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勇者? 人違いです  作者: Adhen
83/128

83。グル!? お前らグルだな!?

2025年8月20日 視点変更(物語に影響なし)


左翼(さよく)! 陣形が崩れているぞ! 仲間の動きに合わせろ!」


「「「はい!」」」


 精霊王国マナフルは正式に国になった日から数週間が過ぎて、人材はある程度そろった所で軍事訓練が始められて、将軍として女王自ら鍛えられたディアは演壇(えんだん)からテキパキ指示を出している。


「連携はまだまだだが、向上心(こうじょうしん)は半端ないな」


 給料が貰えるとはいえ、数週間しかない国の為にここまで頑張っている軍人たちの姿を見て、フェルは感心した。


「フェルさんの名を聞いて駆け付けた人々ですわよ?」


 フェルさんが統治している国のためなら当然ですわ、とフェルの隣にいるアンナは言って、それを聞いたフェルは恥ずかしくなって、そんなわけないだろう、と内心で思う。


「そんなわけないって顔をしていますわね」


「何で分かるんだよ!?」


 まさか女王の能力を受け継いだのか!? と自分の思考が看破されたフェルの脳内に女王の姿が浮かんでしまった。


「ーー魔法隊! 火魔法の準備!」


 ディアの指示の直後、魔法使い達は両手を前に突き魔力を溜め込む。


「うーむ、なんか違うな……」


「何がですの?」


 己の魔力を溜め込んでいる魔法隊にフェルは不満を覚えてしまった。


「なんかこう……集団として動いてないというか……」


「当たり前じゃありませんの? まだ数週間ですわよ?」


「いやぁ、それもあるけどよ……集団魔法ってないのか?」


「わたくしが知る限りありませんわね」


 そもそも大人数で一つの魔法を撃つ事自体ないからな。


「なーんだ、つまんねぇな……」


「軍から何を期待していますの……?」


「集団としてこう、ドカーン! と魔法を放った方が軍隊らしいだろう!?」


 笑顔でそう言っているけど、ない物はないからな……。


「……」


「な、何だよ?」



 ほら、アンナも呆れているのだぞ?







「そろそろ本格的に国力を上げたいんだけど、意見あるか?」


「「「……」」」


 今朝の兵士達の訓練を見てフェルはいくつか思う所があって、昼飯の後居間で寛ぎながら他の連中の意見訊いた彼だったけど、みんなに呆られている。


「どうせ頭の中ですでに計画があるでしょ?」


「……いやぁ、レイアさんよ、意見が多い方がいいじゃないか?」


「そうですわね、意見だけならーー」


 そう言ったアンナは森の外側、つまり国境に検問所を建てる事を推薦した。


「うん、そうそう! アンナみたいに意見を言えばいいんだよ」


「うーん、しかし今の状況だとそれに割るための人材はないな」


 将軍であるディアはマナフルの軍事の現状を一番知っていてそう言った。


「魔法使いの数も圧倒的に足りませんしね」


 宮廷魔術師でルナとして魔法使いの数もっと増やしたいのだ。


 まあ戦争だと魔法使いは最大の火力になるし、防御力にもなるからな。


「狐人達が来てくれて本当に助かったよ……」


 それで精霊王国マナフルの魔法部隊だけど、隊員の九割は狐人族なのだ。


「あ、そうだ! 魔力タンクを開発したい!」


 とフェルは突然言い出した。


「まだ諦めていませんわね……」


「別にいいじゃねぇか! 国のためだぞ?」


 そう言われたアンナは何も言えなくて、ただ呆れて溜め息を吐いた。


「魔力タンク? 魔力を蓄えられるタンクって事ですか?」


「そうだ! それがあれば本当の意味で一つの団体として動くだろう? そして魔法隊隊長は蓄えた魔力を使って大魔法を放つ担当にする」


 どうだ? とフェルは自信ありげにみんなの顔を見渡す。


「あれ? みんな反応うすいなぁ」


 いかにもいいアイデアだと彼は思っているけど、これには問題がある。


「あのね、蓄えた魔力を自分の魔力同様に扱うなんて無理に決まってるわよ」


 そういう事だ。


 魔力は人それぞれで、他人の魔力をコントロールできない。


 考えてみてくれ。


 もしできたら他人の体内にある魔力を使ってその人の血の流れを逆にする事もできるぞ?


