79。よ~し! 絞っちゃうよ~!
2025年8月4日 視点変更(物語に影響なし)
「……ね、ねぇ、フェル、ここがそうなの?」
目を開けたレイアは何もない、ただただ広い白い空間、足元にすら何もなく、なのに自分がちゃんと立っている事に不思議な感覚で戸惑っている。
「ん? ああ、そうだ。変な所だろう?」
隣に立っているドライアードと雑談しているフェルの答えを聞いたレイアは再び辺りを見渡す。
「反応薄いなぁ。せっかく連れてきたんだぞ?」
「何もない所に連れて来られて喜ぶ人はいないと思うんだけど?」
それに連れてきたのはドライアード様だからね! とレイアは更に加えた。
「えー? お前が精霊界に行きたいって言ってたのに……」
そう、彼らは今精霊界にいる。
精霊王国マナフルの誕生祝いのパーティから数日後、丁度精霊界に用事があるフェルは一緒にどうだ? と人間と精霊の仲介であるレイアを他の精霊に紹介するために誘った。
精霊界について以前から興味がある彼女は別に断る理由もなく、同行させてもらったのだ。
「ほら」
「?」
考え込んでいるレイアにフェルは左手を上向きさせて差し出す。
「何ボーっとしてるんだよ? 迷子になるぞ?」
ささ、とフェルは差し出した手をさらに突き出す。
「あのね、あたし子供じゃないから迷子なんてならないの!」
「とか言って手がしっかり握られてるんだけど?」
「い、いや、その……せっかくだから、手を繋いでも、いいかな……なんて」
ごにょごにょとフェルの言葉に俯きながら呟いたレイアの顔はちょっと赤かった。
「む……なら私は右手を頂きますね」
「食うなよ?」
一瞬目つきが鋭くなったドライアードはそっとフェルの右腕を絡んで、満足そうな表情をしている。
っていうかフェル、さっきのツッコミはなんだ?
▽
「フェル様だ!」
「ほんとう!? フェルさま〜!」
手を繋いでいるまましばらく何もない空間の中にに歩いているとフェル達は突然あちこちから現れた精霊達にラブコールされた。
いや、正確に言うとフェルだけだ。
「フェル、モテモテね……」
「よく聞けよ……中には変なのが混じってるぞ」
うんざりしそうな顔で溜め息を吐いたフェル。
「せっかく頑張って無視してたのに、なんで言ったのよ?」
彼女の耳にずっと聞こえているのだ、精霊達のラブコールの中に男の声で〝フェル様! 僕を抱いてください!〟と。
「っていうかフェル、やばくない?」
うん、危ないね……。
「ふふふ、フェ〜ル〜、ちょっと遊んでくれない〜?」
フェルの身に危険があるんじゃないかとレイアは思っているその時、薄い青色の長い髪の女性は現れて彼を背後から抱き着いて、甘い声で耳元で呟いた。
「ちょっとニンフ! 王には妻であるワレがいるから、他の女はいらん!」
水の大精霊、ニンフ。女性大精霊たちにお姉様と思われる存在。自由でフェルとマクス爺にしか従わなく、その自由な性格にドライアードは一方的に毛嫌いしている。
「もう〜! 別にいいじゃない〜減るもんじゃないし〜」
「いいや、減るのだ! アレはワレのモノだ!」
フェルの腕を放したドライアードはニンフを引き離そうとしているけど、全く微動だにしない。
「アレって何?」
「ん?」
と、レイアに訊かれたフェルは彼女を見てただ首を傾げた。
「っていうかフェル、何か言いなさいよ!」
背中に伝わっている感触を堪能しているフェルにレイアは抗議した。
「大丈夫だよ、減るんじゃなく増えるんだから!」
「大丈夫じゃなああああい! なに得意気に言ってんの!? 親指突き立てないで! っていうかさっきから何? 何が増えて何が減るの!?」
「王……」
「よ〜し! 絞っちゃうよ〜!」
「だから何を!?」
あー、気にするな、レイア。いずれ分かるだろうさ。
「まあ、冗談はこのくらいにして、マクス爺に用事があるからそろそろ放してくれないか?」
「冗談じゃないのに〜」
頬を膨らませたニンフはフェルから離れて、ニコニコして手を振っていながらフェル達を見送った。
「王、後で話があります」
「う、うん」
再びフェルの腕を絡んで、深刻な顔でそう言っているドライアードに青ざめたフェルは答えた。
「……同情しないわ、フェル」
見捨てられたフェルであった……。
▽
「ふん! ワシの方がもっとモテるわい!」
高いレンガ壁に囲まれた建物は見えてきて、門まで近付いた一行は勢いよく開かれたドアから飛び出した一人の少年に出迎えられた。
「……すみません、住所間違えました」
やや遅れた反応でフェルは回り右してドライアードとレイアを引っ張って離れる。
「本当に間違ってるの? ここにこの家? しかないのよ?」
見ている建物は家というより要塞だから、レイアは少し戸惑った。
「住所なんかないわい! ワシだよ、ワシ!」
「オレオレ詐欺なら知ってるが、ワシワシ詐欺は知らん! ってか俺の知り合いに少年はいない!」
抗議している少年に振り返ってうんざりそうな顔でフェルは怒鳴った。
「ドライアード様、〝オレオレ詐欺〟って何ですか?」
「さあ? 時々王は訳わからない事を言うから気にするな」
遠回しにフェルは変人だよ、と言っているドライアードにレイアはなるほど、と頷いた。
「ワシがいるじゃないか!?」
「お前爺だろうが! せめてエイオンに釣り合う姿にしろ!」
少年、マクス爺の胸ぐらを勢いよく掴んだフェルはそのまま彼を揺さぶっている!
「呼んだか、フェル?」
と、ギャーギャーと口喧嘩しているフェルとマクス爺の傍らにエイオンは突然現れた。
「オメェもかよおおぉぉ!?」
少女の姿で……。
フェル「んで? 何で和服なんだ?」
マクス爺とエイオン「「ロリ親の属性を」」
フェル「要らねぇよ! その属性!」
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