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プロローグ

あなたは今、ビル五階の薄暗い会議室にいる。あなたの前に座る初老の男性は、ここ「狩人協会関東本部」の職員である御木本夏男(みきもと なつお)。千葉県の農家に跡継ぎとして生まれたがその実家は六年前の大発生で……これは今は必要のない話でしたか。

お互いが席に着いて十分が経ちます。そろそろ、御木本が口を開く様です。

「――貴方の扱いについて、上層部の結論が出ました。その前に、貴方を七日間もここに拘束する事態となった事、謝罪致します。何分、攻撃能力を持たない狩人というのは初めてでして……」

 右手に持ったハンカチで、額の汗を拭く御木本。貴方が怒っていない事を伝えると、安堵の表情を浮かべる。

「それでですね、全ての狩人は覚醒が発覚した時点で協会に所属する事が決まっていまして。両立が難しければ、現在の職場を退職して頂く事になるのですが……銀行にお勤めだそうで。給料は少し落ちてしまうのですけれども……」

 そうです。あなたのその身体は、協会本部が置かれているここ、埼玉県の地方銀行に勤務していました。入社一年目、勤勉な働きぶりがそこそこ評判でしたが……もう関係ありませんね。

 時間移動のショックで記憶が混乱している様ですので、幾つか説明させて頂きます。


 あなたにはこれから、ハコと共に、未来を変える為に戦ってもらいます。ハコの能力は「ハコが見聞きした全ての情報の保管」、「ハコと契約者の意識を過去、未来に飛ばす」もの。あなたにとっては、これが三度目の時間移動です。


 ……困りましたね。記憶がすっかり抜け落ちてしまいましたか。あなたが過去に入手したデータは、ハコが随時説明しましょう。同じ轍は踏ませません。ですが一つ、ハコにはどうしようも出来ない事があります。


 覚悟を、決めてください。血で血を洗う、終わりの見えない戦いの中へ身を投じる覚悟を。自分が壊れるまで、戦い続ける覚悟を。

 準備が出来ましたら、御木本の質問に「はい」と答えてください。


 ……あなたの歯切れの良い返事に、御木本は少々戸惑っています。ハコが契約を持ちかけた時も、あなたはそうでしたね。困っている人がいると、放っておけない。それが人でなくとも。

「ええと……では、貴方の所属について、少しお話を。狩人は普通なら、出身地に近い支部、人員の少ない支部に振り分けられるのですが、貴方の武器の特性を考えた結果、特任司令官という地位を用意する事に決まりました。各地の支部に赴き、悪意の動向、及び狩人の情報収集を行って頂きたいと思います。これは初の試みで、我々も手探りですが、十分な護衛を付けますのでご安心を……いえ、どこが前線になるか分からない現状で、安心できる場所などありませんね。すみません、失言でした」

 御木本は再び汗を拭う。「質問がありましたら……」と促すが、あなたは何を質問したら良いのかも分かっていない。いいえ、そもそもこの場で何を聞こうと無意味です。あなたの行く道は全て予定外、想定外を進まなければ、終わりへは辿り着けない。

 質問はない、と告げると、御木本は一冊のファイルを取り出し見せました。

「では、早速ですが、貴方に埼玉県、間伽時まがとき支部への移動を命じます。こちらが支部職員と、所属狩人の資料です。近場ではありますが……ご武運を」

 ファイルを受け取り、あなたは席を立つ。部屋を後にするまで、扉を閉めるまで、御木本は頭を下げたままだった。

 しわがれた目には、戦地に赴く若者を見送る涙が一筋、流れていた。

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