81。幕間 何かうつりそうだから見ちゃダメよ?
2025年8月20日 視点変更(物語に影響なし)
レヴァスタ王国はフェルがロダール女王国にいると確信してロダール女王国に彼の身柄を渡すようにと要請をしてくるために、サトウ以外の勇者を数十名の護衛と共に赴かせた。
そしてフェル達は忙しく建国している頃、勇者達は丁度ロダール女王国の国境を超えたのだ。
その頃に時は遡る。
「ーーここで野営しましょう」
辺りを見渡した護衛隊長はそう決断して護衛隊に野営の準備を指示した。
「あぁ? まだいけるんじゃねぇ?」
日がまだ暮れてねぇんだぞ? と勇者ナリタは更に足した。
「ナリタ様、恐れながらこれ以上進むと不測の事態に対抗できかねません」
「チッ、足手まとい共め……」
舌打ちした勇者ナリタは恨めしそうに準備をしている兵達を睨む。
「そう仰らずに。次の野営できる場所どこかはわかりませんから、慎重に行きましょう」
「前もそう言ったじゃねぇか」
「はい。我が国内ならともかくここは他国です。この先何があるかわかりませんからね」
「もう数日が過ぎたぞ? そろそろ町に入りてぇんだよ」
「ナリタに賛成だな」
数日前やっとレヴァスタ王国とロダール女王国の国境検問所を抜けたそれから勇者ミウラ達はずっと野営していて、ついこの前まで平和な日本に住んでいた二人の勇者にとって厳しかったのだ。
「ご安心を。このペースだと明日には町に着きますよ」
「ほう? やっとか?」
「マジで!? よーし、明日羽を伸ばそうぜ!」
ああ! と勇者ミウラは力強く勇者ナリタの提案に答えた。
「楽しみだぁ〜」
何を? それはもちろん健康過ぎる一般少年が求める事だ。
考えてみてくれ。
勇者として召喚された者を優遇するかつ信頼を得るためにレヴァスタ王国その者の願いを可能な範囲で叶えるのだ。
では、健康すぎる日本人男性である勇者ミウラと勇者ナリタは何を求める?
それはーー
「数日間も女一人見かけねぇんだぜ?」
これである。
「サナダのやつ突然いなくなったからなぁ」
実はそうだ。
召喚された者の中に唯一の少女である勇者サナダは今回の遠征にも派遣されたけど、レヴァスタ王国の王都であるケルテインから旅立った一週間後にいなくなったのだ。
……身の危険を感じたかもしれない。
▽
町に入った隊長達は宿の確保と補給、二人の勇者は情報収集というそれぞれの役割を担いで二手に分かれた。
しかしどこに行っても二人の勇者の耳に入った情報は大体同じだ。
それはーー
「勇者様の国がついに建国完了ですって!」
「あらほんとう〜? いつ〜?」
「本当らしいよ? 確か二週間前。女王様は祝いパーティーに招かれたらしいのよ?」
勇者達の視界の端に入っている三人の夫人は楽しそうにそんな会話をしている。
「なぁ、ミウラ、やっぱりサトウのやつだよな?」
「さあな? 消去法だとそうなるだろう」
勇者ナリタと勇者ミウラはこうしてレヴァスタ王国から依頼を受けているし、勇者サナダも出発してからしばらく経つと行方不明になったから、夫人達が話している勇者は可能性を考えたら勇者サトウになるのだ。
「まあサトウの野郎はどうでもいいっか。それより楽しもうぜ!」
「呑気なやつめ……俺も賛成だけどな!」
国境を越えてから全然町に訪れる事なく、自分たちを楽しませる店に全然行けなかった二人の勇者は現在溜まっているのだ。
何の店か何が溜まっているかは敢えて言わないけど。
「情報収集は羽を伸ばすがてら、というスタンスで行くぞ」
「……と言ってもいい店ねぇな」
そう決まったものの、さっきから歩いている勇者たちの視界に探している店は全然入って来ない。
「仕方ないか、とりあえず酒場に行くぞ」
情報収集もそうだが、女探しなら酒場は打って付けの場所だとこの時勇者ミウラは思っている。
「幸いこの町の女はどれもそこそこいいから、酒場でいいモノ拾えるかもしれないな」
「それもそうだな!」
上機嫌な二人は笑ってーー
「おかあさん、あのひとたちどうしたの? かおがへん!」
「こら! 何かうつりそうだから見ちゃダメよ?」
ーーいざ歩き出そうとした時、ちょっと離れた所でベンチに座っている少年は彼らを指差して、となりにいる女性、母親は慌てて少年の目を手で隠した。
……勇者たち、どんな顔をしているのだ?
▽
ドン!
