84。ボンキュッボンじゃなかった……
2025年8月20日 視点変更(物語に影響なし)
「あぁ〜いやだぁ……面倒事いやだぁ〜大体こんな時間で謁見? 正気か?」
「そういやそうな顔しないでください」
「王、相手になめられないよう、しっかりしてください」
王城に戻ったフェルは玉座に座って怠そうに文句を言うと左右にある玉座に座っているアンナとドライアードに注意さられた。
まあ国の初めての客だから、彼女達の真剣さは分からなくもないけど、面倒事の予感しかしないフェルにとって今すぐ逃げたい気分なのだ。
「王様、エルフの使者を連れてまいりました」
「……通せ」
なんとか頭を抱えるのを堪えたフェルは溜め息を吐いていながら姿勢を直して、使者の来訪を知らせる衛兵に指示を出した。
はいっ! と頭を下げた衛兵は謁見間のドアを開けて使者をフェル達の前に連れてきた。
「まず名を聞こうか?」
他人の名を聞く前にまずは自分から名乗りなさい、と昔親に教わったフェルだけど、今はそうはいかないのだ。
(ごめんよ、俺の両親!)
軽いなぁ……。
「お初目にかかります。エルリン王国の使者として参りました、セルディと申します」
十分な距離まで衛兵にエスコートされて跪いた女使者は名乗った。
「……」
……ここで一つ残念なお知らせがある。それはーー
(ボンキュッボンじゃなかった……)
ラノベとかネット小説に散々優れた美貌と尖った耳、そして女性であれば破壊力ありのボディを持つ種族として描かれたエルフだけど、今フェル達の目の前にいるエルフは尖った耳こそ持っているけど、スレンダーな体格だった。
ん? 何このおーーなるほど、フェルの夢が崩れている音か。
「……証明できるか?」
なんとか落胆した心を表に出さずに済んだフェルはとりあえず話を進めた。
「はい。我が国王陛下から手紙を預かりました……どうぞご確認を」
手紙を取り出すために腰に吊るされてる小さなポーチに手をやろうとした女使者、セルディの動きを見て、近くの衛兵たちは構えを取ろうとしたけどフェルに制止された。
(いい動きだったぞ、お前ら!)
と、自分の衛兵に誇りを覚えていながらフェルは一人の衛兵に頷いて手紙を持ち越させた後、中身を拝見した。
手紙には葉っぱみたいな紋章があって、その隣にエルリン国王のサインっぽいものがある。サインはともかく、フェルは以前紋章を見た事あるからこれは間違いなくエルリン王国の物だと確信した。
それで手紙の中にセルディアはエルリン王国の使者である事が記述されており、エルリン王国の周囲にある大森林の奥から大きな音がして、モンスターが活発しているという今エルリン王国に起こっている異変について書かれてある。
「モンスターはなんとかできるが、異変の原因を突き止められないままで状況は芳しくなくなりつつある、と」
「要するに援助の要請、ですわね」
「はい。精霊様の助言に従い、精霊王マクスウェル様のご助力を求めてまいりました」
なんでもマナフルの噂は精霊達にも既に広まっており、ここなら精霊王に会えるとエルフ達に教えた。
(あれ? 現精霊王は俺だけど?)
そう。現在の精霊王は儀式を終えたフェルである。この使者はそれを知られていなかったみたいで現の精霊王はマクスウェル、つまりマクス爺だと思い込んでいる。
「ネヌファはどうした?」
「は、はい。大精霊ネヌファ様のお姿は最近見られません」
ドライアードの突然の問に、使者はビクっと一瞬硬直になったけどすぐに答えた。
ネヌファという大精霊はドライアードの部下? 手下? とにかくドライアードと同じく森の大精霊だけど、権限はドライアード程ではない。
「話はわかった。マクスウェル前精霊王に伝えておこう」
求められているのはマクス爺だから、丁度いいと思ったフェルはマクス爺に丸投げするつもりでそう言った。
「……ちょ、ちょっと待ってください! どういう意味ですか?」
その言葉を聞いて使者は驚きの声を上げた。
「変わったんだよ、精霊王が」
「し、失礼ですが、陛下はマクスウェル様じゃないのですか?」
「違うな」
爺と間違える程フェルはそんなに老いてないぞ? 白髪がまじった髪をしているけどな!
「も、申し訳ございません! てっきり陛下はマクスウェル様だと思っていまして……失礼ですが現精霊王様の名を教えてもらえませんか?」
そういえばまだ名乗っていないなと今更思い出したフェルは自分の名前を言った。
「フェルだ」
「そ、そうですか、では精霊王フェル様にーー」
「無礼だぞ!」
「ドライアード、いいんだ」
今の使者の言葉はマクス爺でもフェルでもいいとドライアードに捉えられた。
まあ、言葉の選びが間違えたこの使者に非があるけど、フェルは別に構わない。
構わないけどーー
「悪いが、断らせてもらおう」
「っ!」
キッパリと断られた自分の願いに使者は驚きを見せた。
しかし理由は如何にもシンプルだ。
「俺たちに何のメリットがある?」
「そうですわね。わたくし達は慈善活動をしていませんもの」
そういう事だ。そもそも面倒事から逃げたいからな、フェルは。
「……では人材の手配をしましょう。いかがでしょうか?」
使者はしばらく黙るとそう言い出した。
人材不足はどの国にも必ず経験したことがある問題だ。新国であるマナフルならなおさらで、それを気付いた使者は中々鋭い。
だけどーー
「お前にその権限があると?」
これはただの使者が決断することではない。
「あります。改めまして私は現エルリン王国の国王の妹、セルディ・エルリンが本名でございます」
(……それ、先に言えよ!)
本当にな!
フェル「夢を返せ!」
セルディ「?」
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