74。……魔法使いの天職って建設屋なの?
2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)
「ほいほいほいっと!」
翌日、屋敷から少し離れた所で自分の魔法袋の中にしまってある物を次々とフェルは取り出している。
「……その魔法袋にどれくらい材料入ったの?」
建国材料がいいペースで並べられていることに対して傍らから見ているレイアはフェルに呆れている。
「さあ? 多すぎて数えるのを諦めた」
これでもまだまだあるぞ? とフェルは加えた。
まあ今朝、彼はディンの所に転移すると魔法袋に入れ切れないくらいたくさん材料が待っていたのだ。
建国するから当然と言えば当然だけど。
「俺の魔法袋を以ってしても数回の往復だぞ? 見た瞬間数える気は綺麗さっぱり消えたのさ」
これだけに関しては怠け者でもなんとでも言え、ってのがフェルの気持ちである。
「まさかと思いますが、建国を一人でやるつもりですか?」
「いくら何でも無理だな」
「そうですわね。人を呼びましょうか、フェルさん?」
「いや、王なら出来るぞ」
まるでピクニックをしてるかのように後方からシーツの上で座っているルナ達はフェルとレイアの話に加わった。
……いや、完全にピクニックだ、お茶飲んでいるし。
「あー、魔法を使うつもりだから一人でやった方がやりやすいんだよ」
「そういえば幻想の森にあった小屋もあんたが建てたよね? あれ中々よかったよ」
フェルがこの世界に来て最初の数週間に建てた、あり合わせの小屋の事だ。
レイアはあの小屋に住み着いていたからその小屋の頑丈さを知っている。
「俺の才能を認めてくれて嬉しいよ」
「……何の才能よ?」
えー、と肩を落とすフェルだった。
▽
当たり前だけど土地を開拓する時には参照しなければならない事は沢山ある。
例えば土地の位置や所有権、開拓による周囲への影響、まあ色々だ。
それでこの森なのだが、元々はロダール女王国の物だけどフェルの国への貢献の褒賞としてロダール女王は彼に贈った。
だから現所有者はフェルである。
位置の事は……まあ、仕方ないのだ。当時のフェルはここ、ロダール女王国の北西辺境にあるこの森がいいと思っていた。
建国するなんて考えもしなかったからな。
周囲への影響の事だけど、そもそもこの周囲に何もないから問題ない。注意点があるとすれば精々森に潜んでいる生き物の事と国の廃棄物だけだな。
廃棄物についてはフェルに魔法があるから何とでもなるのだ。
魔物や動物たちにはりゅうじぃに縄張りを作ってもらったおかげで森の中央に近付かない、一応魔物の頂点であるドラゴンだからな。
(後は木々だけだな)
やる事はすでに決まってあるけど、フェルは方法についてまだ迷っている。
まとめて燃やせば早く済ませれるけど、結構立派な木々で建築材料として使えそうだから勿体無いと彼は思っている。
伐採は出来なくもないけど、木々を一つ一つ抜く以上に面倒で時間が掛かる。かと言って本当に一つ一つ木々を抜くと半径外の木々の根が邪魔で、結局半径外の木々を抜かなければいけなくなる。
「そうだ! 切ればいいじゃねぇか!」
根が邪魔なら切ればいい、というのはしばらく考えたフェルの結論だった。
「ウィンドカッター」
試しに彼は圧縮して細くした空気を地面に放ってーー
ペシッ!
(ふむ、弾かれちゃったか……)
ーー弾かれた。
当然だ、地面は結構硬いからな。
(まあいい、次は本命だ!)
すぅー、はぁー、と今の結果を見てどれくらいの威力が必要か大体わかったフェルは自分を落ち着かせた。
(より細く、威力数十倍、半径の縁側に)
頭の中で魔法を組み合わせた彼は閉じた目を勢いよくに開いてーー
「ウィンドカッター!!!」
ーー気合を入れて魔法名を叫んで、同時に上げた右手を地面へ向かって振り下ろした!
