85。なんか失礼な事を考えている気がする……
2025年8月23日 視点変更(物語に影響なし)
いつからかは誰も覚えていないけど――
キシャァァ!
エルリンの大森林の奥からそんな音がエルフ達の耳に入った。それだけじゃない、たまには地面が揺れて、木々が倒れる音もした。
「またか……それで?」
あまりにも不気味そうな事なのでこのままだと民は混乱に陥ってしまうと思い、エルリン王国の現国王であるセルディの兄は調査隊を派遣して、いま会議室でその結果の報告を受けている。
「はい。世界樹の周りに異常はありません。大森林の奥へ進むにつれ倒れた木々と土が掘り出された痕跡が多くに見られます」
「詳細を聞かせろ」
更に詳しく説明した調査隊隊長によると倒れた木々は老木ではなく、殆ど若木だった。土の方は中からえぐられたようで、その痕跡は幅広く、と。
「トレントか? いや、流石に違うか?」
その報告を聞いたエルリン国王は木のモンスター、トレントの仕業かと一瞬思ったけどトレントは木々を倒さないし、聞かされた報告にあった痕跡を残せないはずだと思い直して、その可能性を除外した。
まあ、モンスターとは言え、トレントの大きさは普通の木とそう変わらないから報告のあった痕跡を残せないだろう。
「ーーーー」
会議室にいる全員は考えんでいる中、一緒に報告を聞いているセルディの耳にに突然精霊の声が入った。
「……兄上、精霊の声が聞こえた」
大精霊の声なら誰も聞こえるけど、小さな精霊達の声を聞こえるには彼等を見える同様、生まれ付きの才能がいるのだ。
セルディはその才能の持ち主で、さっき聞こえたの声をこの部屋の中にいる者達に、邪魔して悪いと思いながら伝わる。
「〝精霊王国に行って、精霊王の助けを求めよ〟、だそうよ」
「精霊王国マナフルか……その国についての情報は?」
「ここから北にある森としか……申し訳ありません」
首を横に振った情報隊隊長は申し訳なさそうに言ったけどそれは仕方がない。精霊王国マナフルはつい最近建国したばかりの国だから、情報はそう多くないのだ。
「そうか……では使者を送ろう」
「ーーーー」
「え!?」
そう言った国王は今回の会議を閉めようとした時、精霊は衝撃的な事をセルディに告げた。
「どうした?」
それはーー
「使者はもう決まったらしい……」
自分を指差したセルディだった。
▽
「ここが、精霊王国マナフルなの? どう見ても普通の森にしか見えないね」
エルリン王国から出て精霊王国マナフルを目指している途中、セルディはいくつかの村に立ち寄って情報収集した。
そしてその情報に頼って彼女はやっと精霊王国マナフルがある森の外に辿り着いた。
「はぁ……とにかく入ろうか」
もう昼過ぎだから急がないと暗闇の中で森中を歩くはめになってしまうと思ったセルディは森を入る。
「ーーーー」
そうつもりだったけど、いざ歩き出そうとすると彼女の目の前に突然精霊が現れた。
「案内してくれるの?」
訊かれると精霊は頷いた。
「確かに無闇に森に入ると迷子になるよね。ありがとう!」
「ーーーー!」
「え? じゃあなんで?」
勝手に理由を付けたセルディに精霊は違うと言って、本当の理由を教えた。
「ってことは結界か……」
そう。
許可なしに森を入るといつも同じ場所に戻される、という侵入者にとっていい迷惑な結界は精霊王国マナフルが建国される前から張られているのだ、もちろんフェルによってな。
他の結界もあるけど、今は置いておこう。
「じゃあお願い出来る?」
自力は無理だと理解したセルディに頼られる精霊は嬉しそうに飛んでいった。
▽
丁度日が暮れている頃に精霊の導きによってセルディの視界に高い壁が見えてきた。
(一時迷ったかと思って不安だったけど、本当によかったわ……)
これ以上森の中に歩くのは危険すぎて、今日はもういいと思った彼女は野営をしようとしたけど精霊は全然止まらなかった。
(面白い防衛システムだね)
幅が広くて、結構深い川に囲まれている精霊王国マナフルを見てセルディはそう感想を浮かべた。
確かにこの世界にこういうシステムはなかったのだ。別に考えられない訳じゃなくて、この方法は水が必要で、今まで海近くに建国する人はいなかっただけだ。
「止まれ!」
そして唯一町に入るすべである橋を渡ったセルディは門番に止められた。
「何者だ? 精霊王国マナフルに何の用だ?」
こんな時間帯に結界がかかっている森の中から現れてきた者が、怪しまれても仕方ないよな?
