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勇者? 人違いです  作者: Adhen
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72。あんた、さぼってたわね?

2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)


「そういえばフェル、王としての仕事は大丈夫なの?」


 穏やかなある日の朝、みんなは食堂で朝食をしているとレイアは当たり前の事をふと思いついて、フェルに訊いた。


「ふん、そんなのしないから大丈夫に決まってる!」


「そうだと思ったよ」


「ドヤ顔で言われてもなぁ」


「しかも堂々で、ですね」


「フェルさん……」


 正直に事実を述べただけで褒めてやって上げて。


「いや、だって俺はただのーー」


「「「いやいやいや」」」


「おい! まだ言い終えてないんだぞ!?」


「もっと王として自覚を持っていた方がいいですわよ、フェルさん」


「だから、俺はーー」




「まったくその通りですよ、王」




 弁明しようとしているフェルの背後から聞き覚えがある声に遮られた。


「「「ドライアード様!」」」


 久々にその声の主、ドライアードを見て、突然の彼女の登場にみんな驚きを隠せなかった。


 ……レイアはちょっと違って、歓喜の声を上げていたけどな。


「や、やあ、ドライアード、見ない間にますます綺麗になったな」


「ふふふ、ありがとうございます」


 とりあえず彼女に振り向いて褒め言葉を投げたフェルは内心で汗をかいている。


「ですが誤魔化せませんよ?」


 作戦失敗! 残念だったな、フェル! ドライアードがジリジリと近付いているぞ!


(やばい、笑顔が怖いよぉーーっ!)


「もうちょっと私の苦労を考えてくださいよ」


「「「!」」」


「え、あー、ああ、うん、すまん」


 しかし怒る所か、ドライアードは背後からフェルを抱きしめた! 


「ふふ、分かってくれたらよろしいです」


 甘い声でそう言った彼女はそのままフェルの頬をキスして、離れた。


「「「ああああああ!!!」」」


 さっきからドライアードの行動に驚いて固まってしまったレイアたちは我に返って、突然大声で叫んだ。


 そんな彼女たちの様子を見たフェルは何だかいやな予感をした。


「ドライアード様!?」


「ズルいですわ、ドライアード様!」


「思ったより大胆ですね……やられました」


「迂闊だった」


 と各々ドライアードに講義したけど、当のドライアードは何もないかのように食卓の席に着いた。


「「「フェル(さん)!!!」」」


「待て! なんで俺が睨まれてるんだよ!?」


「ふふふ」


 たじろいだフェルはドライアードを見ると彼女はドヤ顔をしていて、その瞬間彼は理解した。


(やられた! 最初からこれが狙いだった!)


 ドライアードが甘える時点で気付くべきだった! 彼女は他人の目がある限り威厳を保って、ああいう姿は見せない事を! とまあ、フェルは懺悔している。


「ド、ドライアード、仕事するからとりあえずレイアたちを宥めてくれないか?」


「いやですね、まるで彼女たちをコントロールできるような言い草じゃありませんか?」


「さっき出来たじゃねぇか!」


「さあ? 何の事でしょう?」


 確かに現在の状況を考えたらさっき彼女の行動は一種の扇動だったな。

 

「あんなに仲良くして……」


「フェルさん、覚悟してください」


「「うんうん」」


 知らん顔をしているドライアードにさらに講義をしようとしているフェルだったけど、レイアたちが席から立つ事に身の危険を感じてーー


「ド、ドライアード! 助けてくれ!」


 情けなくドライアードに助けを求めた!


「あああああああ!!!」



 ジリジリと迫ってきているレイアたちの凄い威圧感の前に、フェルは悲鳴を上げしまった……。







「うぅ、疲れた……」


 居間のソファーに背をもたれて、フェルは溜め息を吐いた。


(理不尽にもほどがあるぜーーん? 一体何をされたかって? 色々だよ……説教、暴力、説教、説教、ぼーーやばい、体と精神両方とも痛い……)


 あー、はいはい、ナレーターである私の代わりに説明してお疲れ様。


 っていうかーー


「自業自得です」


 その通りだ! もっと言ってやれ、ドライアード!


