76。そう思わないか、儀息子?
2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)
「ーー新国、精霊王国マナフルの誕生にかんぱい!」
王城の二階にある舞踏室に集まった人々を見て、フェルは演壇からグラスを掲げた。
建国が始まってから数週間が過ぎて、国としてまだ機能していないけど建国がほぼ終わっている。
そしてみんなと話し合いの結果、お祝いパーティを開こう! という事になってフェルはあちこちに転移し、知り合いに声を掛けて城に招いた。
(おかげでもうくたくたさ……)
あー、はいはい。ナレーターと読者の皆様に突然話さないでくれる? っていうかそれ私が言うべきなのでは?
「中々いい城じゃないか、フェルーーいや、今はフェル王と呼ぶべきか?」
まあいいや。
えー、演壇から降りてきたフェルはアンナたちの所に行くと彼女たちと一緒にいるロダール女王はニヤニヤしている顔で彼を揶揄った。
「いやいや、今まで通りでいいぞ」
お前に〝王〟と呼ばれるとなんだか落ち着けないんだよ、とそんな女王に溜め息を吐いたフェルは更に続けた。
「っていうか何なんだ? 新入りの王をいじめる先輩の王?」
「別に良かろう? まあ、それはともかく何故いつもの恰好をしているのだ? 王妃達みたいにおしゃれしないとダメじゃないか、あなたもう王だぞ?」
「あ、あれぇ? お説教!? お母さんか!?」
「その通りだ!」
突然来た説教にツッコミを入れたフェルに対して女王は自信満々で言った!
確かに彼女は母親だ、アンナのだけどな!
「あー、次あったら上になんか着るよ。アンナ達は綺麗なドレスを着ておしゃれしてるんだし、彼女たちの面のためにもなんか考えるよ」
「分かればよし。それと今日我々を招いて感謝する」
女王はそういうと彼女の後ろに待機してるジューナとプリムはお辞儀する。
「礼を言うべきなのはこっちなんだがなぁ……この土地は元々ロダール女王国の物だし、建国を援助するのもロダール女王国だ」
主に財務の面……とフェルは更に小さく呟いた。
「あなたの貢献に相応しい報酬を与えただけだ。それに我らは親子じゃないか、遠慮は無用だ。そう思わないか、儀息子?」
む、儀息子、だと!? よくそんなことを満面で言ったな! とたじろいだフェルは内心で思っているけど、それは違う! 女王の表示は引き攣っているのだ! 彼女もダメージを受けている!
「そ、そうだな、お義母さん。それと今日は泊まってくれよ、お義母さんたちの部屋は準備してあるから!」
どうだ!? と言わんばかりにフェルもお返しとして言ったーー引き攣った笑顔で。
「「ふ、ふふふ……」」
「フェルさん……」
「女王様……」
笑いながら睨み合っている女王とフェルにアンナとジューナは引いた。
「コホン! お言葉に甘えて今日は泊まらせてもらうわ。それと王妃達、ちょっと付いてきなさい」
去る際の女王の言葉にアンナたちはお互いの顔を見合わせ、そのまま彼女の後に付いていった。
「おっかしいなぁ……うちの王妃なのに他国の女王の言う事を聞くってどうよ?」
……なんだか取り残された気分だなぁと一人になったフェルは内心で思っていた。
「よっ! 王妃達に置いて行かれた王様!」
ドキッとしてしまって、せっかく口にしなかった事を出したやつは誰だ! とフェルは勢いよく声の方へ振り返るとーー
「何だ、ディンか……」
そこにはディン、エンジュ、ヘインそれと……名前は知らない、まだ聞いていないけどこの前フェル達がディンゼールに行って受付をやっていた女性がいた。
「何っすか? うちで悪かったっすよ」
「いや、別にそうじゃなくてだな……まあいいや、それより楽しんでるのか?」
説明しても馬鹿馬鹿しいとフェルは改めて思ってどうでもいいことにした。
「それはもう!」
「おいやめろ! 両手を揉むのをやめろ!」
あー、その行為とディンの外見、そしてもし丸いサングラスをかけたら完全に不審者だと思われてしまうだろうな。
「ロダール女王国とコネが出来たっすよ!? おまけにフェルの国ともっす!」
「うちはおまけかよ……」
まあ、それは仕方ない。
規模こそあまり大きくないロダール女王国だけど、それでも今も存在している国で、長い歴史がある。
そんな国と建国したばかりのマナフル精霊王国、どっちとのコネがいいかは明はーー
「だから両手揉みはやめろ、ディン!」
おい、説明の途中だぞ、フェル! 分からないでもないけど!