「すまんが、ウチの娘達に手を出さないでくれんかね?」
カウンターを叩いた店主は勇者達を睨む。
「おいおい、そりゃねぇぜ、マスターさんよ」
「俺達を誰だと思っている?」
自分達は勇者である事が世界的に知れ渡ったことだと勇者ミウラは思っている。
「知らんな。お前ら知ってるか?」
「いや?」
「見ない顔だな」
「外から来ただろう」
しかし事実はそうじゃない。
勇者が召喚されたのは当然ロダール女王国にも知られているけど、どんな顔か、どういう人かまでは知られていない。
「だそうだ。悪いが大人しく飲まないなら出て行ってくれ」
「なん、だと!?」
「いい加減にしろ……オレ様達を誰だと思ってる!?」
「だから知らんと言っーー」
「俺達勇者だぞ!」
「「「……」」」
と、勇者ミウラの言葉を聞いた酒場にいる人達は全員不意に取られて黙ってしまった。
「ふん、ようやくーー」
「「「ははははは」」」
ようやく理解したかと勝ち誇った顔になった勇者たちは突然の酒場に響いた笑い声に呆然となった。
「な、何がおかしいんだ、おい!?」
「いやぁ、お前ら嘘ならもう少しマシな方にしてくれ」
問い詰める勇者ナリタに対してマスターは目の端の涙を拭いていながら、シッシッ! と二人の勇者を追い払う。
「ふざーー」
「それに下半身にしか脳がないお前らみたいなやつが勇者? んなわけねーだろう」
そのマスターの言葉に酒場にいる全員は再び笑い出した。
「……いい加減にーー」
「何の騒ぎだ?」
我慢が限界の勇者ナリタは腰に吊られているナイフを鞘から取り出そうとしているその時、酒場の入口から重い声がして、みんなは声の方へ見るとそこには重そうな鎧を着ている数人の中年がいた。
「隊長さん? あ、いや、この少年たちは勇者だと名乗ってうちの娘たちに手を出そうとしてたんだよ」
「……なるほど」
他の中年より立派な鎧を着ている一人、隊長と呼ばれた中年は酒場のマスターの言葉に頷いた後、勇者ミウラ達に顔を向けた。
「こっちも侮辱されたんだが?」
とりあえず自分たちも被害だと勇者ミウラはアピールしている。
「つまり店の従業員に手を出そうとしていたのが事実だな?」
「おいおい、人聞きわりぃ事言うなよ」
「まったくだ。ちゃんと払うから問題ないはずだろう?」
それよりこっちの弁明を無視するなよ、勇者とミウラは更に加えた。
「話が分かった。見たところアルマ教会の者だな? 今日は帰ってくれ」
「いや、しかしおっさんーー」
「これ以上騒ぎを起こしたら近所の迷惑だ。悪いが帰ってくれ」
しつこく自分達の用事を済ませようとしている勇者二人に隊長は少し威圧がこもった声で言った。
「……分かった」
「おい、ミウラ!」
「これ以上揉めたら面倒事になりそうだぞ、ナリタ? この隊長、俺達の正体に気付いたにも関わらず俺達を追い払おうとしているから、名がある人物だろう。こいつがアルマ教会にクレームを入れたら面倒だ」
勇者ナリタは突然下がった勇者ミウラに喰いかかって、そんな彼に対して勇者ミウラは自分の推測を小声で説明した。
「……わぁったよ」
一理あると思い直した勇者ナリタと共に、二人は酒場から去った。
まあ、正しい選択だったな。
▽
「ふぅ、やっと着いたのかよ……」
ロダール女王国に入ってから数ヶ月が経って、勇者一行はやっとロダール女王国の王都、ギーフについた。
「王様の手紙を女王様に届いて、謁見の申し込みを入れていきますのでその間どうぞご自由に過ごしてください」
宿の事も部下に任せますので、と護衛隊長は数名の部下を連れて城の方へ歩いて行った。
「よーし、今度こそ見つけるぞ!」
高いテンションで勇者ナリタは言った。
まあ無理もないか? ロダール女王国に入ってから色んな町に立ち寄った彼らだけど、探している店全然見つからなかった。
王都なら期待できると思っているだろうな。
「あ、お前らも自由にしていいぞ」
残された護衛達に勇者ミウラはそう言うと全員は頷いて、各々の気になる所へ歩き出した。
「これで障害物なし」
「それにしてもミウラ、何で今まで見つからないんだ?」
あー、探している店の事を訊いているだろう。
「まあ、いくつかの可能性はあるが、一番高いのは国が繁栄しているからかもな」
その通りである。
ロダール女王国は小さな国だけど、繁栄しているのだ。
勇者たちが探している店が出来た理由は民が生きるために色々足りないからだ、主に食物の面に。
しかし繁栄しているこの国は女王の統治でその繁栄を民のために振舞って、それでお金に困る事はあっても食事に困ることはないのだ。
「んで、食事に困らなかったらそういう店で働かなくても済むってわけだろう?」
ロダール女王国は女性の権利を何よりも守っている国だから、尚更だ。
「くっくっく、その国の女王が今まで守って来た女の権利を破る瞬間は見ものだぜ!」
「罪人を匿っている罪の償いとして女を数人俺達によこす、という話だからな!」
と二人は歩きながら笑い出した。
少年「おかあさん、さっきのおにいさんたちどうしちゃったの?」
お母さん「深刻な病気を抱えているの。近付いちゃだめよ?」
少年「わかったー!」
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