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勇者? 人違いです  作者: Adhen
86/128

86。大丈夫なの、この国……?

2025年8月23日 視点変更(物語に影響なし)


「ーーびーーーーめろ!」


(う、うぅ……こ、ここは……?)


 外からの音に起こされたセルディはぼんやりと天井を眺める。


(……マナフル王城だった)


 昨日謁見の後、ディアと一緒に大変美味しい夕食をご馳走させたセルディは城内の客室に泊まらせてくれたのだ。


「ーーろーー!」


「……」


 一体何なんだろう? とさっきか聞こえている途切れ途切れの声に彼女は窓に視線をやってーー


 コンコン。


「セルディ様、お目覚めになりましたか?」


(っ! プロなの!?)


 まるで自分は既に起きていると分かって、タイミング良くドアがノックされた事にセルディは驚かせた。


「セルディ様?」


「あー、はい、ちょっと待ってください」


 まだ完全に目覚めていない思考を叩き起こすために顔を洗った彼女は軽く身嗜み(みだしなみ)をチェックした後、ドアを開く。


「おはようございます。ご主人様からセルディ様のご案内を任されて参りました、ダルミアと申します」


 ドアの前に待機している美しい狐人メイド、ダルミアはお辞儀する。


「そう、ですか……」


「城内を先に案内しましょうか?」


 返事からセルディは未だ聞こえている外からの音に気になっている事を悟って、ダルミアはそう提案した。


「あ、お願いできますか?」


「はい。では、こちらへーー」



 とダルミアは先頭して歩き出した。


(なんて気が効くメイドだ……)



 まあ、プロだから。







「魔法隊の守りはどうした!? 前に出すぎだぞ!」


 力強くディアは演壇から黒い刀を振りながら指示を出している。


「火魔法のーー全員止まれ! 今日の訓練はここまでだ! 解散!」


「「「はっ!」」」


 ダルミアの案内によって訓練場に来たセルディに気付いて、彼女はすぐに訓練を中断した。


「これはセルディ殿、どうかしたのか?」


「おはようございます。いいえ、ただダルミアさんに案内してもらっていますよ」


 ディアの視線を受けたダルミアはお辞儀する。


「それにしても変わった剣ですね」


「これか? 婚約者からの贈り物でな」


 演壇から降りた際に納まった左腰に吊るされている刀の柄に左手で軽く叩いて、ディアはどこかに嬉しそうな表情を浮かべる。


「〝夫〟もしくは〝旦那〟と言えばよろしかったのに……本人はそう呼ばれると喜びますよ?」


「い、いや、それはさすがに……」



 照れているディアだった。







「ーーきたい!」


「この前一緒に行動したじゃありませんか? ここは私に譲ってくださいよ」


「ぐぬぬぬ……」


 ……。


「……あの、何ですか、これ?」


 ディアとダルミアの案内で城内ツアーした後、朝食を取るために食堂に連れて来られたセルディは揉めている二人の女性を見て戸惑ってしまった。


「いつもの事だから気にしないでくれ」


「え? いつもの事……?」


 本当、いつもの事だな。


 ドライアードとアンナは静かにお茶を飲んでいるし、フェルに至っては狐幼女メイドことソフィマと遊んでいる……。


「二人共その辺に、客の前ですわよ?」


「「……」」


 アンナの言葉を聞いたルナとレイアは無言で睨み合っていた後、食卓に着いた。


(何で王妃様は白衣を……? 大丈夫なの、この国……?)


