73。……格好いい鷹の部分いらなくない?
2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)
(ん? あー、来たか)
ドライアードの帰宅から、フェルの悲鳴が屋敷内に響いてから何事もなく平和な数日が過ぎて、ある日の朝フェルは庭でのんびりしていると一羽の鷹が飛んできた。
(頼まれた物は全部揃った、と)
ベンチの背に佇んでいる鷹に餌をやりながらその右足に巻き付かれてあった手紙を取って中にはそんな事が書かれている。
この鷹はディンの連絡用のペットでフェルは以前何回も見た事ある。
体は黒色なのに翼の先端が薄い緑色で、体格は普通の鷹より大きい。
「フェル、ちょっと訊きたいーーん? ウインドイーグルじゃないか」
フェルはしばらく鷹を観察しているとやってきたディアは鷹を見てそう言った。
「お前ウインドイーグっていうのか? かっこいいなぁ、おい!」
「ピー!」
褒められた鷹ことウインドイーグルはその立派な翼を目一杯に広げて強く鳴いた。
格好いい!
「誰からの連絡だ?」
鷹を撫でながらディアは問うた。
「何でわかるんだ?」
「え? だってウインドイーグルだろう?」
ウインドイーグルは連絡手段として割とメジャーに使われているのだ。知恵と体力が高くて風魔法も使える、何より速い。
「知らないのか?」
ディアの中には常識だけど、ウインドイーグルはモンスターに分類されるけど非討伐対象の方だから、フェルが知らなくても仕方ないのだ。
「やっぱお前すげぇな!」
「ピィーッ!」
褒めながらフェルは追加の餌をやるとウインドイーグルは翼をパタパタさせて機嫌よく鳴いた。
「んで、連絡の内容は?」
「ああ、ディンからこの前頼んだ物が準備してあるってさ」
ソフィマを連れてルーゼンに行った時、フェルはディンにいくつかの物の調達を依頼した。
「それで、訊きたい事は?」
後でディンの所に行くかと決めたフェルはディアが自分を探している理由を尋ねた。
「あ、そうだ、刀の事だけどーー」
ウインドイーグルを餌付けしながらフェルはディアの相談に乗った。
どんだげ食うのだ?
▽
「よし、会議始めるぞ」
夕食後、屋敷の人間全員居間に集まった事を確認したフェルはソファーから立ち上がって、テーブルに一枚の空白紙を置いた。
「今朝ディンから手紙を持ってる格好いい鷹は来た。手紙の内容は俺が頼んだ材料全部揃ってあると」
「……格好いい鷹の部分いらなくない?」
「何言ってんだ!? そこ重要だぞ!」
いや、まあ、何が重要かは人それぞれだな。
「あー、そのウインドイーグルがその格好いい鷹ですか」
「ピィーッ!」
とルナに指差された部屋の隅に佇んでいるウインドイーグルは翼をはばたかせて鳴いた。
「おおー、かっけぇぇ!」
格好いいよな!
「……なんでそいつも会議に参加しているのだ?」
「いや、特に理由はないんだが?」
「「「……」」」
格好いいからいいだろう? と呆れたみんなにフェルは抗議をした。
「ま、まあとにかく! これで建国を始めれるんだけど、その前に色々設計しなければいけない」
そして自分を味方にしている人はこの部屋にいないと悟った彼はは無理矢理に話を進めた。
「なるほど、だから会議ですわね」
さすが王女だ、こういう事について話が早い。
「ですがフェル様、私共が参加してもよろしいのですか?」
狐人一家のダルミアはフェルにとって可笑しいな事を訊いた。
「何言ってんだ? お前らの意見も大事だから思うところがあったら遠慮なく言ってくれ」
そう言われたダルミアとレダスは戸惑いながら頷いた。
ソフィマ? 良い子だからすでにダルミアたちの部屋で夢の世界へ旅立ったよ。
「そういえばりゅうじぃさんは?」
レイアは居間を見渡す。
「……」
「「「フェル(さん)?」」」
まさか忘れていた? とレイアたちは半眼でフェルを見ている。
「いや、別に忘れてたわけじゃないからな!」
「あの寝好きな爺なら今頃森のどこかで寝ているだろう」
「そ、そうそう! りゅうじぃはこういう話苦手だから任せると言ったんだ」
「「「ふーん」」」
フェル、全く信用されない男である……しかし彼は嘘を言っていない。
それにドライアードのいう通り、ライトドラゴンであるりゅうじぃは他のドラゴン種と同じく、寝るのが好きなのだ。
……いや、これは爺だからか?
