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勇者? 人違いです  作者: Adhen
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9。そろそろ下ろしてくれませんか?

2021年3月31日 マイナー編集

2025年2月25日 視点変更(物語に影響なし)


 時は三日前に遡って、ここは森に突然目覚めた男の拠点。


「さて、自分はもう行きまね」


 そういうことだ。


 レイアたちが遭遇したフェルと名乗った少年はこの男だった。


 もちろん〝フェル〟というのは偽名だ。


 とにかくそのフェルは昨夜小屋を訪れたルーガンたちから一番近い町の情報を得て、他人に自分が旅していると思わせるための蔦袋を手にして出発しようとしている。


「は、はい、気を付けてください」


「はい、ありがとうございます。小屋にあるものは好きに使ってください」


 そう言い残した彼は南東へ、ルーガンたちに教えてもらった〝ミシー〟という町の方向へ進んだ。


「走った方がいいか。あいつらの目的分からない以上、早く戻らないとな」


 ルーガンたちの情報によると、ミシーは徒歩だと二日掛かるのだ。


あいつ(・・・)の事も心配だし」



 とフェルは誰かの事を思い出していながら森を駆ける。







「次の方!」


 二つある人の列の前に門番がそう叫ぶと最前にいる人は前に進んで門番に荷物を調べさせ、質問を答える。


(ここがミシーかぁ)


 その様子を列の尾に立っているフェルは見ている。


 結局フェルが出発してからニ日間以上経ってしまったのだ。


 もっと早くミシーに到着出来るけど先に何が待っているか分からなかった彼は走りながら警戒していて、そのせいであまり速度を出せなかった。


(案内して貰えばよかった……)


 まあ、主な原因は彼が道に迷ってしまったからだけどな。


(うあぁー、たっけぇ壁)


 やる事ないしただ黙って待っていても退屈だから、フェルは町を囲んでいるレンガの壁を観察する事にした。


(あれは……バリスタだよな?)


 壁の上に一定距離ごとに置かれている木のバリスタがあり、その隣に兵士が待機している。


(治安は悪くなさそうだな……でも何この列?)


 検問所だと分かるけど、フェルにはこの列の長さの理由が分からないのだ。


「すみません、何かあったんですか?」


「ん? あぁ、これはたぶん例の噂のせいっしょ」


 分からないなら分かる人に訊けばいいと思った彼は隣の列に並んでいる青年に訊くことにした。


「噂?」


「知らないっすか? 最近、幻想の森に何かいるという噂っすよ」


 幻想の森、フェルが目覚めて今まで生活している森だ。


 精霊の悪戯によって誰も入れないその森の中に何かがいる、人間がいるとミシーで噂になっている。


「な、なるほど」


 そしてルーガンたちが受けている依頼とこの噂の源は自分だと何となく悟ったフェルはただ苦笑するしかなかった。


「おかげでこっちが全然儲けてないっすよ」


 そう言って青年は肩を落とした。


「行商人、ですか?」


 正直に謝りたい、本当に申し訳ない気持ちになったフェルはその青年の後ろにある荷馬車に視線を向けた。


「そうっすよ。エンダール王国から行商してきたっす」


「そ、そうですか」


 当然フェルはエンダール王国などどこにあるか知らないから話を流すしかない。


「ちなみに身なりの物も取り扱ってます?」


「お? あるっすよ? どうっすか?」


 そう言いながら青年は歯を覗かせる笑みを浮かべ、後ろにある自分の荷馬車を親指で指す。


「身だしなみ道具を買うために来ましたからね。ちなみにお金は持ってませんが、売れそうな物ならあります。どうですか?」


「……そうっすね、物の質と価値によるっすけどオッケーっすよ」


 商人は損する取引をするはずがないからな。


 んで、知識もお金もない、色んな意味で貧乏人であるフェルは持っている蔦袋を青年に見せた。


 そして約十分後ーー


「まいどっす! エンダール王国に寄ったら是非うちに来るっすよ!」


「はい! 本当に助かりました、ディンさん!」


 嬉しそうな顔で去っていくフェルに向かって手を振った行商人、あらためてディンの姿があった。


(名のある商人かな、ディンさんは)


 取引先の人と会うためにミシーに来たとフェルは買い物している間にディンがから聞いた。


(おかげで色々買えた)


 名のある商人だけあってその目は確かな物で、フェルが拠点から持ってきたイノシシの角は結構な価格で買い取られた。


 彼が良く狩っているイノシシ、ラッシュボアとディンは呼ぶのだが、彼らの角は丈夫で武具に使われることが多い。他にはその立派な形故にコレクションとして欲しがる金持ちもいる。