 昨日の凄く威厳があるアンナの美しい姿はどこにもなく、王妃は白衣でいいのかと思ったセルディは精霊王国マナフルの未来が心配になる。


「じゃあ朝食しようか」


 全員は席に着いたと確認したフェルはそう言って、いただきます、とセルディ以外みんな手を合わせて食事を始めた。


「あー、セルディ、午後に出発するから城下町を見て回りたいなら早めに済ませてくれよ。そうだな……ディアとレイア、案内頼めるか?」


「いいだろう」


「貸し一つだからね?」


「貸しはいいが、ちゃんと案内するんだぞ?」


「要らない心配よ! あんたこそサボるんじゃないわよ?」


「……」


 レイアの言葉にフェルは気まずそうに顔を背けた。


「まさかと思いますが、サボる気ですか?」


「あ、あははは、そんな事ないに決まってるだろう?」


 信用ないな、と後ろ頭を掻きながらフェルはルナの言葉に抗議した。


「「「……」」」


 そして彼は絶対にサボると分かった女性陣は半眼で彼をジッと見ている。


「大丈夫なの、この国……?」



 事情を悟ったセルディは小さくそう呟いた。







「来たな」


「お待たせしました」


「レイアよ、一応この国の仲介役をやってる。よろしくね」


 城門の前でディアと一緒に待っているレイアは改めて自己紹介する。


「仲介役というのは精霊と人間の仲介だよ」


 セルディの疑問を察したのか、ディアは説明した。


「精霊と人間の国だからね。いざこざが起こらないように上手く事を運ばないと」


 そう言いながら肩をすくめてレイアは歩き出す。


「先ほど精霊と言いましたが、大精霊ですか?」


 レイアは人間、大精霊以外見えないはずだとセルディは思ったからの質問だ。


「いや? 全精霊だけど? 一応見えるからね」


「え!? 見えまーー失礼ですが、あなたは〝精霊の仲間〟と呼ばれているあのレイアさん、ですか?」


 精霊と共に育てられて精霊達と仲が良く、彼らの力を自分の物のように操る少女、レイア。彼女の名はエルフ族の間に結構有名なのだ。


 まあ、噂によると彼女はエルフ族になっているけどなぁ。


「あのってなによ……? まあ、すでに捨てた称号だけどね」


 歩みを止めて、セルディに振り向いたレイアは肩をすくめた。


「そうだな。今は精霊の妻、だな?」


「……え?」


 と、ディアはレイアを揶揄って笑ったけど、台詞の中に気になる単語を耳にしたセルディは固着してしまった。


「あんたもその一人よ?」


「も? え? 妻? ディアさん婚約者いませんでしたっけ?」


 次々と並べられた言葉に戸惑って、今朝の会話を思い出したセルディは慌ててディアに訊いた。


「ん? そういう事にしたの?」


「そういう事にしたって……まさか嘘でしたか?」


「……嘘じゃないぞ? まだ結婚していないからな」


「それもそうね」


 納得して頷いたレイアは再び歩き出した。


(それにしてもこの二人は精霊の婚約者なのか……)


 精霊と結婚する事はエルフ族の間だとこれ以上ない光栄で幸せな事だから、セルディにとって羨ましい限りだ。


「何の大精霊ですか?」


 普通の精霊は人間の姿を取れないし、精霊か大精霊は必ず属性持つから妥当な質問だ。


「い、いやぁ、大精霊っていうか……」


「あいつ、何に分類されるの?」


 考え込んで、セルディの質問にレイア達は難しい顔をしている。


 人間なのは確かだけど、彼女たちの中にフェルの精霊王の肩書きの存在は大きいから、二人が困惑しても仕方がない。


「……ま、まあ、それはともかく、行きたい所ある?」


 そして二人はついに考えるのを止めた……。


「え、えっと、そうですね……精霊の国ですから精霊が満ちている場所がいいですね」


 なんとなく事情が難しいと悟ったセルディは話の流れに乗る事にした。


「却下だな」


「そうね」


「え? なんでですか?」


 そっちから訊いたのに即座に却下された事にセルディは思わず抗議したくなるけど、何とか堪えた。


「精霊たちは人が少ない場所を好むから、王都にいないよ」


 王都を出ないといけないから却下ってことだ。


 一応他国の王族だから、王都から出るとそれなりの護衛がいて、その護衛を用意するための手続きもそれなりの時間が必要なのだ。


 今じゃあ間に合わない。


「じゃ、じゃあ遠くからで見てもいいのです」


「ふむ……却下だな」


「え!?」


「遠くから見たいなら高い所に行く必要がある、高い所って城壁しかない……あれ軍事施設だからな」


「そんなぁー!」



 もういいのです! あなた達のおすすめで! と最後にセルディは諦めた。







「ではルナさん、城を頼みますわよ?」


「あたし達もいるから心配いらないよ」


 いよいよ出発の時間が来て、城門の前に見送りのためにルナ、レイア、ディア、そして城の者達は集まった。


「レイアちゃんの言う通りです、心配はいりません」


 そう言ってルナはドライアードとアンナを抱き着いたあと離れた。


「え? 俺は?」


「「「……」」」


 ズルいぞ? と講義したフェルにアンナたちは呆れた。


 まあ、女性陣の中にルナは一番ボインボインしているから、彼女に抱かれたい気持ちはわからなくもない。


「王は女を増やさないようワレが見張っておこう」


「はい! 頼みます、ドライアード様!」


「嫁を増やさないでくれよ?」


「フェルも自重してくださいね?」


「あのなぁ、俺を何だとも思ってる?」


 心外だなと言わんばかりにフェルは女性陣を半眼で見ているけど、ここに女性陣がいる時点でその抗議に力がないのだ。


「……え?」


 しかしセルディにはそれ以上の問題がある。


 彼女はここで初めてマナフル国王の名前を聞いたのだ。そして彼女はちゃんと覚えている、現精霊王の名前を。


 エルフ族である彼女にとって精霊王は自分の国王より上の存在だから、出来れば万全な状態、自分が一番美しい時に会いたいと彼女は思っていたけど、自分がマナフル国王だと思い込んでいる人物がその精霊王で目の前にいるから彼女は不意に取られた。


「もうちょっと信用してくれよ」


「「「……」」」


「ま、まあいい! 出発!」



 まあ、本人はそう高い存在の人物じゃないけどな……。

ルナ「また増える気がしますが……」

レイア「……増えたらどうする?」

ディア「罰する!」


よかったらぜひブックマークと評価を。

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