「何が自業自得だ!? お前のせいじゃないか!」


「元々王が手伝ってくれないのが悪いです」


「……はい、すみませんでした」


 そう言われてぐうの音も出ないフェルはとりあえず謝った。


「それより王、一度精霊界に戻った方がよろしいかと」


「そういえばドライアード様、最近お姿は見ませんでしたわね」


「うむ。王の儀式の後始末とちょっとしたの仕事があってな」


「「「……」」」


「な、なんだ?」


 ドライアードのその言葉にレイアたちは一斉にフェルを見た。


「あんた、さぼってたわね?」


「おいおい、心外だな。最初からしない事をさぼるなんて出来ないだろう?」


「「「……」」」


 正論、正論だけど……こいつ賢いか馬鹿かどっちだ? と正直に答えたフェルにレイアたちは思ってしまった。


「そ、それより何故精霊界に行く必要があるんだ?」


 彼女たちの無言な威圧に耐え切れなかったフェルは話を進めた。


「そうですね……他の精霊から新たな王の姿を見たいという要請がありました」


「……」


 自分の事を隠したいフェルはセレブみたいなことをやりたくないのだ。


 っていうか無理。


「それと反乱が起こらないように力を示せとマクスウェル様がいいました」


「いやだよ、そんなの! 俺はなぁ、出来るだけ穏便に事を運びたいんだよ!」


 まあ、根は平和な世界で生きていた日本人だから話し合いで解決できたらそうしたいとフェルは思っている。


「そうだと思いました。王はそういう人ですから」


 さすがドライアード、フェルの事を一番理解している。


「まあ、力示しはしないがこっちの方が落ち着いたら行くよ。マクス爺にそう伝えてくれ」


 元々そっちに行くつもりだし、とフェル加えた。


「分かりました」


「うむ、理解ができる嫁を持ってーー」


「次はーー」


「まだあるのかよ……?」


 次々とやってくるドライアードの報告に頭が痛くなったフェルはげんなりしている。


「ふふ、精霊界を統治(とうち)するのは簡単じゃありませんよ?」


「ちょ、ドライアード!?」


 そんな彼の隣に座っているドライアードは突然彼の首に両腕を回して、自分の方へ引っ張ったのだ。それで彼女の顔が目と鼻の先にあって、息がかかっている程近くなった事にフェルは思わずドキッとしまった。


(今日は妙に甘々だな……)


 もしかして寂しいのか? と内心で思ったフェルだけど、理由はそれじゃなくーー




「「「ドライアード様!?」」」




 ーーこれである。


「ド、ドライアード! と、とりあえず報告の続きを聞こうか!?」


 このままだとまた理不尽な暴力と説教が待っているから、そりゃあフェルも焦ってドライアードをちょっと押し戻して話を促した。


「「「とりあえず!?」」」


 しかし言葉の選びが間違っているから、状況が悪化している一方だ!


「む? 分かりました」


 押されたドライアードは少し不満そうな顔をして離れた。


「それとですね、ちびたちを精霊界にひなーーん! 移動しました」


「お? やっと終わったか?」


 これは精霊界から現世に戻る前にフェルがドライアードに頼んだことだ。想定より時間がかかったけど、これでフェルの中にピースはほぼ全部揃っている。


「ところで今〝避難〟を言い掛けなかった?」


「気のせいです」


 確かに言いかけたな。でもドライアードは何ないような顔をして半眼で自分を見つめているフェルを見つめ返した。


「……まあいい、なら計画を実行してもいいんだな?」


「はい。大丈夫です」


「「「???」」」


 ドライアードとフェルのやりとりを見ている他の連中は首を傾げる。


「この前エイオンから聞いただろう? 建国の話」


 精霊王の儀式が行っている間、当時精霊の女王であるエイオンにフェルはレイアたち宛の伝言を預かった。その時建国の話もあったのだ。


「そういえばそうですね」


「あの時それ以上の問題があったから、すっかり忘れてたわ……」


「?」


 ルナとレイアの呟き一体なんの問題なのかと疑問を覚えているフェルだけど、訊くのが怖くて黙る事にした。


「それで?」


「んで、建国の際に魔法を使うつもりだから、ドライアードに頼んでちび達を避難させたんだ」


「コホン! 移動しましたよ、王」


「……いいんだ、ドライアード……ありがとう」


 魔力の塊みたいな精霊たちは自分より大きな魔力に敏感で警戒するのだ、特に小さな精霊たちはな。


 だからその、なんだ、気にするな、フェル……。


 ……。


 とにかく! 自分の事にこれ以上怖がらないようにフェルはドライアードにちびたちを避難させて貰ったのだ。


「設計図を見直して……後ディンからの連絡をーー」


 やる事を整理して、フェルはぶつぶつと呟いている間に女性陣はーー


「なるほど。それで最近見ませんでしたか、大変でしたね」


「精霊界での仕事は大変ですの?」


「そりゃそうでしょう? 全精霊の世界よ?」


「一国を統治するよりずっと大変そうですね」


 うんうんと最近ドライアードの姿が見ない理由に納得したレイアたちは各々の意見を言い出した。


「いや、単に王が仕事しなかったからだ」


 しかし真の理由はこれである……。


「「「フェル(さん)?」」」


「ーーん? えっと、俺用事があるからーー」


 考えの海からレイアたちの呼び声によって引き戻されたフェルは彼女たちを見て、何だ嫌な予感がして逃げようとしている。


「逃がしませんわ!」


「ちょ、放せ! お前、ぜったい戦闘が得意だろう!?」


 まあ、フェルの行動を正確に予測したし、素早い動きで彼の背後を取って捕まえた、どう考えても戦闘が得意としか思えないな。


「ナイス、アンナ!」


「さすがアンナ様ですね!」


「お前らもいい加減にこいつの運動神経に気付けよ!」


「さあ、反省させてもらうわよ!」


「ま、待て! ちゃんと説明するから! ド、ドライアードも何か言ってくれ!」


 迫ってきているレイアたちを見て更に焦りを覚えたフェルはソファーに寛いでいるドライアードに助けを求めてーー




「そうですね、王は一度反省すべきかと」




 見捨てられた……。


「終わった……」


 そう、終わったのだ。


 いつも自分の味方にしているドライアードに見捨てれたフェルは自分はここまでだと悟って、諦めた。


「こっちに来なさい!」


「ディア」


「既に準備してあるよ、ルナねぇ」


 ルナとディアは既に椅子とロープを用意した!


「ま、待てーー」


「観念しなさい、フェル!」


「いや、いやああああああああああっ!!!」



 情けなく悲鳴を上げたフェルだった。

フェル「縛らないで! 俺そっち系に趣味ないよ!」

レイアたち「「「ダメだ、こいつ……」」」


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