 ラッシュボアは中々珍しい動物だ。気性は荒くて敵に凄い速さで突進して来るから狩るには手間が掛かる。おかげでフェルが持って来た角が中々の値段で買われた。


(さて、戻ろうか)


 目的はあくまで身だしなみのグッズ、その目的が達成している今わざわざ長い列に入るまでフェルはそんなに町に入りたいわけじゃない。


(機会があったらまた来よう)



 だから彼は帰る事にした。







(誰もいないみたいだな)


 聞き慣れ親しんだ鳥の囀りと虫の鳴き声、人の気配がない広場を前にして戻ったフェルはただ立っている。


(帰り道にすれ違わなかったからまだ森にいるだろう)


 ちなみに彼は走りで一日間を掛けて帰った。


(まさか、な……)


 誰もいない事に嫌な予感がしたフェルはすぐに右手を突き、目を閉じた後魔力を飛ばした。


 飛ばされた魔力は木々、岩、動物、森にある全ての物に当たってその形を取った。


 簡単に言えばソナーだ。


 これで周囲の存在をすべて把握できるけど、大きな欠点がある。


 範囲によって必要な魔力は変わるし対象にバレるリスクが高い、対象に魔力をぶつけるから当然だ。


 しかしその結果は大きい。


(やっぱりあの剣(・・・)が狙いか!?)


 森の北方からヒットがあったのだ。反応からフェルはすぐ状況を把握し、険しい顔になった。


「すぅー、はぁー」


 そして集中するために彼は頭の中に目的地のイメージを鮮明にしてから魔法を唱えた。


「テレポート!」


 一瞬で目に映る景色が変わって、それに伴って激しい眩暈が彼を襲った!


「っ! 待ってろよ!」


 それでも彼は目の前の洞窟に入って全力で走って、見えた階段を降りた! 


 やがて降り終えた彼の目に入ったのは閉じるはずだったの石扉(せきひ)と広場にちょうどルーガンが火に纏った剣を振り下ろしている光景だった!


(ちっ! テレポート!!!)


 本日の二回目のテレポート! 魔力が足りるか足りないか微妙なライン!


 だけどーー




「だから結界を張った方がいいって言っただろ」




「っ!?」


「大丈夫か?」


 彼はやり遂げた!


 テレポートを成功して見せたフェルは目を細めて、自分の両腕の中に抱えているきょとんとしている女性を見る。


「……はい」


 緑色の瞳でフェルを睨んだ後、女性はそう言って顔を背ける。


「で? お前らここで何をしてる?」


 女性が無事だと確認したフェルは今度ルーガン達を見て問いかけた。


「あ、あなたこそどうしてここに!?」


 自分たちが戦っている女性がフェルの腕にいると彼の突然の登場に驚いたルーガンたちは扉へ振り向いて警戒を高めた。


 そう、フェルがテレポートしたのは自分ではなく、女性だったのだ。


「質問してるのはこっちなんだが?」


「いつからそこに?」


「あの……」


「だから言っただろう? 質問してるのはこっちだって」


 深刻な顔で問うたルーガンにフェルは呆れながら扉を潜った。


「……あの」


「もう一度訊こう。ここで何をしてる?」


「……」


 そしてもう一度彼らに問いかけたけど、答える気がないルーガンたちはただ沈黙して武器を構え直した。


「そう来るか……さて、どうーー」




 ビッターン!




「この馬鹿()! 無視するな!」


「いたっ! 何すんだよ、ドライアード!?」


 どうしようかと考えているフェルは突然自分の腕の中にいる女性、ドライアードに平手打ちされた!


「あなたが無視しているからです!」


 目を細めて自分に顔を向けて抗議しているフェルに対して、おかわりあげようかと言わんばかりにドライアードは右手をまた上げる。


「わ、わかった、わかったから勘弁してくれ! それと光を消せ、太陽にでもなる気か!?」


「~っ……! わかりました」


 戦闘開始してからドライアードはずっと発光している、だからさっきからフェルは彼女を見る度に目を細めたのだ。


「で? なんだ?」


 ふぅー、と目がやっと休ませる事にフェルは溜め息を吐いた。


「そろそろ下ろしてくれませんか?」


「なんだ、そんなことか」


 ドライアードは今横向きになってフェルの両腕に抱えられている、言わば姫様抱っこというやつだ。


 何事かと一応身構えしたフェルはドライアードの要望をーー




「もちろん、いやだ」




 満面の笑みで断った!


「なっ! この馬鹿王がああぁぁ!」



 と、フェルの腕の中にドライアードは暴れ出した。

ドライアード「いいから下ろしてください!」

フェル「断る! もっと味わせてくれ!」

ドライアード「なっ! このバカ王がああぁぁ!」


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