98。チビだからそうなるんだよ!
2025年8月30日 視点変更(物語に影響なし)
「貴様も逃げなくていいのか?」
ドライアード達が転移した事を見て、勇者サトウは嘲笑したかのように言ーーいや、実際にフェルを嘲笑していて言った。
「そう言ってフリーパスを貰いたいだけだろう? 怖いのか?」
「はっ! 貴様なんか怖くねぇんだよ!」
「お前小学生か? 帰ってママのおっぱいでも吸われ! と言い返した方がいいか?」
あー、テンプレの挑発だな。
「……よーし、決まった。ぶっ殺す!」
しかし効果は抜群だった!
勇者は瞬時にフェルに接近して殺気に満ちた攻撃を放った!
「挑発の仕返ししただけなのに……」
精神は小学生並みだな、と勇者サトウの攻撃を短剣で受け止めたフェルは呆れた。
「うるせぇ!」
簡単に挑発に乗ったけど、そのおかげでというか勇者は怒りを力にしてフェルを押し戻している!
「そんなもんか!? 格好つけて実は弱ぇんじゃねぇのか!?」
自分の力がフェルに上回ると思った勇者は良い気になって挑発してきた!
「言ったな?」
その挑発に乗ると決めたフェルは自身に身体強化魔法を掛けて、全身に力が漲っているのを感じてから聖剣フォレティアに押さえられている短剣を大きく振るった!
「くっ!」
「エアーマイン!」
すると逆に押し戻されていると感じた勇者は後方へ跳躍し、距離を取るつもりだけどフェルはとっさに空気爆弾、エアーマインを勇者の跳躍コースの後方に発動して起爆する!
「させるかよ!」
そのつもりだったけど勇者はその魔法を感知し、体を横回転して聖剣フォレティアで魔法を斬った!
「……厄介な剣だな」
魔力の塊に自分の魔力をぶつけて破壊するディアの〝ルーンブレイカー〟と違って、勇者がさっきやったのは自分の魔力を使わないのに魔力の塊を綺麗に真っ二つ斬るという凄い事だ。
結果は同じく魔法が不発に終えたけど、それを成し遂げるために必要な負担は全然違う。
「……貴様ほどじゃねぇけどな」
「分かってるじゃないか。んで? 続けるのか?」
正直今やめてもらえたら助かるんだけどなぁ……とフェルは内心で思っている。
まあ負けはしないけど、聖剣フォレティアを相手しているのは単に面倒くさくてあまりやりたくない、というのはフェルの言い訳だ。
まあそれは聖剣フォレティアの能力の一つ、周囲の魔力を吸収して使用者に送る、〝魔力循環〟という能力があるから仕方がない。
魔法の元は魔力だから魔法剣士であるフェルにとって聖剣フォレティアは最悪な相手だ。
例えば魔法は酸素と水素を分別し原子に固定して、灯すのに必要とされる熱源加えるという過程を全部魔力で行わないと火魔法であるファイアボールを発動出来ないのだ。
しかし聖剣フォレティアに触れるとそれらの過程を行うための魔力は吸収されて結果魔法が不発なのだ。
魔力の塊を斬れるし、魔法も吸収できる……対魔法使いの剣だと言ってもいいだろう。
「続けるに決まってる!」
聖剣を握り直した勇者は再びフェルに接近して、聖剣を左から右へ薙払った!
それをまた短剣で受け止めたフェルは相手が両手で剣を振るったからパワーに負けて、吹き飛ばされた。
だけどそれはわざとだ!
最初からパワーに負ている事を分かっているから剣同士がぶつかり合い瞬間、衝撃を抑えるために彼は後ろへ跳躍した。
(決して無様に吹き飛ばされたわけじゃないからな!)
あのなぁ、突然こっちに話し掛けないでくれる?
「ハッハッハ! 簡単に吹き飛ばされたな! チビだからそうなるんだよ!」
しかも勇者はそれに気付いていないぞ?