「会長、その仕草はお止めになった方がよろしいかと」
ディンの後ろに待機してる水色の髪、この前の受付嬢は会話に加わった。
「え? なんで?」
「……不審者にしか見えないんだよ」
分からないのか? と凄いショックを受けている顔をしているディンを見てみんなは思っている。
「うちが、不審者……ふ、不審……ふしーー」
壊れている……。
「と、とにかく楽しんでくれ、ヘイン達もな」
苦笑しているヘインとエンジュにそう言って、フェルはその場から逃げた。
「ネア、ちょっと自重しろ!」
「だってどれも美味しそうだも〜ん!」
飲み物でも貰おうかなと逃げるついでに食物コーナーに行ったフェルを待っているのはルーガンとネアのヒソヒソで話しいる姿だった。
「聞こえてるんだぞ? 何やってんだ、お前ら?」
「あ、フェル!」
呆れた彼にネアは皿いっぱいの食物を持って近付いてきて、そんな彼女の後ろに付いてきたルーガンは頭を下げる。
「僕達をお招きいただき、ありがとうございます」
「あ、ああ、そうかしこまらなくてもいいぞ」
相変わらず律儀なルーガンにフェルは待ったを掛けた。彼はルーガン達との関係を保ちたい、今の自分が一国の王だとしても。
「それにしてもフェル! あれどうしたのよ!?」
しかしルーガンと違ってネアはいつも通りで、彼女は長いテーブルに載せられている食物と飲み物を指した。
「あー、今夜のパーティーに出された物はうちの使用人にはとってもじゃないが、手に負えないくらいあるから、ディンゼールで買い物がてら知り合いに会いに行ってそいつの手を借りて人手をある程度ーー」
「フェルも食べなさいよ! まだたくさんあるからね!」
「おい聞け! 自分から質問しーーもう行ったし!」
ホストである自分の台詞を盗んで、ホストのように振舞ったネアにフェルはツッコミを入れようとしているけど、当の彼女は既に食物テーブルに行った。
「すみません、うちの嫁が……」
「ルーガン、お前出会う度にそれしか言わないんだな……」
確かに! よく考えてみたらネアのフォローでいつも謝っているな、ルーガンは!
「ルーも食べようよ! はい、あーん!」
「あ、あーん」
戻ってきたネアにスプーンで食べさせたルーガンの顔が赤くなって、ちらちらとフェルを気にしている!
「……」
それで黙って自分たちを見ているフェルに対してルーガンは気まずそうに目を逸らしてしまった。
「……邪魔したな」
甘い空気を出している二人に何か自分の存在が邪魔だと感じたフェルはさっさとその場から離れて飲み物を貰いに行く事にした。
「疲れてるみたいですね」
そこでフィリーがいて、カウンター越しから飲み物を注いでいながら心配そうにフェルを見る。
「いやぁ、実を言うとこういうパーティには慣れてないんでね」
それは言い訳ではなく事実なのだ。
フェルは昔から混雑した場所をあまり好きじゃない。
「うるさくて、頭がすぐ痛くなるんだ……」
「……これ全然混雑じゃないんですけど」
と、フィリーは呟いた。
まあ、五〇人以下だから他人からすると混雑じゃないかもしれないな。
「まあ、フィリーもゆっくりしてくれ」
礼を言ってフェルは近くのテーブルに行った。
「……飲み物担当じゃなかったのか?」
と、グラスを持って自分の後ろについて、同じテーブルに座ったフィリーにフェルは不思議そうに見ている。
「いいえ? 人材を用意したのは自分ですよ? 自分の分くらい用意しないとダメじゃないですか」
さっきフェルがルーガンたちに言っていた知り合いはフィリーの事だ。
元看板女である彼女の顔はミシーからの避難者たちの間に結構広くて、このパティーを準備するための人材を確保するにはさほど難しくなかった。
「つまり自分の仕事を他の人に丸投げしたな?」
「人聞き悪いですね。優秀な主事と言ってほしいです」
キン! と、文句を言いながらフィリーはグラスを少し掲げ、フェルのと軽くぶつけた。
「今日は助かったよ」
「そう思ってるならもっと報酬を飛ばしてもよろしいですよ?」
「おい、元々飛ばしたんだぞ!? どれくらい高く飛べたいんだ!?」
「……」
「……すみません、そう見ないでください。もう言いません、はい」
すべったな、フェル……。
フェル「ルーガン、他の言葉を覚えようぜ!」
ルーガン「な、何ですか、いきなり?」
よかったらぜひブックマークと評価を。