 凄腕の魔法使いは王者になるわぁ。


「だが王にはあの魔法があるぞ」


「あ、そういえばそうですね」


 人の魔力を直接コントロールできなくても、フェルには自分が開発した魔力変換という魔法があるのだ。


「なるほど。ならフェルさんはなんとかしますわね」


 と、アンナはその魔法の説明をルナから受けて頷いた。


「丸投げ? 全部丸投げしたな!? 研究者はお前だろう!?」


「元々フェルさんのアイデアじゃありませんか?」


「た、確かにそうだけど、俺はこう見えて忙しいからちょっと力を貸してくれよ……」


「「「……」」」


「な、なんだ?」


 ずっとサボっている人が何言っているのだ? とフェルの言葉を聞いた女性陣はみんな半眼になって、彼女たちの視線を受けたフェルはたじろいだ。


「王、説得力は圧倒的に足りませんよ?」


「何でだよ!?」


 当たり前だ。


 レイアたちは精霊王と国王としての仕事をやっているフェルの姿見たことないからな。


「えっと、他には……人材は揃ったら北に港湾都市(こうわんとし)を形成して欲しいですね」


「確かにいい案ですわね!」


 全然サボる癖を直さないフェルを一々構うと話がいつまでも終わらないと思ったルナは話題を変えた。


 森の北方(ほっぽう)を出るとすぐ海だから港湾都市を建てれば国の所得(しょとく)は絶対に上がるから、ルナの提案にアンナは賛同した。


「まあ、それに関しては一応考えてあるよ」


「ほら、もうとっくに思いついたじゃない」


「いや、だから意見が欲しいって言ったじゃん? 同じ事を思いついても別に悪い事じゃないだろう?」


 まあ確かに同じ意見が多ければ多いほどその意見はより重要に見えて、正しいと思われるだろう。


「ちなみに検問所の事はどうですの?」


「……」


「もう考えてある、ですね」


 やっぱりレイアが言った通りだな、と話し合いが始まる前にレイアの言葉を思い出したみんなはフェルに呆れる。


「流石王! もう全部計算していますね!」


「ありがとう、ドライアード! お前だけが俺の味方だ!」



 ドライアードは……まあ、ドライアードだし。







「これは、王様!」


 日が暮れる前に城下町の様子を見るがてらフェルは一軒の家に立ち寄った。


「やぁ、ルーガン。そう畏まらなくてもいいぞ」


「そうはまいりませんよ」


 カウンターの向こう(・・・)からルーガンは苦笑する。


「んで? ギルド長(・・・・)になった気分はどうだ?」


「えっと、正直身に余る役職(やくしょく)だと思っていますよ……」


「相変わらず謙遜な人だなぁ」


 ルーガンはネアと一緒にミシーの避難者たちをルーゼンまで護衛してから今までルーゼンにいたのだ。そして精霊王国マナフルは建国した事を知った彼らはこの国に移住すると決めた。


 フェルにとってありがたい事で、せっかくだから新しくできた世界初の冒険者(・・・)ギルドの長として任命したのだ。


 基本は同じだが、冒険者は探検者より戦闘の方面に力を入れるのだ。


「ネアは見当たらないが?」


「はい、妻はレイア王妃様からの依頼でちょっと出かけております。もうすぐお戻りになると思いますよ」


 この時、フェルの中に凄く嫌な予感がしてどうしようかなと考えるとーー




「そこを動かないで!」




 ーーギルドのドアが勢いよく開かれる音がした直後、入口からそんな声がした。


「さぁ、フェル! 帰るわよ!」


「ひ、人違いで〜す〜」


 いやまあ、動くなと言われたから振り向かずに答えたフェルだったけどーー


「バレバレだよ! バカを言わないで行くわよ!」


 ーー白髪混じったその頭は印象的だからすぐにバレて、ガシッ! と数人の衛兵に護衛されているレイアは彼の腕を強く捕まえて、ギルドの外へ引き摺る。


「ル、ルーガン! なぜだ!?」


「自分だけ楽にしてはいけませんよ、王様」


「頑張るのよ〜、フェル〜」


「グル!? お前らグルだな!?」


 ルーガンの満開な笑顔とレイアと一緒にいるネアを見てフェルは全て悟った。


「ちょ、レイア! 別にサボってないぞ!?」


 立ち寄っただけだ! とフェルは一応弁明を述べた。


「言い訳は後にしなさい! 客がいるのよ!」


「客? はて、どこのどいつだ?」


「エルフの国からの使者らしいわよ?」


「ほう? 珍しいなぁ……」


 まあ、自分の国に引き篭もる種族が他国を訪れることは確かに珍しい。


「それはいいが、レイア、引っ張らないでくれる? ってかそろそろ放してよ」


「放したら逃げるでしょう?」


「……」


 立ち止まったレイアに真っ直ぐ目を見られるフェルは顔を背けた。


 完全に逃げるつもりだったな。


「またね〜、フェル〜」


 ひらひらと手を振っているネアにフェルは恨めしそうに睨む。


「さあ、行くわよ!」


「い、いやだぁ! 面倒事はいやだぁぁぁ!!!」



 連れ去られたフェルの叫びはギルド内に響いた。

ルーガン「一人で楽にはさせませんよ?」

フェル「いやだああああぁぁぁぁ!!!」


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