77。しばらくの間騙される気分になるでしょう
2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)
フェルが知り合いに顔を出している間にこれはアンナ達と女王の会話だ。
「ーーふむ、ここなら誰にも聞かれないかな?」
前を歩いている女王は周囲を軽く見渡した後、置かれたソファーに座った。
そして女王の目線を受けたジューナは小さく頷いて、少し離れた所に周囲を警戒する。
「お母さーー」
「座りなさい」
一体どういう用件なのかと訊こうとしているアンナは遮られて、レイア達と顔を見合わせてお互い頷き合ってから女王の向かいのソファーに掛けた。
「まずはおめでとう」
全員はちゃんと座っている事を確認した女王からの最初の言葉はそれだった。
「ありがと、ございます?」
突然の祝言にレイアは少し戸惑っている。
「あの、お母様?」
「身に着けているモノを見れば分かるのよ」
自分の娘、そしてその仲間の左の薬指にはめられているモノを見て、女王はニヤニヤしている。
「女王様、その顔をおやめください」
「誰もいないからいいのよ」
とっさに若い宰相プリムは止めに入ったけど、周りに身内しかいないと最初に確認した女王は彼女の注意を適当にあしらった。
「それで? 誰が第一王妃?」
呆れたアンナ達の視線を受けているのにまるで何とも思わなくて当たり前のように女王は話を進めた。
流石女王というべきか、その自信は半端ない。
「「「?」」」
その女王の質問にレイア達はお互いの顔を見合わせ、最後にアンナを見る。
「何だ? アンナが第一王妃か?」
「あの、お母様、実はーー」
確かにアンナ達はフェルの嫁だから王妃と言えば王妃だけど、順番はない、すくなくとも彼女達はフェルから何も聞いていない。
「ふむ……ならドライアードか」
顎に親指を添えて女王はしばらく沈黙を保つと突然ドライアードの名前を言い出した。
「次はアンナ、レイア、ルナ、ディアって所かな? 私としてはアンナが第一王妃にした方がいいと思うけどね」
フェルは精霊王だから仕方ないか、と溜め息を吐いた彼女は更に付け加えた。
この世界に一夫多妻は別に珍しくない。王や大商人は大体そうだけど、その場合正妻と愛人を決める必要があるのだ。政治の為にもなるし跡取りの問題も綺麗さっぱり無くなる。
愛人側に悪意がなければの話だけどな。
「王家なら正妻は第一王妃、第二以降は愛人になりますが、フェルさんにそんな常識ないようです」
「……確かにアンナの言う通りかもね。何せあいつはーーいや、何でもない。それよりあなた達の役割だけどーー」
惜しいですわ! とフェルについて口に出そうとしたのにギリギリ止まった女王にアンナは悔しがっている。
「バ、バカな娘を置いといて、さっきも言ったけどあなた達は既にそれぞれの役割与えられたでしょう?」
「「「はい」」」
「あの、わたくしがバカだと言われたことにスルーしないでくれません?」
……。
「……役割と言っても王妃としての役割、例えばレイアはたぶん人間側の代表として人間と精霊の仲介役とかーー」
「え? 本当にスルーされていますの?」
そりゃあ、まあ……いちいち構ってやると切りが無いからな。
「ドライアードは精霊側の代表で仲介役、ルナは宮廷魔術師、ディアは将軍かな、アンナは……ポンコツだけど教育受けたから宰相か研究部門の部長。こんな感じかな?」
「ちょっとお母様、失礼じゃありませんの!? わたくし、ポンコツではありませんわ! ね!?」
「「「……」」」
と、母親の言葉に抗議しているアンナはレイアたちに向かって訊いたけど、彼女たちは全員目を逸らした!
「ちょっと、わたくし達フェルさんのお嫁として一つになって助け合いましょうよ! 支援が必要ですわよ、今!」
「まあまあ、そうムキにならないで。フェルはそれを含めてあなたを受け入れたから、いいでしょう? むしろあなたのチャームポイントとして考えなさい」
「え? そ、そうでしょうか? いやだ、フェルさんったら……仕方ありませんわね」
「「「やっぱりーー」」」
「しーっ! ちょっと黙りなさい!」
上手く口に乗せられたアンナはくねくねして、それを見たレイア達はツッコミを入れようとしたけど女王に阻止された!
「コホン! それで? 実際にどう?」
このままだと娘は乗せられた事に気付くかもしれないから、女王は脱線した話を戻した。
「……女王様って占い師なの?」
見事に的中した女王の推測にレイアは声を落としてルナに訊くつもりだったけど、女王にはまる聞こえだった。
「実はそうよ。占おうか?」
「え!? 本当ですか!?」
「「「……」」」
すごく女王の話に食いついたレイアと違って、アンナたちは半眼になって女王とレイアのやりとりを見ている。
「そうね……レイア、あなたーー」
「……」
目を閉じてわざと間を置いた女王にレイアはうんうん、と頷いている。
「ーーしばらくの間騙される気分になるでしょう」
「「「……」」」
「え? なんで?」
まさに騙されているけど、本人は全然気付いていない!
そんなレイアを女王以外みんな可哀想な目で彼女を見ている!
「??? あっ!? 騙されたああぁ!!!」
と、やっと気付いた彼女は頭を抱えた!
「バカはもう一人いるとは……」
「ちょっとディアさん? こっちを見ないでくれます?」
ちゃんとお母様の嘘を見抜きましたわよ? と更にディアに抗議したアンナ。
「まあ、冗談はここまでにして、提案がある」
真っ赤な顔で頭を抱えているレイアを構わず、女王は話を続ける。
「ディア、あなたはしばらくロダール女王国で軍事戦術を学びなさい」
与えられた役割にあまりにも経験がなく、一つの国を任せるには不安が残る、というのが女王が述べた理由だ。
「アンナはあれでもれっきとした研究者で王族としての教育を受けた者だ。ルナも宮廷魔術師の経験がある。ドライアードとレイアは人間関係、どれも教える必要はない」
確かにドライアードとレイアの役割は人間? 精霊って人間でいいのか? とにかく彼女達は人間関係に関する役割が与えられたから、いくら女王でも教える事はあまり多くない。
人間関係はこれと言った論理はないからな。
ルナとアンナは経験者だから、教える事はない、っていうか必要ないのだ。
それでディアなんだけど、彼女は元探検者ギルドの総ギルド長、将軍でも軍人でもない。基本的に自由な探検者を司令するなんて不可能に近いから、当然彼女の軍事戦術の知識は浅い。
「ちなみにあなたに拒否権はない」
「いや、その……断るつもりはありませんが、どうしてそこまで?」
最もの質問だ。
アンナの母親だけどそれでも他国の女王だ、ここまでやると裏があると疑うしかない。
「自分の娘が王妃をしている国よ? 当然でしょう?」
肩をすくめた女王を疑う事に申し訳ない気持ちになったレイアたちだけどーー
「だけど条件がある」
「「「……」」」
ほら来た! と必ず欲求があると分かったレイアたちは女王の次の言葉を待つ。
「その薬指にはめているモノについて聞こうじゃないか」
面白そうじゃない、と女王は笑みを浮かべた。
女王様「ふふふ、これでフェルの弱みを!」
フェル「ーーはっ! なんか嫌な予感が!」
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