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コモドの帰還  作者: Lance
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コモドの帰還12

 烈風。

 大振りの曲剣が眼前を過ぎる。

 女の剣の腕前は舌を巻くものがあった。かろうじて身をかわしたコモドの頬を切っ先が掠めた。

 薙いで突いての後は素早く剣を戻し、コモドの居る場所を次々切り裂いた。

「ええい、ちょこまかと、逃げるだけかい、正義の味方さん!?」

 挑発にも聴こえるが苛立ちが募っている声だった。力はあるし、動きは良いが、体力が無い。女は息を荒げていた。こりゃ、老師のところの階段上らせたら面白そうだな。

 剣閃が月光を受けて煌めく。

 さて、そろそろ決めますか。

 突きの下を掻い潜り、コモドはヒョイと外に出ると背中から女の身体を掴み、短剣を喉元に突き付けた。

「降参なさいな」

「くっそ!」

 女が暴れようとするのでコモドは慌てて左手で女の身体を強く押さえた。

「ちょっ、どこ触ってんだい!?」

「そんなこと言われてもね、手を放すわけにもいかないのよ。今なら良い匿い先を教えて上げるから、降参なさいな」

 女は観念したように剣を捨てた。

 すると、男達が気付き、声を上げて逃げて行った。

「ああ、待て! この玉無しども!」

 女が声を上げるが男達は闇へと消えてしまった。

 コモドは手を放した。途端に女は素早い動作で剣を掴み取り、転がって、身構えた。

「アハハハハ、一瞬の油断だったね」

「そうだね。で、どうするの? 逃げるの?」

「作戦が失敗したんだ、当たり前だろ! じゃあな、スケベな小男!」

 女は走り出した。

「ふーん」

 コモドも後を追いかけた。

 女の背がどんどん近くなってゆく。コモドの足の速さもあるが、女自身がバテバテの状態なのだ。なので、ついに小走りになってしまった女に並走するのは難しいことではなかった。両手持ちの大剣が力を失いつつある右腕の中で揺らいでいた。

「お名前教えてよ」

「げ!?」

 女は目を見開いた。

 門は開けられ、番人はノビているようだ。この好機を女の体力と持久力は生かしきれなかった。コモドが前に出て通せんぼすると、女はガクリと地面に膝をつき荒い呼吸を繰り返した。

「ううん、変な奴らが三人襲って来たんだが、何か知らないか?」

 気付いた門番がヨロヨロと歩み寄って来た。

「俺っちと、このお姉さんはそいつらを追ってたんだ。奴ら人攫いさ」

「人攫い!?」

「まぁ、未遂で済んだけど。ねぇ、お姉さん?」

「そ、そうさね」

 女は呼吸の合間に同意した。

 その後、コモドらは門番と叩き起こされた村長らと共に襲われた家へと行った。その家の女性は男しか見ていないと答えていた。なので、コモドは安堵した。

「何で助けた?」

 夜が白々と明ける中、まだ非常に大部分の人間が寝ている時間帯に、コモドは女と居酒屋ウェルギリウスの誰もいないテーブルで向かい合っていた。女は赤い髪で、面長の顔をし、切れ長の目に挟まれたその中央を鼻筋が通っていた。唇は厚かった。コモドの推察だと年の頃は三十は過ぎているだろうか。大柄な女性だ。

「気の毒だっただけ。どうせ逃げ切れないのは分かっていたし。今度こそ、明るい人生にしていこうね」

 コモドが応じて諭すと女は突然声を上げて泣き出した。

「悪かったよ。本当に悪かったよ」

 するとアネーリオが階段を下ってきた。

「コモド兄ちゃん、女の人を泣かせちゃダメなんだぜ」

「うん、そうだね」

「それで、今ご紹介にあずかりました、俺っちはコモド。こっちが弟みたいなアネーリオ君」

「おはよう、おばちゃん」

 アネーリオが挨拶した。

「誰が、おばちゃんだい、小僧!」

 女はそう反論すると、忙しくまた泣き始めた。

「コモド兄ちゃん、何か酷いことしたの?」

 懐疑的な目を向けられコモドはかぶりを振った。

「違うよ。犯人取り逃がしたからそれで悔しくて泣いてるんだよ」

「そうだったんだ」

 アネーリオはあっさり頷いた。

「さぁさ、泣き止んで、事情を話してくれない? その前にお名前を伺ってもよろしいですかね?」

「ルナセーラ」

 女は泣き止んで答えた。コモドはハンカチを差し出した。

「悪いね。こんなかっこ悪いところ見せちまって」

「カッコ悪くなんかないよ、おばちゃん。おばちゃんは悪者を捕まえようとしたんだから、正義の味方だよ!」

 アネーリオが熱を込めて言うとルナセーラは目を瞬かせて呟いた。

「せいぎのみかた……アタイが?」

「そうだよ! だから元気出して、今度は俺も手伝うからきっと上手くいくよ!」

 アネーリオが言うと、ルナセーラは再びしゃくり上げ、盛大に泣き出した。

「あ、俺、女の人泣かせちゃった」

「嬉しくて泣いてるんだよ。少年は優しいね」

 コモドはアネーリオの肩を叩いて言った。

 ルナセーラは包み隠さず事情を話した。王都に人攫いの総元締めがいること。攫われた人達は、他の大陸で売られていることを。

「ん? どうして、おばちゃんはそんなに事情に詳しいの?」

 アネーリオが疑問を挟む。

「それはこのおばさ、じゃなくてルナセーラさんがこの件の捜査官だからよ」

「そうさかんって何?」

 アネーリオが純朴な顔で問うので、コモドは教えた。

「悪いやつらを追って、追い詰めて、逮捕する人のことだよ」

 するとアネーリオの顔が輝いた。

「おばちゃん、キレイなだけじゃなくてカッコいいんだね!」

 その言葉に落ち着いたルナセーラの頬が紅潮した。

「ひとまず、この件を王都に行ったら衛兵に」

「駄目だよ。上役に揉み消されるからね」

 ルナセーラが答えた。

「だったらどうするの?」

 アネーリオが二人に尋ねた。

「捜査官殿に手を貸そう」

「よっしゃ!」

 コモドが言うとアネーリオが喜んだ。実際そうするしかなさそうだ。兵士が役に立たないのではこの件は永久に闇に葬り去られることになる。終止符を打つには事情を知っている自分達で何とかするしかないだろう。

「おはよう、コモドにぃ。うええ、誰、その人?」

 話が決まったところで、青い顔をしたクレハが降りて来たのだった。

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