75。からくり部分否定しないんだ……
2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)
「ほわあぁぁ! しゅごいいぃー!」
「そうだろうそうだろう」
岬の下から伸びてきているレンガ表面の金属橋を目にして、肩車されているソフィマははしゃいでいる。
やっぱりソフィマは話が分かる娘だな!
「「「……」」」
大人たちと違って!
「よし、渡ろう!」
「うん!」
反応が悪い大人達を置いて、二人は軽い足取りで先に行った。
まあ、ソフィマは肩車されているけどな。
「侵入されないように作っただろうけど、橋を伸ばす速度を考えたら意味ないじゃないか?」
「そうですわね、引き戻せる前に敵に渡れてしまいそうですわ」
橋を渡りながらディアとアンナはそう会話している。
「最初は魔法で氷の道を作ろうかなと思ってたんだが、滑るからな……」
そうしたら人はともかく、馬車とかそういう物が渡れなくなる。
「その思考があってよかったわ……」
「他人の為に自重できるようになりましたね。立派になりましたよ、王」
まるで我が子が成人になるのを優しく見ている母親のように、ドライアードのその眼差しを受けたフェルはたじろいだ。
「と、とにかく! 敵が渡る前にこっちが渡ればいい話だろう?」
敵に追われている時リモコンで遠くから先に橋を引き戻す。そして引き戻されている橋にジャンプしてそのまま門をくぐる! この時橋はすでに引き戻されたから敵は渡れなくなる。
それはフェルが想定した状況である。
「完璧だろう?」
「かんぺきー!」
肩車されているソフィマは機嫌よく右拳を前に突く。
やっぱりソフィマは話が分かる娘だ!
「何が完璧よ!?」
「それを出来るのはフェルだけです……」
「いや、ディアも出来るだろう?」
確かに剣士である彼女は運動神経抜群だろう。
「一緒にしないでくれないか?」
しかし彼女自身は流石に数十メートル跳躍は無理だと思っているからフェルに賛同しなかった。
「これは改良が必要かもしれませんわね、フェルさん」
「わかったわかった、後で改良するよ!」
だからこれ以上俺の作品を侮辱するなよ! と結構な精神ダメージを受けているフェルはこれ以上精神が持たないからこの話題を無理矢理に終わらせた。
まあ、心の中ですでに涙を流しているけどな!
「コホン! えー、この門はこのボタンを押せば開けるぞ」
容赦なくダメ出しにされた橋を渡った彼らの目の前には飾り一つもない高い鉄の門がある。
門を見上げているみんなにフェルは振り返って手にあるリモコンを見せて、ボタンを押した。すると門は真ん中からゆっくりと左右へスライドする。
「どうだ!?」
今度こそ格好いいと思うだろう!? 見たいな顔でフェルは大人達を見渡す。
「「「……」」」
「ほわぁ! かっこういい!」
しかしソフィマ以外誰も反応しなかった。みんなただ黙っていて門を見上げているだけ。
「やっぱからくり屋敷じゃん!」
「屋敷じゃない城だ!」
「からくりの部分否定しないんだ……」
あー、ディア、からくりだからだよ。
▽
「何で最初に案内されたのはここなの?」
「ここ重要だからだ」
城に入った一行は何もない部屋にきた。
「この部屋に緊急事態以外作動しないゲートの魔法陣がある。いざという時のためにみんなに知ってもらいたい」
「厨房の隣、ですね」
部屋の場所を確認したルナにフェルは頷いて、更に説明続ける。
「安全のためにこの部屋に結界を張って、登録された者以外入れないようにするつもりだ。後でここにいる全員の魔力を登録させてくれ」
要するにバイオメトリックスキャンみたいな物だ、魔力は人それぞれだからな。
ちなみに転移先はフェルの屋敷だ。
「これ手動で起動できます?」
魔法陣を見ながら説明を聞いたルナは心配して問いかけた。
「まあ、普通のゲートと同じ魔力量が必要だぞ?」
ルナの心配はこれだ。
一応転移系の魔法だからその魔法を起動するために膨大な魔力が必要だと彼女はちゃんと理解していて、いざ緊急事態になったら転移出来ないと心配している。
しかしこの魔法陣は予め設置した数個の魔石から魔力を吸うので、心配要らないとフェルは力強く言って全員を安心させた。
「とにかくこの部屋の位置よく覚えておくように!」
ともう一度そう言った後フェルは案内の続きをやるために先頭を歩いて玄関まで戻ってきた。
王城だけあって玄関はすごく広くて、真ん中に一つ大きい扉があって、その左右に二階へ続く階段がある。
「さて部屋の割り当てなんだけどーー」
「わたくし、フェルさんと同じへーーあうぅ!」
フェルの隣にやってきたアンナは凄い笑顔で欲望を言おうとしているけど、フェルの素早いチョップに遮られた。
「ったく、油断も隙もない……」
頭を両手で抑えているアンナを見て、フェルは溜め息を吐いた。
「えー、部屋の割り当てなんだけど、全員三階の部屋を使ってくれ」
