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勇者? 人違いです  作者: Adhen


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91。なんだ? 夜這いか?

2025年8月24日 視点変更(物語に影響なし)


「お呼びですか、陛下?」


 フェル達がエルリン王城に来て交渉が行われた翌日の夜、セルディはエルリン国王の私室に呼び出された。


「セルディ、今は二人だけだからそう畏まらなくてもいいぞ?」


「……はぁ? そうはいけません」


 窓側に置かれているソファーに座っているエルリン国王は手に持っている書類を手放した。


「う、うちの可愛い妹はどこへ行った……うぅ〜」


 妹はそういう存在だよ、エルリン国王……だからその嘘泣きはよしな。


「昔はよく〝お兄ちゃん〟と呼んでくれたのに……」


 プツン、とエルリン国王の言葉にセルディの中に何か切れた。


「陛下、要件を」


「ま、待って! まずその拳を下ろそうね! 怖いから!」


 あら、いけない! と握り拳を上げたセルディはわざとらしく自分の行為に驚いた表情を浮かべる。


「それで?」


「あ、ああ、とりあえず座ってこれを読んでみろ」


 言われた通りセルディは向かいのソファーに座るとさっきまでエルリン国王が手にしていた書類を取った。


「これは……報告しょう?」


 それは幻想の森の事件についての報告だった。時間、場所、原因、そして被害は細かく書かれてある。


「どう思う?」


 パラパラと報告書を読んでいる妹にエルリン国王は問うた。


「何についてですか?」


 突然の質問にセルディは首を傾げる。


「フェル様の事だよ。一緒に過ごした事あるお前の考えを聞きたい」


「言い方! 誤解を招く言い方はやめてください!」


 捉え方によってセルディのイメージは悪くなるよなぁ。


「別に何も起こってませんからね! そりゃあ起こってもいいけーーいや、良くなああぁぁい!」


 相手はもう結婚しているのよ、セルディ! しっかりして! と自分の頬を一度叩いて気合いを入れたセルディ。


 なんの気合いかは知らないけど。


「何が起こったか詳しく聞きたいところだが今はそんな場合じゃない」


 コロコロと変わっている妹の表情を見て一体何が起こったのかエルリン国王はすごく気になって、後日訊こうかなと内心で決めた。


「ふぅー……この報告書、ほとんどレヴァスタ王国の言い分通りですね?」


「そうだ。(しる)された詳細は勇者の一人、勇者サトウと派遣された護衛達の証言によるものだとレヴァスタ王国が言ったがーー」


「すべてじゃない、ですね?」


 エルリン国王は頷いた。


「レヴァスタ王国はフェルという少年が事件の原因だと主張したけど、その少年はどうやって事件を起こしたのか説明しなかった」


 もう一度セルディは報告書を読んでみるとそんな事一切書かれていない、証拠も方法も分からない、だが犯人だけははっきりと宣言したと確認した。


「都合が良過ぎますよね」


「調査隊を派遣して、より詳しい情報をつかめた」


「道理で時間、事件の流れ、持たされた変化などまで詳しく書かれてあーーん?」


 資料に目を落とすまま話しているセルディの目は突然ある点に止まった。


「陛下、この探検者ギルドの変化ってーー」


「あー、それか? どうやらレヴァスタ王国全ギルドのギルド長、総ギルド長のディア・エーテリは事件の後その職位から辞退したらしい。それがどうした?」


「……精霊王国マナフルに〝ディア〟という将軍が居ましたよ」


 同じ人物かどうか分かりませんけどね、と更に加えたセルディ。


 まあ、ディアは苗字名乗らなかったから彼女が気付かなくても仕方ない。


「たぶん違うだろう。ディア・エーテリはレヴァスタ王国の人間だ。そんな彼女が精霊王国マナフルで将軍だなんてありえない」


「ですよね……ちなみにディア・エーテリの辞退の理由は何でしょうか?」


「確か姉を探しに行く、だったかな? 報告書に載らなかったか?」


 そう言われ、セルディはもう一度最後のページに書かれてある事件に持たされた変化について読み返したけど、エルリン国王が言っている事はどこにも書かれていない。


「戦死と認定された姉の遺体が見つからなくて、まだ生きていると信じて彼女はその姉を探しに出たらしい」


「うわぁー、悲しい! 姉が生きてて見つけるといいなぁ」


 と、事実を知らないセルディは願う……。


「姉の詳細は報告書の被害の部分にあるぞ」


「うーん、どれどれ……戦死認定されたレヴァスタ王国の宮廷魔術師、ルナ・エアーーん?」


 また文書に引っ掛かって、セルディは頭をフル活用して考え込んだ。


「……陛下、失礼させていただきますね」


