなかった。

 衛兵隊が装備を固めて駆け付けてくるが、帆船の船長が慌てて事情を説明し、事なきを得た。

 あとは交易の盛んな元の町に戻っている。

 コモドは久々にこの大陸の大地を踏んだことに軽く感慨を覚えていた。何せ、一度ゾンビになりかけたりもしたからだ。それだけ一年前の旅は過酷だった。

「コモド殿、歩いて行くのか?」

 ウルフが尋ねてきた。

 アネーリオとイシュタルは姉と弟のように海の守り神、リヴァイアサンの石像を眺めていた。

「乗合馬車が出てるはずだから、乗ってくつもりだよ」

 コモドが言うとウルフは頷いた。

「それにしても、この賑わいを見ていると、戦争が起きるなんて信じられないな」

 その言葉にコモドは苦笑した。

「隠すつもりはあったんだけどね」

「良いんだ。平和は自分達で掴み取るものだ。共に頑張ろう、コモド殿」

 ウルフの答えにコモドは胸が熱くなった。何て気持ちの良い漢だろうか。これほど言い切れる自信を彼は持っている。

「グロウストーンって言うんだ」

「ん?」

「俺っちの村ね」

「グロウストーンか」

 程なくしてアネーリオとイシュタルが戻ってきた。

「リヴァイアサンはどうだった?」

 コモドが問うとアネーリオは頷いた。

「デカかった」

 その通り、ここには五メートル台に縮小されたリヴァイアサンの石像がある。昔々の目撃者の情報によれば三十メートルはあるという。そう石碑に記されている。雷と竜巻を呼び、海を脅かす者達を退けてきたという。

 四人は早々と港町の馬車乗り場へと歩んで行った。その最中にウルフがイシュタルにグロウストーンに居を構えないかと? と、半ば説得していた。イシュタルの返事は素っ気なくは無かったが、静かな声で、「あなたが私を守ってくれるなら」と、応じていた。

 ウルフがこっそりブイサインでコモドに結果を教えてくれた。

 馬車は六人掛けの馬車で、もちろん、扉も屋根もある。

「うわぁ、凄い馬車だよ」

 アネーリオが感嘆した。

「ここは俺っちに奢らせてちょ」

 コモドが言うとウルフは財布に伸ばしていた手を止めた。

「すまん、そうしてくれると助かる。職にも就かず旅暮らしだったようだからな」

 ウルフが困ったように笑った。イシュタルは澄まし顔だった。

「ようだから?」

 アネーリオが聞き返した。

「実は、私は記憶が無いのだ。自分の故郷も、どう生きてきたのかも分からない。そこを彼女に救われた。一つ分かったことは、私は両手持ちの剣を扱うことに長けていたらしい」

 記憶喪失であれほどの戦いぶりを、感覚で見せ付けるとは驚くね。

 コモドは感心しつつも、ウルフを哀れんだ。

「ここからだよ、みんなで思い出、作っていこうよ」

「ありがとう、コモド殿」

 ウルフはそう言い笑顔を見せた。

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