この王城は三階まである。
転移魔法陣がある部屋は一階。この階層には厨房、謁見間、事務所。まあ、簡単にまとめると国を経営するための階層なのだ。
二階はパティールーム、客室、食堂、要するに国の客を持て成すための階層だ。
そして三階はフェル達のプライベート部屋、居間、食堂、厨房である。まあ、フェルたちの日常生活、プライベート階層だ。
緊急事態の時に三階から一階まで降りなきゃいけないから、これだと効率が悪いと思ったフェルは予め各部屋に転移部屋に繋がるゲートの魔法陣を設置した。
「……なんで直接屋敷に繋げないの?」
まだ頭をさすっているアンナを無視して、半眼でレイアはフェルを見ている。
「もし直接屋敷に繋げるとみんなちゃんと脱出したのか分からなくなる。魔法陣を調べたらすぐ分かるけど緊急事態にそんな余裕ないだろう?」
「なるほど、それは大事ですね」
「一緒に暮らしてる人がいなかったら気が休めないだろう?」
各自の部屋にある魔法陣はもちろん緊急事態以外にしか発動しない。そして一階の転移部屋の結界と同様に、フェルは登録された者以外通れなくなるように設定するつもりだ。
「ほわあぁ、たきゃいぃ〜」
「見るだけで上る気を失せる高さだな……なんで三階にしたのだ……」
いざ階段を上ろうとすると階段の高さに驚嘆しているソフィマに反して、ディアはいやそうな顔で呟いた。
「ふふーん、こんな事あろうかと思って上の階段にゲートを設置してあったぞ!」
「じゃあなんで階段を上がろうとしてんの!?」
「……流れに付いていくだけだ」
「なんの流れですか……」
ドヤ顔で準備が完璧だと主張したフェルにレイアとルナは呆れた。
まあ、上階に行く時人はまず階段を探すから、フェルが言っている〝流れ〟は分からなくもないな。
え? エレベーター? 普通の家にはないのだ、そんな物。
……ここは城だけど。
「フェルさん、おんぶしたらこの階段を上がっても構いませんわよ?」
「よーし! ゲート使おうか!」
アンナの願いを聞き入れたら面倒なことになると何となく予感したフェルはすぐに魔法を発動した。
決してアンナが重いという訳じゃないのだ。
「そんなに落ち込むんじゃない、後で満足までしてあげるから」
「や、約束ですわよ?」
即座に断られた自分の願いに肩を落としたアンナはフェルの言葉を聞いて彼に密着する。
「わ、わかったからちょっと離れろ」
「もう〜」
幸せの感触を自ら手放す勇気は今フェルにあるのだ!
「コホン! 部屋はここから左右に分かれて、俺の部屋以外全部同じ広さだから好きな部屋を選んでいいぞ」
レイアたちの視線が怖いからフェルは急いでゲートを使って先に左右に廊下がある三階に転移した後、やや遅れてやってきたみんなに説明した。
「私は王と同じへーーあうぅ!」
「アンナと同レベルかよ!?」
さっきのアンナみたいにドライアードは自分の欲望を言い出そうとしているけど、フェルの素早くチョップを食らった!
「フェルさん、それはどういう意味ですの!?」
「うるせぇ! 同じ事を言おうとしたお前ら二人は同レベル以外なんて言うんだ!?」
その件に関して確かに二人は似た者同士だな。
「ちなみにフェルの部屋は?」
フェルのせいでドライアードは今頭を摩っているけど、珍しくレイアは食い掛からなかった。
「ん? あー、ここから右の廊下の一番の部屋なんだが?」
「じゃああたしはその向こうのへーー」
「レイアちゃん、駆け抜けはよくありませんよ?」
ガツ! と勢いよくルナは歩き出そうとしているレイアの肩を背後から捕まえて、笑みを浮かべる。
……ついに彼女もアンナの技を身に付けたのだ。
「じゃ、じゃあ私達は左方の部屋で。ソフィマ、おいで」
母親に呼ばれたソフィマはフェルの肩から離れて、ふよふよと浮いていながらダルミア達に付いていった。
「すっかり飛行に慣れてるなぁ」
そんなソフィマを見て、ピッタリの魔法を教えてよかったとフェルはしんみりの気持ちーー
「ここは精霊の女王であるワレがーー」
「だからこそですわ! もう女王様ですからここは譲ってください!」
「むっ!」
「女としてここは譲れませんよ?」
「あたしが先に言ったのよ!」
「「「……」」」
ーーにならなかった……。
ディア以外全員お互いの事を睨み合って、部屋取りを争っている。
「はぁー、部屋沢山あるのに……」
そんな彼女たちを見てディアは溜め息を吐いた。
「え? なに睨み合ってるんだ、おまーーはっ!?」
そこでフェルは気付いた。
「待て、ダルミア! 逃げるんじゃない!
このピリピリしている空間の中にダルミア達に置いていかれた事に……!
ダルミア「上手く逃げられたわね」
フェル「ぎゃああああ!!!」
レダスとダルミア「「……」」
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