 そして報告書をテーブルに置いて真剣な顔で立ち上がった。


「あ、ああーーってちょっと! お前の考えまだ聞いていないぞ!?」


「後日改めて伺います」


「ちょっとーー」


 何かを言おうとしている兄を無視して、セルディは部屋のドアを閉めた。


「……まさか、ねぇ?」



 そして早足でとある部屋に向かった。







 コンコン。


「はい?」


 ノックされたドアの向こう側から女性の声がした。


「セルディですが、すこしお時間いただけませんか?」


「どうかしましたの?」


 開かれたドアから出てきた女性、アンナは不思議そうにセルディを見る。


 ちなみにフェル達は王城に泊まってもらって、セルディは今彼らの部屋の前にいる。


「ちょっとフェル様にお伺いしたい事がありましてこうして参りましたが……」


「そうですの? フェルさんはドライアード様と一緒に出掛けていますけど、中でお待ちになります?」


 一体どうやってこんな時間に王城から抜け出したんだ? とアンナの言葉を聞いたセルディは疑問を浮かべたけどすぐにテレポートのことを思い出して納得した。


「ふふ、もうすぐ戻ってくると思いますわよ?」


 考え込んでいる彼女にアンナは笑みを見せた。


「えっと……中で待ちます」


 あんまり長くお邪魔したら悪いと思ったけど、もうすぐ戻ったら中で待っても大丈夫だろうと思い直したセルディは待つことにした。


「お茶をどうぞ」


「あ、すみません、わざわざ」


 王城の客用の部屋には高級ホテルと同じく客を持て成すための物はある程度揃っている。


 今アンナが出しているのはその物も一つだ。


「そう畏まらなくてもいいですわよ」


「は、はい」


 そう言われてもあんた他国の王妃だから、無理があるよとセルディはツッコミを入れたいけど、なんとか堪えた。


「あの、ちなみにフェル様はどちらに?」


「うーん、それについてはーー」




 キシャアアア!




 苦笑してアンナは何か言おうとした時、森の方からここ二ヶ月間エルリン王国に頻繁に聞く奇妙な音がした。


「っ!? 精霊が、騒いでる!?」


 しかし今回はちょっと違うのだ。


 今まで精霊は人が住んでいる所に入る事はないけど今回彼らは慌ててアンナ達がいる部屋に入り込んだ事をセルディの目にちゃんと写っている!


「だから! 心配すんーーん?」


 その直後イラついている様子でベランダの扉から入ってきたフェルはセルディの存在に気付いてーー




「なんだ? 夜這いか? 今はそんな気分じゃーー」




「違います!」


 あー、女性が夜中に男性の部屋に来るって必ずそういうためじゃないからな。


「夜這いという経験ありませんから、一度でもやりたいですわね」


「アンナ様、何を仰っています? 本気で言っていますか?」


「え? フェルさんに夜這いでわよ?」


 さも当たり前のように言ったアンナだけど、淑女としてはどうかと思うセルディはこれ以上何も言うことはなく、フェル達のペースについてはいけないような気がした彼女は話を進める事にした。


「……それよりフェル様、さっきの音聞きました?」


「あ? あー、うん」


 ソファーに腰を下ろしたフェルはその質問に顔を背けて、その反応でフェルはあんまり嘘をつけないタイプだとセルディは悟った。


「何か知っていまーー」




「セルディ? 王に夜這いか?」




 と、そこでフェルと同様にドライアードはベランダから入ってきて、フェルと同じ事を言った。


 二人は同じレベルである……。


「む? 違うようだな」


 フェルの隣に腰を下ろした彼女は溜め息を吐いた。


「違います」


「こんな時間で男の部屋を訪ねている時点で説得力がないが?」


 正論だな。


 セルディもそれをわかって何も言えない。


「そ、それよりさっきの音ですよ!」


「ま、まあ、さほど重要な事じゃないから、情報を整理してら説明するよ」


「本当ですか? この場をしのぐために言っているじゃありませんよね?」


「そ、そんなに睨むなよ……明日レアーズ王に話をするつもりだから、気になったらお前も来いよ」


 同じ事を二回説明したくないから、というのはフェルの言い分だ。


「それよりお前、用事があるから来たんじゃないか?」


 そうだった! とフェルの言葉にセルディは自分の目的を思い出した。


「間違えたら失礼ですがーー」


 間違えたら超恥ずかしいから、一応保険として彼女はそう前置きした。




「幻想の森の事件で、ルナ・エアネスを救いましたよね? フェル様が」




 そうセルディが質問した途端、場の雰囲気は変わった。

セルディ「な、何か部屋が急に寒く――」

フェル「何だ? 抱きつかれたいのか?」

セルディ「違います」


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