71。あんたたち姉妹、落ちたわね
2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)
「それじゃあ、まずこれを折ってみろ」
ディアから受け取った彼女の魔剣を鞘から抜いて、フェルは先端を彼女に向かせる。
「いや、そう言われても……」
自分の物を壊すのに抵抗を感じるディアは躊躇った。
「いいからやれ」
しかしこれを折れないと刀の性能信じないだろうとフェルは確信して彼女を促した。
「……」
渋々しながらも彼女は刀を剣のように構えて、一息吐いた後右上から左下へ刀を振ってーー
ガキン!
「折っていないな」
「そうだな、折ってないな」
そう、何も折っていない、魔剣も刀も。
「とりあえず魔力を少しい刀に流してみてくれ」
当然刀の性能を知っているフェルはこの程度の魔剣なら斬れるはずだと思って、性能より問題は使用者にあると結論に至った。
戸惑いを抱いているままディアは言われた通り刀に魔力を流すと、刀に変化が起こった。
「な、何だ?」
「うーん、刀から魔力を感じますね」
「薄い魔力に纏われてるよ?」
「存在感もさっきと違いますわね」
驚いたディアをよそにしてルナたちはそれぞれの感想を述べた。
「よし、もう一度だ」
そう言ったフェルは再び魔剣の先端をディアに向かせて、促された彼女は構をとってまた刀を振った。
ヒュッ!
「ん? 空振りだったか?」
普段使っている直剣と違って、反りがある刀に慣れしていないディアは手応えがない事に違和感を覚えた。
しかしそれ違う。
「すごいですわね」
フェルは魔剣を少し揺らすと先端は地面に落ちて、切断面を見ているアンナは斬られた先端を拾い上げて、レイアとルナに見せた。
「どんな切れ味してんのよ、その刀?」
「……いえ、これは魔力が原因じゃありませんか?」
まじまじ切断面を見ている二人は呆れている。
「その刀は確かに他の魔法武器のように特定のキーワードはない」
ちょっと刀を貸してくれ、と本来の力を見せるためにフェルはディアから刀を受け取った。
「だがこの刀に一定量の魔力を込めるとーー」
「「「っ!」」」
みんなに見えるようにフェルは刀を右手で持って前へ突いたあと、一気に魔力を込める。
すると全体漆黒色だった刀身は底なしの闇のように変わって、そのまま左手にある斬られたディアの魔剣の残りの剣身に近付かせてゆっくりと刀で消す。
「とまあ、これがこの刀の本当の力だ」
残っている魔剣の柄を見せた後、フェルは流している魔力を止めると刀は元の形に戻った。
「「「……」」」
今の光景と出来事にみんなはしばらく固まってしまって、最初に我に帰ったレイアはディアに問いをかけた。
「ディア、出来るの?」
「出来るわけないだろ?」
無理を言うな、と肩を落としながらディアは溜め息を吐いた。
「大丈夫大丈夫、鍛錬したら出来るようになるさ。お前なら出来る」
「あ、ああ、うん」
激励の言葉を言いながらフェルは刀をディアに返して、それを受け取った彼女は顔を赤くして目を逸らした。
「ーーはっ! どさくさに紛れて人の妹を口説かないでください!」
「は!? 何言ってんだ!? 俺なりの励ましだったけど!?」
「あんたたち姉妹、落ちたわね」
「落とさないから何も落ちないんだよ!」
「そうですわよ、フェルさん! 口説くならわたくしにしてください!」
「お前さっきからうるさいなぁ!!!」
女性陣の言葉に頭が痛くなるフェルだった……。
▽
「一閃!」
数日後の朝、刀の練習を付き合ってくれと珍しくディアはフェルに頼んで、二人はいつもの森の中にある開けた場所にいる。
刀の使い方や注意点の説明を受け、数え切れない失敗をしたディアは技名を叫びながら高速で前へ突進して、最後に右手に握っている刀を左下から右上へ振った。
「ふぅ、これはいいな!」
技がスムーズに放たれて、彼女は嬉しそうに刀を左腰に吊るされている鞘に達人みたいに納めた。
……すっかり慣れている。
「だが前見たいに一閃で突けないのは残念だな……」
「そこは仕方ないだろう?」
刀は突きじゃなく斬りに重視して開発された武器だからな。突くこと自体出来るが、先端はやや反っているから剣に比べると効果が劣る。
「その代わりお前の一閃は以前より速く、応用が利くようになるから悪くないだろう?」
〝一閃〟は元々剣の重さによるデメリットをカバーする為にディアが編み出した剣技だ。魔剣より比べ物にならないくらい軽い刀はその技をより速くして、突きにしか使えなかった一閃は今突き以外に使えるようになった。
まあ、今の彼女は左下から右上への斬りしか出せないけど。
「ところで何故この刀を私にやった? お前用の武器だろう?」
戦える人が武器を作る理由は大体自分のためだから、ディアの質問はもっともだ。
「……俺の戦闘スタイルに合わないんだよ」
「戦闘スタイル?」
ああ、と頷いたフェルは更に続ける。
「俺は魔法剣士、魔法と剣を同時に使って戦う」
「……そうだったな」
魔法剣士、剣と魔法を同時に使っていながら前線で戦う人の事だ。それはどれほど難しい事かディアはちゃんと理解している。
「んで、俺の剣裁きは攻めより守りに特化したんだよ」
「守り?」
「相手の攻撃を躱して、防いで、往なして、最後にカウンターを討つ。だから刀より短剣の方がいいんだよ」
普通の剣は重くて、重心も柄からちょっと離れるから素早い反応が必要とする守りには向いていない。刀も同じ理由で使えないから彼は短剣にしたのだ。
「そうか、魔法があるから攻めの方はそっちだな」
まあな、とフェルはまた頷いた。
「それよりこれからお前の課題だがーー」
「え? 課題あるのか?」
「刀の真の能力引き出したいだろう?」
当たり前だ。向上心あるのか? とフェルはディアに呆れて更に続ける。
「せっかくの機能だからな、使えないと勿体ないだろう?」
「それは、まあ、そうだけど」
納得したディアは腰に吊るされている刀に視線を落とす。
ブスッ!
「よーし! お前の課題はこれを斬ること!」
魔法袋から取り出した長い鉄のパイプを地面に刺して、フェルはディアに笑顔を見せた。
「その棒は……?」
「棒じゃなくパイプだ。このパイプは一定以上の衝撃を与えないと傷一つも付かないぞ」
試しに斬ってみろ、とフェルに言われたディアは腰を落として、左手は刀の鞘を、右手は柄を握る。そして一息吸った彼女は素早く刀を抜いてパイプを斬る!
「なにこのパイプ!?」
ーーつもりだったけど、刀がパイプに当たる瞬間止まってしまった!
「言っただろう? 一定以上の衝撃がいるって。だからお前の技量、魔力、魔法、力を全部ぶつけろ」
「……分かった。期限はあるか?」
「ない! 斬ったら俺に報告するように!」
すぐに斬れないだろうと確信したフェルは敢えて期限を設定しない。
何せこの課題をクリアするために魔力量の上限とコントロールを上げなければならない。魔法使いじゃないディアには時間がいると彼はわかっている。
「……」
「まあ、頑張れよ」
無言のままパイプを睨んでいる変人化としたディアを置いて、フェルは先に屋敷に戻った。
ディア「……」
パイプ「あ、あの、そんなにじっと見つめると照れちゃいます……」
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