「エルリン王国からの使者です。我が国王陛下から大義名分を預かっており、精霊王国マナフルの国王陛下に直接渡すようにと命令を受けております。国王陛下と謁見をお願いできますか?」
別に隠す必要はないから彼女は正直に答えた。
「……話はわかった。付いてきてくれ」
どうするかしばらく考えた門番は頷いて、セルディを一つの部屋に案内した。
「上司にすぐ報告を入れるからこっちの部屋で待ってくれ」
(……なんだか取調べ室みたいね)
真ん中に置かれてある椅子と机しかない部屋だから、一人に取り残されたセルディはそう思っても仕方ない。
まあ、机の上にテーブルランプがないのはせめての気休めかな?
「エルリン王国の使者殿だな?」
しばらく一人で待っていると礼服を着ている女性は入って、セルディに話しかけた。
「はい。セルディと申します」
何となくただ者ではないと感じた彼女は立ち上がって自己紹介した。
「部下から話を聞いた。馬車をすでに用意してあるから城に案内する」
「ありがとうございます、えっとーー」
名前がまだ聞いていないから、どう呼ぶか迷っているセルディに女性は助けの船を出した。
「あぁ、これは失礼。国の将軍、ディアだ」
相手の称号に一瞬セルディの思考は止まってしまった……。
▽
「ん? 着いたようだ」
夜なのにあまり暗くない綺麗な街を見ながらセルディとディアは雑談していると馬車は突然止まった。
……アレの前で。
「からくり屋敷???」
目の前の城門がゆっくりと左右へ開いている事にセルディは無意識にツッコんだ。
「だろうな……」
「あ、いえ! 別に悪い事ではーー」
「セルディ殿の反応は当たり前だから気にしなくていいのだ」
フェルのやつめ、と最後にディアは恨めしそうにしている。
「門番に話を通してくる」
そして馬車が少し進んで城の扉の前に止まると彼女は降りて、門番の所に行ったあと戻ってきた。
「後で部下が城内に案内するから私はこれで」
「あ、はい。ありがとうございました」
小さく頷いた後、どこかへ行ったディアの代わりに衛兵はやって来た。
「王妃様から話は伺いました。どうぞこちらへ」
「……え? 王妃様?」
「どうかされましたか?」
「い、いいえ! なんでもありません!」
「そうですか……ではこちらへどうぞ」
まさかさっきまで話している将軍は王妃だなんてセルディは思いもしなかったから、一瞬門番の言葉に驚いた。
(……王妃が将軍をやるわけないよね)
……残念だけど、やっているのだ。
▽
「まず名を聞こうか?」
謁見間に通されたセルディだったけど、玉座に一人の若い男が座っていて本当にこの人が精霊王マクスウェルなのかと疑っている。
まあ、エルフたちに伝わっている精霊王マクスウェルは老人の姿をしいて、白色の髪と髭があるから、玉座に座っている人物を疑っていても仕方ない事だ。
「エルリン王国の使者として参りました、セルディと申します」
彼女の名前を聞いたマクスウェル陛下(セルディの思い込み)は黙り込んでしまって溜め息を吐いた……。
(なんか失礼な事を考えている気がする……)
あー、それは合っているよ。
それから証明書とか訊かれて、セルディは国王である自分の兄から預かった手紙を取り出すためにポーチに手をやろうとしていて、それを見た衛兵たちは動こうとしているけどマクスウェル陛下の止められた。
「ネヌファはどうした?」
手紙を読み終えたマクスウェル陛下の確認を答えると、突然左の玉座に座っている緑色の衣装を身に着けている女性はセルディに問いかけた。
「は、はい。大精霊ネヌファ様のお姿は最近見られません」
セルディ達に助言を下した精霊は確かに大精霊ネヌファの言葉を預かったと言ったけど、大精霊ネヌファの姿自体は異変が始まった以来どこにも見当たらないのだ。
「話はわかった。マクスウェル前精霊王に伝えておこう」
(前精霊王……?)
