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勇者? 人違いです  作者: Adhen
97/128

97。はいはい、フェル様すごーい

2025年8月29日 視点変更(物語に影響なし)


「それにしても本当に気付かれなかったとはねぇ……」


 暗闇から出てきたそいつは呆れた顔をしながらフェルに近付いてきている。


 誰? それはーー


「王の魔法だから当然の事だ」


「何でお前がドヤ顔してるんだよ……」


「はいはい、フェル様すごーいっとこれはさっきのやり取りの録音(・・)です」


「ありがとう、セルディ」


 そう、現れたのはセルディだった。


「貴様、どこから出てきた!?」


 そして彼女の登場で勇者の警戒は一段上がった。


「最初からこの部屋にいたけど?」


 そんな勇者の問いにセルディは肩をすくめて答えた。


 彼女はフェルの魔法でずっと隠れていたのだ。


 暗い所に静かに待機させた彼女の周りにフェルは光の反射を調整する魔法を発動すると光はその所に届かなくなりより暗くなった。


 光の反射がない物を捉えられないのは目だから、当然セルディの姿は誰にも見られなかった。


「それより勇者サトウ、これは何だと思う?」


「……」


 さっきセルディに渡された物を勇者に見せて、反応してくれないからフェルは構わず続ける。


「これは〝テープ〟という物だ。何に使うか分かるよな?」


「っ! まさかーーいや、この世界にそんなもん存在しない! はったりだろう!?」


「残念だがはったりじゃないぞ」


 〝テープ〟はつい最近ルーゼンにいる研究者達が開発した魔法道具だ。


 ガラスからできて形は様々、魔力を流すことで起動できる。流した魔力は魔法道具の縁側から中央へ巡回しながら周囲の振動に応じて魔法道具の表面を刻み込む。


 ちなみに形によって刻み込める振動は変わる。


 再生したい時は再び魔法道具に魔力を流して、その魔力は既存の経路に従って魔法道具の縁側から中央へ巡回しながら、刻み込まれた振動を聞かせる。


 もう〝テープ〟じゃなくて〝レコード〟でいいと思わないか?


『……仕方ないな』


『あれぇ〜? 勇者がする行為じゃないな、それ』


 試しにフェルは魔力を魔法道具に流すとさっき会話が再生された。


「っ!」


 それを聞いた勇者は驚いて深刻な顔になってフェルを睨む。


「便利だけど聞きたい部分に直接再生できないのがネックだな……」


 〝次へ〟とか〝前へ〟とかみたいなボタンはない、倍速再生も出来ない。


 録音が長かったらずっと再生を聞くことになるし、聞きたい部分を聞き逃がしたら最初から再生……。


 うーん……本当に便利か?


「これがあればお前とレヴァスタ王国は世間から非難の目で見られるだろうな」


「だろうなーー渡してもらうか?」


 勇者なのに完全に悪投になった……彼は一人のエルフ兵士の首に剣先を押しつけている。


「兵士たちを解放したら渡すが、どうだ?」


「おいおい、この状況で交渉か? 貴様はその立場にいないぞ?」


「痛い所突くねぇ……」


 溜め息を吐いてフェルは肩を落とした。


「さぁ、テープを渡せ!」


 そう言って勇者サトウは更に剣を兵士の首に押しつけて、兵士の首から血が垂れている。


「分かった! そっちに行って渡すか? それとも投げた方がいいか?」


 流石にこれ以上ふざけたら相手の気を触りかねないから、フェルは慌てて勇者を宥めた。


「……後者でいい」


「オッケー。なら注文通りーー投げてやるよ!」


「っ!」




 パリンッ!




「ちっ! やってくれるな!」


「リクエスト通り投げただろう?」


 確かに注文通り、フェルはテープを勇者に投げた、全力で。


 まあ、力加減について何も言わなかったからな。


 そのテープを回避するために勇者は兵士たちから離れて、それを狙っているフェルはすかさずに勇者と兵士達の間に入った。


 せっかく名誉挽回(めいよばんかい)のチャンスを自ら手放したことにフェルは内心で泣いている。


「ふざけるな! 当たったらこっちが危ないだろうが!」


「心外だな! そのつもりで投げたからふざけてるんじゃないぞ!」


 ……まあ、フェルだって人質に取られている時くらい真面目だ。


「王、そういう意味ではないと思います」


「フェル様って実はバカですか?」


「お父様……」


 呆れている三人が言う通り、ツッコミポイントが間違っている!


「ま、まあいい。んで? どうする、勇者? 撤退はおすすめだぞ?」


 一応戦ったらフェルの勝ちになるけど、面倒だから出来れば大人しく撤退して欲しいと彼は願っている。


「当然戦うだろうが。胸が貫かれた人が何強がってるんだ?」


 確かに貫かれたな、幻想の森での戦いで。


「確かに……」


「あのな……」


 俺のフォローをしてくれないかね? そういう意味合いの視線を味方のはずであるドライアードにフェルは送った。


「事実ですからフォローは出来ませんよ?」


「えっ!?」 


 もしかしてドライアードもアンナみたいに心を読める能力習得したのか!? と彼女の言葉を聞いて彼は驚いた。


「言っておきますが、心を読める能力なんてお持ちしておりませんからね?」


「じゃあ何で分かるんだよ!?」


「ふふ、顔に出ていますから」


 自分は一体どんな顔をしているか考えていながらフェルは帰ったら仮面を買おうと密かに決めた。


「イチャイチャしてんじゃねぇ!」


 自分の存在が忘れられた勇者は二人に切れた……。


「夫婦だから別にいいだろう?」


「時と場所を考えろ!」


「僭越ながら彼と同意です」


 セルディは半眼でそういうとエルフ兵士達は頷いて、そんな彼女たちを見たフェルはいたたまらない気持ちになった。


「お、俺達の事はいいから、勇者の決断の話だろう!?」


「そ、そうだ! お主どうする!?」


 そしてついに話を無理やり続けた……。


「……仕方ないな」




 キーン!




「くっ!」


「おいおい、いきなりだな?」


 やっぱり彼は撤退しない。それ所か瞬時にフェルに距離を縮めて上段斬りをしたのだ!


 咄嗟に反応したフェルは短剣を取り出して攻撃を受け止めた直後、勇者の腹にブラストを放ってぶっ飛ばした。


「結構効いたな、おい」


「……ドライアード、みんなをここから連れ出してくれ」


 しかし以前のようにはいかなかった。


 勇者も大分成長して、幻想の森の戦いで似たような攻撃を食らってしばらく気を失った勇者は今じゃすぐに立てる。


 そんな彼を見たフェルはこのまま戦闘したらセルディ達、エルリン王国の人間達が巻き込まれるかもしれないと思ってドライアードに命令を下した。


「分かりました。ネヌファ、来なさい」


 セルディとネヌファは頷き合った後、ドライアードと共にエルフ兵士たちの所に移動してーー




「王……胸、貫かれないでくださいね」




 そう言い残したちドライアードはセルディ達を連れてテレポートした。



「こっちも貫かれたくて貫かれたじゃねぇんだよ!」



 とまあ、恥で赤面になったフェルは消えたドライアードに抗議した。

フェル「俺の名誉挽回のチャンスが……」

ドライアード「投げる前にプロテクトを付与すればよろしかったのに……」

フェル「はっ!?」


よかったらぜひブックマークと評価を。

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