88。あ、あの~、私の存在忘れてません?
2025年8月23日 視点変更(物語に影響なし)
何事もなく無事エルリン王国の王都に入ったフェーー
やあ、みんな! フェルだよ! 今エルリン王国の王都でかんこーーコホン! 偵察をしてるんだ。昼になって昼飯を取るためにセルディの案内によってそこそこいい店でまったりしているよ。
まあ、それはともかく! ここでみんなにお知らせがあるんだ。
「な、何ですかあのボリューム……」
「……自由に姿を変えるワレですら流石にあそこまで大きくしないな」
偵察がてら魔法道具の店を入るとなんと! 店主が! アンナより! 凶悪兵器の持ち主だったああああぁぁぁぁ!
神は死んでなかーー
ーーちょっとフェル! ナレーターの仕事をーーん? 何この音? あー、フェルの夢が再構築されている音か。
「精霊王様、何で私にもあれくらいのモノを授けてくれないのですか……?」
「いや、俺に訊くなよ……神に祈れ、神に」
一番ダメージを受けているのは案内をしているセルディだった。彼女は自分の両手を胸の前で握ったり開いたりしながらぶつぶつ何か言っている。
「さすが俺でもなんも出来なーー待てよ? あるじゃないか! 出来ること!」
とフェルは何か思い付いて、三人に向く。
「お前ら、そんなに気にしてるなら何とかしてあげようか?」
すごい笑みで怪しい事を言っている……。
「何とかーー」
「してーー」
「あげよう?」
あ、食いついたわぁ……。
「興味があったらちょっと耳を貸せ」
「は、はい」
怪しいと心の中で思っていて、戸惑っていながらアンナは答えた。
「わ、私は姿を自由に変えれますから大丈夫です。ええ、大丈夫ですから」
なるほど、ドライアードは興味ある、と。
「はい!」
そんなに悩んでいるのか、セルディ? 顔が真剣そのものだ。
「これはあくまで仮説だがーー」
そう前置きをして三人の目を真っ直ぐ見てからフェルは続ける。
「俺に揉ませろ」
「「「……」」」
「原理は知らないが、そうするともっと大きくなるらしい」
「「……」」
いや、如何にも真剣だと真顔で言っているけど、胡散臭い。
確かにちゃんと存在しているけど、仮説が。
アンナとドライアードはやっぱり聞くべきじゃなかったと言わんばかりにフェルを半眼で見ている。
「本当に可能ですか!?」
しかしセルディは違う! 彼女は必死だ!
「お!? セルディ興味あるか!? あるよな!? 本当かどうかは分からんが物は試し、だろう? だから俺に揉ませろ!」
「そ、それならーー」
「騙されないでください!」
そこでアンナは会話に入ってフェルにもっと近付こうとしていたセルディを引っ張って遠ざかった。
「悔しそうな顔をしていますね、王」
「そ、そんなことないよ?」
さっき舌打ちしましたよ? とドライアードは計画が失敗に終えたフェルの反応を見逃さなかった。
「わたくし達が居る限り他の女に手を出させませんわ!」
「それってアンナとドライアードにならいいってこと?」
……まあアンナの言葉を裏に返せばそうなるな。
「あ、あらまあ、フェルさんがしたいなら……」
「つ、妻ですから」
「あ、あの〜、私の存在忘れてません?」
「「「はっ!」」」
セルディがいてよかった!!!
▽
フェルがいた世界、地球ではエルフってみんな一般の社会から身を遠ざけて、文明とかがあまり進んでいなく、弓と魔法に長けている種族だと描かれる。
しかしこの世界のエルフの国であるエルリン王国はそのイメージと大分違って、建物は全部木材じゃなくレンガから出来ているのだ。
まぁ、もし物件が木材と茅葺きの屋根から出来たら〝王国〟より〝集落〟になるけどな。
「他国との交流もありますし、いい点があれば取り入れ込むのは私達のやり方ですから」
とフェルはセルディに訊いてみるとそう答えられた。
「私達にとって精霊の導きは一番ですからね」
この世界のエルフ族は元の世界に描かれたエルフ族と同じく精霊と仲が良くて、彼らの導きを何より大事にしているのだ。
「特にここ二年間随分と変わりましたよ、精霊たちの導きが」
精霊達はより人間っぽくなってきたというか何と言うか……とセルディは親指を顎に添えて考え始めたけどーー
「「……」」
その原因に心当たりがあり過ぎるフェルとドライアードは何も言えなくてただお互いに視線を投げる。
「ま、まあエルリン王国にいい結果をもたらすから気にしなくてもいいんじゃないか?」
「それもそうですね!」
訊かれたらボロが出そうなのでフェルは無理矢理話題を変えた。
「ところで、セルディ、どこへ連れて行くつもりなんだ?」
「王城ですよ」
何で当たり前の事を訊くの? みたいな顔で前を歩いているセルディは振り返って首を傾げた。
「いや、まずは今日の宿だろう? なぁ?」
ドライアード達hsフェルの問い掛けに頷いた。
「いやいやいや、一国の王様を宿に泊まらせる訳にはないですよ!」
「別にいいだろう? とにかくいい宿を取りたいから行くぞ」
もうすぐ日が暮れるから今から行くと失礼かもと考えたフェルは明日改めて王城に行くつもりだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
自由な正確をしているフェルに困らせているセルディだった。
▽
「んで? 何でお前がここにいるんだ?」
「いいえ、その……そう! 義務! フェル様と王妃様達を王城に案内する義務がありますから!」
俯いたセルディは勢いよく顔を上げた。
あ! いい理由を思いついた! みたいな顔をしているセルディだけど、問題はそこじゃないのだ。
「何で俺たちの部屋にいるんだよ?」
「空き部屋はもうないんで……経営者に事情を説明したらここに」
「経営者!? 何やってるんだ!?」
この部屋フェル達が先に取ったから本当に何やっている……。
「その代わり、宿代はすべて無料で提供したお金は全部返金すると経営者が言いました!」
すごいですよね!? と言わんばかりにセルディは笑顔を浮かべる。
「経営者!? マジでなにやってるんだ!? ってか帰れよ! この国の王の妹だろう? 男である俺と一緒に居たら色々とまずくないか!?」
そりゃあなぁ……下手したら国際問題になるかもしれない。最悪の場合汚名を着せられて指名手配ーー既に指名手配されているから別にいいか?
「え? ……わ、分かりました……」
一瞬驚いた顔をしてるセルディはフェルの言葉を聞いてトボトボと俯きながら出口へ向かう。
「「……」」
「な、なんだよ?」
「「…………」」
あー、美人二人に無言かつ半眼で見られたらそりゃたじろぐだろうな。
しかしフェルは強い精神の持ち主だから全く動じない!
「フェルさん?」
「王?」
「あぁぁ! 分かったよ!」
……負けた。
「えっと、セルディ、やっぱ今日は泊まっていいぞ」
「よ、よろしいのですか!?」
フェルの言葉にセルディはすぐ反応して勢いよく振り返った。
「今日だけだぞ?」
是非! でないとアンナ達に怒られるから、お願いします! と内心で彼は焦っている。
「はい!」
すごく嬉しそうな顔をしたセルディは早速アンナ達と話を盛り上がっている。
「はぁー、さようなら、俺のベッド。久しぶりだな、床ちゃん……」
全身、痛くなるぞ?
フェル「床ちゃん、硬いよ~」
床「へっへっへ、わいは床じゃからのう!」
フェル「明日、まともに歩けなくなるな、これ」
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