「……なあ、勇者サトウ、なぜここまで頑張ってるんだ?」
「は? 貴様みてぇな犯罪者がいるからだよ!」
「は? なんだ? 世界の為ってことか? フッハッハッハ! ないない、ありえない!」
「何がおかしい!?」
「いやいや、世界の為とか柄じゃないだろう?」
「人を外見で判断するな、と言われたことねぇのか?」
「今まで普通の人生で高校生活を送ってきたお前が、世界の為に働くだと?」
どうせ自分の利益がある話に決まってる、とフェルは更に加えた。
まあ実際にそうだ。勇者サトウは聖人じゃないしな。
「理由はどうでもーー待て……なぜ〝高校〟の事を知ってる!?」
この世界に小校、中校、高校という教育制度はない。勇者サトウもそれを知っていて自分が高校生である事を知っているのは他の勇者のみだと思っている。
だからフェルが言った〝高校生活〟という単語はお前はその年齢にいて、実際に通っていたという意味合いがあって、それに気付いた勇者は驚くしかなかった。
「さーて、どうしてだろうな?」
しかもそれは失言ではなく、わざと勇者が気になりそうな単語を言ったフェルは意味ありげな笑みを浮かべた。
「……もういい。お喋りはここまでだ! 聖剣フォレティア!」
答えてくれないと分かった勇者は険しい顔でフェルを睨みながら聖剣の名を叫んだあと聖剣を高く掲げた。
そしてまるで勇者の声に答えるかのように、聖剣はオーラ、魔力に包まれていて輝いている!
「エアーカッター!」
それはチャージ技だとすぐに悟ったフェルは邪魔するために魔法を放ったけど、魔法が勇者に当たる前に消えた、最初から何もない、空気のようなーーいや、実際に空気になったな。
「ちっ! 吸収されたか!」
そう、聖剣フォレティアの能力によってフェルの魔法は吸収されたのだ!
「はあああぁぁぁぁ!!!」
お陰でチャージが早く終わって、最初よりずっと眩しい輝きを放っている聖剣は勇者に力強く振り下ろされると、三日月のような形をしている白い波動は生み出されて、フェルに高速で迫ってくる!
凄まじい技だ!
「技名は? 技名ないのか!? 勿体ない!」
凄まじいけどせっかく大技が無名に終わった!
これに関してフェルに同意だ、勿体ない!
「だが残念だったな! ゲート!」
転移系の魔法っていいよな! と無敵な笑みを浮かびながらフェルは魔法を発動した!
確かにゲートなら敵の遠距離攻撃をリスクなしに対応できる、来るものを別の所に移動しただけだからな。
それで勇者が放った三日月の波動だけど、一瞬そのまま勇者に返すかなと思ったフェルはそうしたら世界樹が危ないと思い直して、しかたなく上空にゲートを繋げた。
「ば、バカな!」
「驚いてる所悪いが、終わらせてもらうぞ!」
「っ! ふざけるな!」
自分の攻撃はあまりにも簡単に対応されて驚愕してしまった勇者の背後に転移したフェルは攻撃を放った!
しかし勇者も中々粘り強く彼の攻撃を防いで見せた!
それだけじゃない、カウンターまで放ったのだ!
「まだまだ!」
そのカウンターを転移で躱し、フェルは再び勇者を襲い掛かる!
「おっらあああ!」
袈裟斬り、突き、上段斬り! あらゆる攻撃を交わし続けている二人の激しい戦いはやがて勇者が聖剣を大きく振って距離を開けようとすることによって終わった。
「エアーカッター!」
距離があるなら遠距離魔法のチャンス!
「効かねぇんだよ!」
そう言いながら勇者はフェルの魔法を斬った。
だけどそれは勇者の隙を暴くためのフェルの罠だった。
「もういっちょ!」
速度を重視のエアーカッターが再び放たれた!
「くっそおおぉぉっ!」
もはや回避も防ぐも無理だと悟った勇者は咄嗟に何かを取り出して、床に投げると部屋が一瞬で眩しくなって、不意打ちに食らったフェルは何も見えなくなった!
「……逃げられたか」
そして彼の視界が回復した時、勇者の位置に煙が立っていて勇者の姿自体はどこにも見当たらなかった。
「まあ逃げられたら仕方ない」
奥への道はフェルに塞がられているからな外に出ただろうと推測したフェルは短剣を納めた。
「勇者を辞めて忍者にクラスチェンジしろよ……」
確かに……。
勇者サトウ「煙立ての術!」
フェル「アイテムを使うだけじゃねぇか!」
勇者サトウ「……アイテムを使うの術!」
フェル「術でも何でもねぇ!」
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