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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還15

 まるで罪人のような扱いだった。牢獄ともいうべき格子状の部屋は五部屋あり、女や子供達が身を寄せ合って、震えていた。

「クレハ、頼むよ」

「うん。皆さん、助けに来ました。落ち着いて下さい。順番通りに鍵を開けますので」

 捕まった人々が驚く声を上げる中、コモドは既に錠を一つ破っていた。急いで次の牢獄に向かう。だが、捕まった人々の気持ちをコモドとあろう者が読めなかった。アネーリオが扉を開くと我先にと人々は外に出て、大きな明かりが漏れている場所。つまり、階段目指して殺到して行った。

「皆さん、落ち着いて!」

「アンタら、落ち着いて! 今出て行ったら!」

 だが、人々はクレハの声を無視し、ルナセーラを押し退けると一目散に階段を上がって行った。

「何だ!? 脱走だ!」

 上の回で笛の音が鳴った。

 ルナセーラが駆け上がって行った。

 コモドは逡巡した。他の牢を開けるのが先か、頭上の敵を駆逐するのが先か。結論を出したのち、未だ牢に捕まっている人は見捨てないでくれとコモドの背に歎願していた。

「クレハ、少年、上を片付けるよ!」

「分かった、コモドにぃ!」

「おばちゃん!」

 三人が駆け上がると、三十人ほどの捕まっていた女子供の前に正装の番人達が現れ取り囲んでいた。

 先頭には剣を抜いたルナセーラがいる。

「姉御、これはどういうことですか?」

「悪いね、アタイは奴隷商人の手先から足を洗うことにしたよ」

 コモドらが並ぶと頭上から声が聞こえた。

 二階から手すり越しに見下ろす肥えた男がいた。

「ルナセーラ! 散々雇ってやった恩を忘れたのか!?」

「うるさい! 汚いことばかりやらせやがって、何が恩だ!」

「うぬぬぬ、殺せ! 全員殺してしまえ! シグマはどこだ!?」

「ここに」

 その声はいやに小さく低い声だったのにも関わらずよく聞こえた。

 入口の方から男が歩んで来る。歩みながら剣を抜き、切っ先をこちらへ向けた。

「ルナ、裏切るんだな?」

 青い髪を後ろに縛った男が、細い手で大剣を軽々掴んで静かに詰問した。

「そうだよ、世話になったね兄貴」

「そうか。残念だ。殺せ」

 ゲッブよりもシグマの声と存在感の方が優っているようにも思えた。番人達が斬りかかってきた。

 ルナセーラがまず一人を仕留めるのに続き、コモドも二刀流で応戦した。クレハとアネーリオもそれぞれ、相手をしている。だが、二人に人を斬れるのかが問題だった。

 捕まっていた人達の悲痛な叫びと、ゲッブの叱咤する声が聞こえる中、コモドはクレハとアネーリオを気にしながら、小柄な体躯を生かして敵の懐に飛び込み、喉を掻き切っていた。

「何をしておる! シグマ! やれ! 殺してしまわんか!」

 シグマに向かってアネーリオが斬りかかった。

 剣と剣がぶつかった。

「ちっ、お前の首は俺が取る!」

 エクソアのゾンビ騒ぎが彼に殺しを躊躇させる心を取り払ってしまったのかもしれない。少年は次々必殺の一撃を繰り出した。

「お前がおばちゃんを困らせる! おばちゃんは俺にとってお母さんみたいな人だ! みんなと村で暮らすんだ!」

 そんな鍛え抜かれた一撃をシグマは冷静に避け、捌くや刺突を繰り出した。

 少年の右肩に刃が突き立った。

「邪魔だ、小僧」

「この!」

 アネーリオが斬りかかると、その手を引く者がいた。

「坊や、ありがとう。だけど、こいつの相手はアタイがするわ」

 ルナセーラが剣を大上段に構えた。手下は既に死んでいる。クレハもまた斬ったらしく、荒い呼吸を繰り返し、血に濡れた短剣を見詰めていた。

「おばちゃん、ダメだ! こいつは強い!」

「安心しなよ、おばちゃんだって強いんだから」

 ルナセーラはそう言うと、咆哮を上げてシグマに襲い掛かった。

 鋭利な一撃が風を巻き起こし、鉄と鉄がぶつかり合い火花が散る。

「シグマ! 早く仕留めんか!」

 ゲッブが二階で喚く声だけが虚しく轟く。

 しばし打ち合っていた二人は互角のようにも見えた。だが、コモドには分かっている。シグマの方が優勢だ。敵は妹分に情けを掛けているのかもしれない。

「ルナ、今からでも遅くはない。戻れ」

「お断りだよっ!」

 ルナセーラの咆哮と共に薙ぎ払いがシグマを襲う。だが、シグマはそれを剣で跳ね上げた。

 ルナセーラの手から剣が離れ、天井にぶつかって床に落ちた。

「しまっ!?」

 その時にはルナセーラの眼前に鋭い刺突が迫っていた。

 甲高い音が木霊する。

「ぬ?」

「へへっ」

 コモドは間一髪割り込み、二本の短剣で敵の力強い一撃を防いでいた。

「コモドにぃ!」

 クレハが声を上げる。

「シグマさん、お命頂戴いたしますよ」

 剣が離れるとコモドは後方に引くわけにもいかず、間合いを詰めてどうにか相手の懐に飛び込もうとした。だが、シグマは間合いに入らせてはくれ無かった。

 シグマの冷徹な眼光はこれまでに出会った誰よりも底冷えするようなものだった。

 力に溢れた一撃がコモドを襲う。コモドは屈んだり、飛び越えたりしてどうにかやり過ごしてたが、シグマはすぐに適応してきた。

 これは不味いな。

 コモドの額から冷汗が流れ落ちた。

 と、シグマの何度目かの疾風のような刺突がコモドの喉を狙っていた。

 コモドは眼を見開き、顔を反らして避けると、力いっぱい短剣を投げつけた。

 短剣はシグマの額を突き破っていた。

 シグマの身体が痙攣し、崩れ落ちる。そのまま動かくなっていた。

「コモドにぃ!」

 クレハがコモドに抱き着いた。

「クレハ、まだだよ」

 コモドは二階を見上げた。

「おい、次はお前の番だ!」

 と、思ったがゲッブの姿は無かった。

「アタシ、兵士を呼んで来る。地下の証拠さえ見せれば、ゲッブの悪行だって無かったことにはできないよ」

「頼むよ、クレハ」

「うん!」

 クレハは駆けた。と、シグマの右腕がその足を掴んだ。

「シグマ!?」

 ルナセーラが驚愕の声を上げる。

「まだ!?」

 コモドも思わず上ずった叫びを出してしまった。

 シグマは起き上がり、クレハを持ち上げる。が、再び崩れ落ちた。

 クレハが脱出する。

「首、刎ねた方が良いんじゃない?」

 アネーリオが緊張した面持ちで提案する。

「死んでるよ」

 コモドはシグマの首に手を当てて確認した。クレハはそのまま走り去った。

 これで一つ目の仕事が片付いた。コモドは息を吐いたのだった。

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