幕間、幹部会議
「我らが魔女、新月叶子が死んだ! ある狩人に殺されたのだ!」
ボイスチャットの会場に全員が揃った事を確認して第一声、彼は芝居がかった大袈裟な喋りでそう言った。普段の彼を知っている身としては臭い事やってるな程度にしか思えないが、この緩急を駆使した語り口調には人の意識を引き付ける力があるらしい。
モニターにある人物の画像が映し出された。それは今までも何度か話題に上がったが、新月本人が任せて欲しいと言うので対応を一任されていた狩人。
「全智の匣の契約者、奴が我らが仇だ! 奴は我らの目的の最大の障害となろう、幹部諸君に告げる、見つけ次第奴を始末しろ!」
「はい!」「はーい」「了解しましたわ!」「もっと早くそうしとけば……」
リーダーの号令に何時もの様にバラバラな返事と文句が上がる。自分も含め数人は発言すらないが、これも何時もの事なので彼に気にする素振りはない。信頼されている、と言えれば良いのだが、この実力主義の組織形態に置いては信用=能力の高さという現金なシステムで成り立っている為実にドライで、脆かったりもする。
そう、自分の様に実力と実績さえあれば、悪だくみをしていても何も言われない、最終的にリターンがあればそこまでのリスクは帳消しになったりもするのだ。
ボイスチャットが解散になった後、源内は二人の幹部を個別のSNSルームへと招待した。こういった場所の管理は全て自分に任せられている、何せアプリの開発からやったのだ、当然周囲に気付かれない連絡の取り方も実装してある。
『沼鳥、水梨、オマエラを見込んで一つ提案があるんだが良いか?』
沼鳥縁と水梨雪風は行動パターンから組織内での穏健派に分類される。先程も返事をしなかったところを見るに、今回の彼の提案には然程乗り気ではない。頼み事を引き受けてくれる確率は高いし、おまけに口も堅い。少々やる気が低いところが欠点ではあるが、陰でこそこそする仲間としては上々だ。
メッセージへの返信は無いが、両方既読になっているのは確認できたので続きを投下する。
『全智の匣の契約者が担当地域に入ったら、殺さずに、生け捕りして俺のとこまで郵送して欲しいんだ。捕まえたら連絡くれ、現住所送るから』
『分かった』
『構いませんが、理由だけ聞いてもよろしいですか?』
『契約状態で起動中の武器を解析したい』
『成程、了解しました、もし秋田に来る事があれば善処します』
『頼んだ』
事務的な会話が終了するや否や、あっという間に二人に退出のマークが付く。人によっては本当に分かったのだろうかと不安になるかもしれないが、そもそも人と話すのが好きではない源内としてはすっきりとした遣り取りで非常に好ましかった。
これで後は、ターゲットが秋田か福岡に行く事を祈るだけだ。何なら二人に悪意を出現させるように命じれば確率は上がるのだが、あまり派手に動いて他の幹部に目を付けられるのも良くないし、ターゲットは未だに九州を訪れていないからそろそろ行く気がする、と根拠も何もない考えを自分で笑いながら、源内はスマートフォンの画面を消灯し、椅子をくるりと一回転半させ、武器解析の続きに戻った――。
「痛感する前半」終了。「反撃する後半」開始