その直後、決められた建国半径の縁側に見辛くても展開された魔法が現れて、ゆっくり降りてーーいや、規模が大き過ぎて遠くにあるからゆっくりと降りていっているように見えるだけで、実際はその逆だ。
そして魔法が地面にぶつかった瞬間すごい音がして、その音が止んだ後フェルは地面に降りて結果を確認する。
「よし、根がちゃんと切られた!」
魔力の波動で地面の中にある根の状態を確認したフェルは小さくガッツポーズした。
「後は木々を回収するだけだな!」
そう言って彼は魔力を全方向に飛ばして半径内にある木々を魔力に覆わせる。
大魔法じゃない、魔法ですらない、それで必要な魔力が半端なく、しかもずっと持って行かれているから常人技じゃない。
「いいぞ、いいぞ!」
次々と地面にある木は魔力に引き抜かれて、フェルの魔法袋に入れた。
これが終わったら後は地面を整地して固める、そこで建国第一段階が終わるのだ。
気合を入れろ、フェル!
▽
「……魔法使いの天職って建設屋なの?」
数日後の朝、目の前の光景に対してレイアの第一の言葉それだった。
「昨日はまだ高い柱しかありませんでしたよね……」
ルナは呆れ気味で他の女性陣に言った。
「流石フェルさんですわね!」
「アンナ様ぶれませんね……」
そしてアンナはいつも通りであって、ディアはいつに間にかツッコミ役に回った。
フェル達の前には結構幅が広い川に隔てられた門と高い壁、そして壁の向こうに大きな建物がある。
「まさか一晩で城を建てたなんて……まるでおとぎ話ですね」
そう、今彼らはフェルが建てた王城の城門の前にいるのだ。
「大げさだな。一晩じゃないんだぞ? 数日だ、数日」
「それが現実的だと強調するつもりだけど、数日でも現実的じゃないからね」
そうだけど、フェルは魔法があるこの世界に建設なんて簡単な事で、魔法に熟練している人なら誰でも出来ると思っている。
確かにそれはそうだ。しかし王城レベルになるとそう簡単な話じゃない……何せ魔力に限界があるからな。
「一晩よりましじゃないか! つーか魔法あるから現実的ーーあ、そうか、お前魔法下手だから出来なくても仕方ないか?」
「っ! このバカ!」
「ちょっ、待て! 言い返せないからって暴力に振るんじゃない!」
わざと自分を挑発したフェルにレイアは拳を上げて彼の頭を叩こうとしている。
「……やっぱり魔法使いの天職は建設屋ですね」
「超一流の魔法使いの天職ですわね」
「じゃあルナねぇも建設屋?」
「アレと並べられるなんて心外ね」
「ワレは精霊として当然それなりに魔法を使えるが、一緒にしないでくれ」
フェル、アレ呼ばわり男である。
「〝アレ〟とはなんだよ? ドライアードもこのくらい出来るだろう?」
一緒にでいいじゃん! と更に加えた彼を見てみんな哀れな人を見る目にしている。
「こ、これどうやって向こうに渡りますの?」
流石に可哀想だからアンナは無理矢理話題を変えた。
「あ、あー、このボタンを押せばーー」
そう説明しながらフェルはポケットから小さなリモコンを取り出して、緑ボタンを押す。すると向こうにある岬の下から表面がレンガの金属の橋が現れて、フェル達がいる岬と繋ぐ。
「どうだ? カッコウイイだろう!?」
ソフィマが見たらきっと喜ぶだろうなぁ! と早くソフィマに見せたい気持ちを抑えながらフェルは凄い笑顔で全員に振り返った。
「「「……」」」
自分が見ている光景に固着してしまった彼女達は一斉に彼を見てーー
「「「……からくり屋敷?」」」
とまあ、当然の反応だよな。
りゅうじぃ「最近出番ないのう……」
フェル「ドラゴンは寝坊好きじゃなかったのか?」
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