94。あれれ~? ドライアード、何考えてるんだ~?
2025年8月25日 視点変更(物語に影響なし)
さて、ここで皆さんにトレントの一般倒しかーー
やあ、みんな! フェルだよ! ナレーターさんの代わりにトレントの倒し方を紹介しよう!
一つは魔石を破壊すること!
魔石は魔物のもう一つの心臓みたいな物だ。
この世界は場合によって心臓を破壊しても死なない魔物はいるぞ。これは魔石が生み出ている魔力が心臓の代わりに血を全身に巡らせるからだ。
言い換えれば魔力切れになったら死ぬ、他の死因もあるけどそれはまた別の機会で。
ちなみに以前胸が貫かれた時治療されるまでこの方法で生き延びたよ。
そしてもう一つの方法はトレントの体を破壊すること!
単純でいい方法だな!
伐採なり焼くなり好きにすればいい、トレントが動かなくなるまでボコボコにしろ!
……表現はちょっとあれだけど。
まあそれはいいとして、ここは問題!
目の前にいる変異種トレントは?
数十メートルの高さで、幹の太さも半端なく直径数メートル! ボコれねぇじゃん!
は? 斧で伐採? むりむり〜。
考えてみてくれ、普通の木を斧で何回叩けば伐採できるんだ? どれだけ力がいるんだ? チェーンソー? この世界にはねぇんだよ、技術はまだそこまで発達してないさ……。
ノコギリはあるけどな!
だが残念〜! こいつの大きさ用のノコギリは存在しませ〜ん!
「どうかしましたか、王?」
「あ、いや、何でもないぞ?」
「?」
……コホン! 首を傾げてる可愛い妻は今置いといて、説明の続きだ!
それで何だっけ……あー、そうだ。焼けばいいだろうと思うかもしれないがそれも無理! 生木はそう簡単に焼かれないさ。何故なら木の中に水が含まれてるからなぁ……。
人間だってそう簡単に焼かれないだろう? やった事ないけど。
じゃあ、説明終わり! 後は任せたぞ、ナレーターさん!
……。
コホン! えー、こちらはフェルからやっと仕事を取り戻せたナレーターだ。
しかし今のフェルの例え酷いな……。
「何だか忙しそうですね、王」
「あー、さっきまで説明してたんだよ」
「何を? 誰にですか?」
「トレントの倒し方! 知らない人に!」
自信と誇りに満ちた顔で答えたフェルにドライアードはまた首を傾げる、トレントの攻撃を躱しながら。
フェル? もちろんさっきから躱しているよ。
っていうかこの二人実は余裕じゃないか?
「それで王、突破口見つけましたか?」
「……一番いい方法を検討中だ」
魔石を砕く方は一発で決められるけど、普通のトレントの魔石は一番硬い所、幹のやや下の部分にあるに反して、この変異トレントは両目穴の真ん中の少し上にあるのだ。
トレントの額って所かな? 額はあるかは知らないけど。
「厄介な事をしてくれたねぇ……」
「ですが妥当な判断だと思います」
恨めしそうに変異種を見ているフェルと違って、ドライアードはどこかに誇りそうな顔をしている。
「なぁ、ドライアード、ネヌファの魔力制御できるか?」
「出来ますが、おそらくそれだけでは足りません。あの女も必要です」
精霊は自分より格下、それも同じ属性の精霊の魔力しか制御できない。
権限はあまり高くないネヌファだけど、彼は森と水の大精霊だ。ドライアードが制御できる魔力は森の方だけで、水の方はニンフの助けが必要なのだ。
つまり、権限外である。
にしてもドライアード、〝あの女〟ってどんだけニンフの事苦手なのだ?
まあそれはいいとして、彼らの会話からもう気付いたと思うけど、実はこの変異種はネヌファが作った魔物である。いや、作るというより、改造か? もともと普通のトレントだったけどネヌファが自分の魔力を魔石に注ぎ込んだせいでこうなった。
ちなみに魔石の位置は顎にあるのもネヌファの仕業だ。たぶん簡単に倒されないようにそうしただろう。
だからフェルはさっき恨めしそうに言っていて、ドライアードは誇っていたのだ。
「魔石を魔法で一発、とかいけませんか?」
「魔石に? いや、そうしたいのは山々だがこいつ、メッチャ動いてるから無理」
根っこを使って攻撃する度に幹の上半身が揺れる、移動する時も揺れる、動作一つ一つで揺れるから魔石を正確に狙えない。
「うーん……」
「王? 何か気になる事でも?」
「……遠くから見ればヘッドバンキング緑アフロさんにしか見えないなぁっと思ってるだけだ」
いや、ヘッドバンキングは流石に言い過ぎか? そんなに揺れてないかも、とフェルは自問自答している。
「意味分かりませんが、きっとくだらない事でしょう」
「おい、失礼だな! 印象は大事だぞ!?」
確かに。記憶に残るのは大体印象だ、特に最初の印象とか。
「こういう化け物と戦った事があるって未来の子供たちに自慢できるだろう?」
「こ、子供、ですか?」
その言葉にドライアードの顔はちょっと赤くなった。
「あれれ〜? ドライアード、何考えてるんだ〜?」
と、そんなドライアードを見てフェルはニヤニヤしている。
「っ! ふん!」
「うぉお! 危なっ! 何してるんだよ!?」
高速で迫った根っこを躱したフェルはドライアードに抗議したけど、当の彼女はーー
「すみません、受け流しのミスでした」
ーー素敵な笑みを浮かべる。
「いや、明らかに攻撃してくる根っこを手で弾いてこっちへ誘導したじゃねぇか!」
俺じゃなかったら今頃空へ舞い上がってるんだぞ? と彼は更に抗議した。
「気のせいですよ、王。そんな事するわけないじゃないです、かっ! また手が滑りました!」
「何が滑っーーちょっ! ま、待て! 悪かった! 悪かったからとりあえず気合を入れてこっちに誘導するのをやめろ!」
変異種が放った根っこ攻撃は元から高速なのに、ドライアードは来ている根っこをフェルの方へ全力で弾き飛ばした!
ジャンプ! 平伏せ! あー、忙しくなったな、フェル!
「でしたら突破口を考えてくだ、さいっ!」
「今、考えてる、中、なんだ、よ!」
方法を考えろと言っても彼女のせいで防御一方だから、フェルには余裕が無い。
戦闘が激しくなっている、主にフェルの方が!
「突破口、見つけたから、誘導を、やめろ!」
数本同時に来ている根っこを地面に張り詰めて躱したフェルはドアライアードがマジで怒っているかも、と思って、彼女を落ち着かせる為にとりあえずそう言った。
「そうですか……?」
「おい、そこは喜べよ……」
残念そうにしているドライアードだった。
ドライアード「胸が貫かれた時、魔力で生き延びましたよね?」
フェル「そうだぞ?」
ドライアード「じゃあ、王は魔物?」
フェル「はっ!」
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