「……まずは城の配置だが、これは中央にするかそれとも奥にするかのどっちかだな」
「さらっと話題を戻したのね……」
「はい、そこ! 話が進まないからちょっと真面目に!」
「はいはい」
とレイアは適当に自分を指差しているフェルをあしらった。
「そうですわね、これは良く考えないといけませんわ」
国を開拓する事に関してはフェルよりアンナの方が詳しいから彼女の意見は重要だ、だてに王女をやっていないからな。
「フェルさんが提供した二つの選択肢をまず説明しますわ」
未来の女王、もしくは王妃になるために女王である母親に色んな知識を叩き込まれたからアンナは建国についても当然心得ている。
それで彼女の説明からするとーー
中央にすれば敵襲に対してそこそこ強いけど、あらゆる方面から襲撃を受ける可能性がある。対して奥にすれば正面からの敵襲に対して非常に強いが、後面はその真逆。
どう配置しても城下町はかならずいくつかの地区に分かれて、中央に比べれば奥の方が管理しやすい、何せ三六〇度を管理する必要はないからな。
「わたくしなら中央にしますわね」
「ほう? 理由は?」
「単純に開拓性が高いですから」
管理は確かに面倒だけど未来の事を考えたら開拓性が高い中央の方がいい、とこの先の事を考えたアンナは中央に決めたのだ。
「まあ、国が大きくなれば話だけどな」
「フェルが統治する国が大きくならないわけないじゃない」
さも当たり前の事かのようにレイアはそう言ってフェルの言葉を否定した。
「珍しくレイアがいい事言ったな」
「ド、ドライアード様……」
照れている! レイアが照れている!
「ああ言われていいのかよ!?」
さらっとディスされたのだぞ!? とフェルは更にツッコミを入れた。
「レ、レイアちゃんの言葉通りだと思いますから、私も中央型をおすすめします」
ディスされても相手がドライアードならもう褒め言葉同然! 盲目信者である……。
そんなレイアにやや引いたルナは話を進めるために自分の考えを述べた。
「う、うむ。なら中央型だな?」
確認の意味で他の連中を見渡して、意義ないと見たフェルは空白紙の中央に円を描く。
「よし、次は城下町の地区と門だな! 俺は貴族地区とかそういうのが嫌いから、それをなしにしてくれよ?」
そもそもこの中に貴族はいない。
アンナ? アンナは王族だ。
「そうね、ここはシンプルに四地区にしたらどう?」
「そうですわね、各地区の機能は後で決めるとしてその方がいいでしょ」
レイアの提案にアンナは頷いた。
「門の方は城壁と防衛システムによるけど、城壁はとりあえず町全体を囲むようにした方がいいだろう」
まだ一国の探検者ギルドの総ギルド長だった頃、ディアは任務で町や村を守った事あるのだ。その時彼女は指揮をとって、どこにどんな人材を置くか、どこを強化すればいいかテキパキに指示して任務を成功させたのだ。
それら経験に踏まえて籠城戦の時に城壁が必要と彼女は思って、提案した。
「俺もそれに賛成だぜ」
自分が住んでいた村が全方向から襲撃された事を体験したレダスたちもその経験から学んで、ディアの意見に同意した。
「うーん……円型と四角型、どっちがいい?」
「どっちでもいいと思いますわ。どちらも城壁の上に兵士を待機させますし」
個人的に円型の方がいいと思いますわ、とアンナは言い足した。
まあ、ロダール女王国の王都、ギーフも円型の城壁をしているからアンナはその強みを理解している。
「そうですね、四角型なら死角が出来かねませんから、円型には賛成ですね」
「「「……四角に死角」」」
「っ! わざとじゃありませんからね!」
「「「……」」」
「な、何ですか? 皆さんにして」
「いや、何も? とにかく城壁の事はこれでいいんだな?」
みんなの視線を受けて身を引いてしまって呻いたルナを置いて、フェルは他のメンバーに問うと頷かられた。
「違いますからね!」
その後も細かい事について会議を続けて、時々ダジャレを期待してフェルはルナに視線をやるけど、そう強く否定された。
いいじゃないか、ダジャレ好きで……。
ルナ「鷹の費用って意外と高いわね」
ディア「ルナねぇ……」
よかったらぜひブックマークと評価を。