確かに精霊の助言で来たけど、マクスウェルが現精霊王じゃない事はセルディ達に知られていなかった。
「……ちょ、ちょっと待ってください! どういう意味ですか?」
「変わったんだよ、精霊王が」
(そんな事、聞いていないよ! っていうかこの人マクスウェル様じゃないの!? そういえば名前聞いていなかった!)
まあ、訊きたくても訊ける立場じゃないからな。
「し、失礼ですが、陛下はマクスウェル様じゃないのですか?」
「違うな」
正確に言うとマクスウェルの名を継いだ者だけど、セルディが訊いたのはマクスウェル精霊王、マクス爺の事だとマナフル国王、フェルはちゃんと理解している。
「も、申し訳ございません! てっきり陛下はマクスウェル様だと思っていまして……失礼ですが現精霊王様の名を教えてもらえませんか?」
「フェルだ」
(誰よそれ!?)
現精霊王だぞ? さっき訊いたじゃない?
まあつい最近なったばかりだからセルディが知らなくても仕方がないのだ。
(ああぁぁもう! どうすればいいのよ!? マナフル国王に頼めばいいの!?)
探している新たな精霊王は目の前にいるのに、それに全然気付いていないセルディは何とか頭を抱えずに耐えた。
「そ、そうですか、では精霊王フェル様にーー」
「無礼だぞ!」
「ドライアード、いいんだ」
(え? 今なんて?)
セルディはエルフ族で、大精霊ネヌファがいる森で育てられたのだ。当然彼女は森の大精霊の名くらい知っている。
「悪いが、断らせてもらおう」
「っ!」
ドライアードの名を聞いて戸惑って考えを整理しているセルディはフェルの言葉に驚きを隠せなかった。
(え? えぇぇぇ!? 何で!? ただ精霊王フェル様に話を通すだけでしょう!?)
目の前にいる人物の正体を知らないセルディにとってこのマナフル国王はケチ過ぎるだろう。
「俺達に何のメリットがある?」
「そうですわね。わたくし達は慈善活動をしていませんもの」
(そうよね……)
赤の他人、しかも他国の人間であるセルディ達の要請をただで答えて貰えるほど政治はそんなに甘くないのだ。
(それに精霊王国は建国したばかりの国だから、他国の要請なんてーーそうか! あるじゃない!)
だけど新国だからこそセルディ達にできる事があって、頭が切れる彼女はそれを思いついたのだ。
「……では人材の手配をしましょう。いかがでしょうか?」
この時点でセルディは確信していた、自分達の要請は通れる事に。
「お前にその権限があると?」
(隠せって言われたけど、仕方がないね)
実はエルリン国王から自分の正体を隠すようにと命令受けているのだが、このまま守り通せばせっかくマナフル国王は噛み付いたのに交渉が終わってしまうから、セルディは身分を明かした。
「あります。改めまして私は現エルリン王国の国王の妹、セルディ・エルリンが本名でございます」
自信満々で言ったセルディに反して、マナフル国王、フェルは複雑な表情を浮かべた。
セルディ「何でマクスウェル様じゃないと言わなかったのですか!?」
フェル「訊かれなかったから」
セルディ「自己紹介しましょうよ!」
よかったらぜひブックマークと評価を。