92。俺に〝ディア〟という妻がいるぞ?
2025年8月24日 視点変更(物語に影響なし)
「……人が指名手配された原因を触れないでほしいんだが?」
どうするかなと考えているフェルは幸いドライアード達雰囲気こそ変わったけど表情に出していないから、敢えてそう答えた。
「すみません、ですがどうしても確認したくて」
申し訳なさそうにフェルの向かいのソファに座ってるいるセルディは頭を下げた。
「あのなぁ、ルナ・エアネスは戦死と認定されたはずだぞ?」
どうやってルナを助けた事実に辿り着けたんだ? と、疑問を抱いたまま、フェルは世間が最も知られている事を言った。
「確かにそうですが、それはあくまでレヴァスタ王国の言い分にすぎません」
現にルナ・エアネスの遺体は見つかっていません、とセルディはさらに加えた。
まあ、レヴァスタ王国はフェルを悪者にするためにそう認定したから、この際遺体が見つかっても見つからなくてもどうでもいい事だ、彼らには。
「そうか? 俺達には関係なーー」
「ディア・エーテリ」
知らんぷりしているフェルの目をまっすぐ見てセルディはディアの名を言い出した。
「……」
ディアの名前を持ち出した時点である程度確信を持っているんじゃないかと思って、下手に何か言ったら地雷を踏む行為になりかねないからフェルは沈黙を保っているままセルディに続きを促した。
「ディア・エーテリは元レヴァスタ王国全探検者ギルドの総ギルド長です。彼女はルナ・エアネスの妹で姉の生還を信じ、その位から辞退して姉を探しだした」
おぉ、ちゃんと宿題をやってる! とまあ内心で感心しているけど、やったのは彼女の兄だ。
「精霊王国マナフルにディアという将軍が居ましてね、結構親切にしてもらいましたよ」
「偶然だろう? 俺に〝ディア〟という妻がいるぞ?」
セルディの言い方からディアは苗字を名乗らなかった可能性は高いとフェルは推測して、誤魔化そうとしている。
「えっ!? まだいるーーいやいや、誤魔化せませんよ!」
危うく流されたセルディは更に続ける。
「ルナという女性も見送られた際にいたじゃありませんか!?」
「そ、それもぐうぜーー」
「偶然が数回起こったらそれはもう必然と言えません?」
「うぅ……うまいこと言うな……」
いつ圧を掛けるかちゃんと把握したセルディは普通に議論に上手いのだ。
「フェルさん、もう諦めた方がいいですわ」
「そうですね、これ以上もう隠し通せませんよ、王」
「お前らなぁ、少し援護したらどうだ?」
さっきまで全然会話に入らないアンナたちにフェルは呆れて溜め息を吐いた。
「……参ったな、そこまで知られちゃーー」
「じゃ、じゃあ! 本当のーー」
「排除しないといけないなぁ」
「ーーえ?」
マジの顔で言ったフェルのその言葉に自分の推測が正しかったと思い、一瞬嬉しい気持ちになったセルディは固着した。
フェルはルナの事を隠したい、他人に知られたくない、少なくとも今じゃない、まだ早いのだ。
「悪いな、セルディ、これはルナの為だ」
だから彼はこうするしかなかった。
「ちょ、ちょっとまーー」
「過剰な好奇心は身を滅ぼす、ということわざがあるんだぞ?」
何か言おうとしているセルディにフェルはそう告げた。
▽
「フェル様! 昨夜の音の正体は分かったって本当ですか!?」
「あぁ、だからこうしてみんなに集まってもらったんだ」
翌日、フェルは客専用メイドに頼んでエルリン国王たちに会議室に集まってもらった後、ここ数ヶ月間エルリン王国を覆っている異変の正体を突き止めたと告げた。
「ところでフェル様、妹を見かけませんでしたか?」
「セルディならお使いを頼んでな」
はぁ……とエルリン国王は意味が分からないと言わんばかりの顔をしている。
「それはともかく、モンスターの記録は出来てるか?」
セルディの事が訊かれるとまずいから、フェルは話を進めた。
「はい、こちらになります」
「ありがとう」
かなりぶ厚い本をエルリン王国の宰相から渡されて、よく短時間で用意できたなと思いながらフェルはパラパラとページをめくって、あるページに止まった。
「こいつだ」
モンスターの記録を確認した彼はエルリン国王たちに本を見せる。
そこに載ったのはーー
「トレントじゃありませんか!」
ーー植物魔物、トレントである。
「ですがフェル様、トレントはあれほどの痕跡を残せませんよ?」
ファンタジーに登場する結構有名な魔物、木のモンスタートレントは普通数メートルくらいの高さを持っている魔物だ。
魔物だから当然移動できて、その際に地中にある根っこを持っていく、根っこを使って移動する魔物なのだ。
どうやって動くって?
えー、簡単に説明する地中から根っこを取り出して、触手のように使って移動するのだ。
まあそれはそうとして、エルリン国王が言っている〝あれほどの痕跡〟とは調査隊が見つかった掘り出された地面の事だ。
あれはトレントの仕業だとエルリン国王たちからすればありえない話だ、幅が数メートルもあるから。
「つまり変異種だよ」
と、フェルは会議室にいるエルリン王国の人たちを見渡した。
変異種、何らかの理由で進化したモンスターのことだ。
今回のトレントは数十メートル、エルリンの森にある木々に比べると大きい方だから直ぐバレるだろうと思うかもしれないけど、この変異種は周囲に上手く擬態して、しかも夜でしか動かないからエルフ達が気付くはずがないのだ。
暗いからなぁ……。
「実際に見たし、手を既に打った」
〝おぉ!〟とエルリン国王たちは歓声を上げたけど話はまだ終わっていない。
「問題は変異種が現れた原因だ」
何事に理由があるからな。
「だがその前に封印の報告を聞こうか?」
「そのことですが……実はまだ入っていません」
だろうなと内心でフェルは呟いた。
「……仕方ない。これ以上待つとどうなるか分かるもんじゃないから、俺たちが行く」
〝俺たち〟と彼は言ったけど実際に行くのは彼とドライアードのみだ。
自称戦えないか弱い女ことアンナを連れて行ってもただ見ているだけになるからな、たぶんだけど。
「で、では、我々も出撃準備をーー」
「あー、いや、エルリン王国の兵士達は別の事をやってもらおう」
「そ、そうですか……」
「なーに、簡単な事だ。そう心配するな」
そう笑顔で言って、フェルは計画を説明し始めた。
エルリン国王「ふと思うけど、何故フェル様は指揮を取っているのだ?」
宰相「威厳値が足りませんかと」
エルリン国王「は?」
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