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勇者? 人違いです  作者: Adhen
70/128

70。ギブ! あ、この柔らかい感触

2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)


「いや、この剣の質全然分からないから何とも言えないな」


 漆黒の剣身を見て、ディアは首を横に振る。


「その剣、魔石から出来ていますね」


 と、そこで銃の練習が終わったルナは近付いてそんな事言った。


「魔石って魔物の体内に必ず見つける、あの魔石の事か? じゃあこれ魔剣?」


 魔剣とは粉末状(ふんまつじょう)の魔石と溶かされた金属を融合して鍛冶された剣の事だから、ディアの手にある漆黒の剣は魔剣といえば魔剣だ。


「魔剣だとしてもこの漆黒色ってなんだ? 漆黒の金属なんてあるか?」


 魔石と融合しても大体の魔剣の色は使われた金属の色になるのだ。しかし漆黒の金属なんてない、この世には存在しないのだからディアが疑問を覚えても仕方がない。


「ああ、金属使わなかったから」


「そうだろうな、塗料をつかーー今なんて?」


「純魔石ってことですか? 巨大な魔石ならーーえ? この魔力ってーー」


 間近で剣を見ているルナは勢いよくフェルに振り向いた。


「ふ〜ふ〜」


口笛(くちぶえ)になってないわよ!」


 両手を後頭に組んで彼方の方へ見ながら、まったく音が出ない口笛をしているフェルに戻ったレイアはツッコミを入れた。


「おまっ、人の精一杯な努力を否定するな!」


「バカなの!?」


 ぎゃぎゃ! と口喧嘩? をしているバカな二人を置いて、ディアはまだ驚愕しているルナに声を掛ける。


「魔力がどうしたの、ルナねぇ?」


「え!? えぇ、フェルの魔力よ」


「は?」


「だからこれはフェルの魔力から出来た魔石なのよ」


「いやいや、それはないじゃない?」


 いくら自分の姉の言葉でもディアは今聞いた情報を信じ切れなかった。


「確かに理論上では可能ですわね」


 そこで話を聞いたアンナは会話に加わって、説明する。


「魔石とは過剰(かじょう)な魔力が一ヶ所に集まって結晶化した石のことですわ。その理論からすると自分の魔力を一ヶ所に集めて結晶化すれば魔石を生み出せますわよ」


 それを成し遂げられるの話ですけどね、とアンナは加えた。


 魔物は魔力が濃い場所にしか住めないから体内の魔力が段々と蓄積して過剰になって、魔石が出来てしまう。


 しかし人間にはそれが出来ない。


 もし魔物と同じ環境に人間が住んだら魔力酔いの現象が起こって、最悪の場合魔物になるのだ。


 要するに魔石を作るには膨大な魔力が必要で、とても人間が出来ることじゃない。


「いくらフェルでもーー」


「あのフェルさんですわよ?」


 そう否定しようとしたディアはフェルを指差しながらアンナに遮られて、みんなは彼の方を見るとーー




「ぎゃあああ! ギブ! あ、この柔らかい感触ーーああいだだだだ! ギブ! ギブウゥー!!!」




 ーーそこにはレイアにヘッドロックされているフェルの姿があった。


「「「……」」」


 本当にこいつの魔力なのかって内心でアンナたちは思ってしまう程の光景だった……。


「ルナねぇーー」


「言いたいことは分かるけど、間違いなくフェルの魔力よ」


 二人の姉妹は頭を振った。


「くっ! レイアさんずるいですわ!」


「「……」」


 そしてアンナの言葉を聞いて、さらに呆れて、溜め息を吐いた。


「レイアちゃん、そこまでにしてください」


「ふん!」


「うぅ……頭が……」


 ドサッ! っとやっと解放されたフェルは四つ這いになって頭を垂れている。


「大丈夫ですか?」


「あ、ああ、ありがとうーールナ優しいね」


 すぐにフェルの元に駆けつけたルナは手を貸して、立ち上がった彼は彼女に笑みを見せた。


「い、いえ、そ、そんな……」


「何もじもじしてんの、ルナさん!? っていうかルナさんを口説かないでくれる!?」


「心外だな! 彼女も喜んでるじゃないか!? 喜ばせるなら何でもやるさ!」


 とフェルは如何にも紳士っぽい事を言って抗議している!


「バカ! 口説くはダメでしょ!?」


「そうですわよ、フェルさん! 口説くならわたくしにして下さい!」


「「「……」」」


「な、何ですの? 皆さんにして」


 今の発言は淑女としてあまりよろしくない、ここにいるみんなはそう思っている。


「ま、まあアンナの欲望は置いといて、その剣、刀というんだけど、確かに俺の魔力から出来た魔石だ」


 そう、実は漆黒剣じゃなく刀なのだ。


「ですがこの刀? の大きさ程の魔石はどう加工したのですか?」


 魔石は非常に硬いから加工には困難がある。魔剣の値段が高いのもこれが原因の一つだ。


「いえ、フェルさんの事ですから最初からその形にしたじゃありませんの?」


「そうね、フェルだし」


「お前ら、俺を何なんだと思ってるんだ?」


 まるで自分は異常者みたいなアンナとレイアの発言にフェルは肩を落とした。


「「違う(います)の?」」


「いや、その通りだけどさ……」


 ほらやっぱり、とフェルの答えを聞いた彼女達はお互いの顔を見て肩をすくめた。


「まあ、魔力はオーラとしてイメージがあるんだろう? そのオーラを、こうやって刀の形にしただけだ」


 説明しながらフェルは左手を胸前まで上げて拳を握る。


「あたし以外誰も見えないから見せる意味ないじゃない?」


「……それもそうか」


 と、レイア以外誰も魔力を目視出来ない事実を思い出したフェルはガッカリして手を下ろした。


「レイアちゃん、何か見えましたの?」


「えっと、刀? の形をしている灰色の魔力よ」


 手の動きでさっき自分が見た刀の形を描きながらレイアは答えた。


「魔石は確かに硬いです、フェルさんの魔石ならなおさらでしょう。それでも金属にぶつかったら折れてしまいませんの? ましてやその細い物では……」


 物が折れる理由は色々あるが、硬さはその一つ。


 硬すぎる物は折れやすい、だから金属の道具を作る時ある程度柔軟性(じゅうなんせい)考慮(こうりょ)しなければならない、でないと氷とかセラミックみたいに一定の高さから落ちるだけで壊れるのだ。


「ああ、その事なら心配いらない、付与魔法がついてるから」


 並みの鉄より硬い魔石だけど、日本刀みたいに細くすればすぐに折れると経験から学んだフェルは物に定着する魔法、付与魔法を刀に掛けたのだ。


「ブレイバリー、プロテクション、耐熱(たいねつ)耐寒(たいかん)、耐ーー」


「ストップストップ!」


「なんだよ? 説明の邪魔だぞ?」


「何その武器!? 聖剣よりすごくない!?」


「大袈裟だなぁ……」


 いや、まあ、レイアの言う通りほとんどの聖剣には劣らない。だけど聖剣フォレティアみたいに魔力を循環(じゅんかん)できる聖剣にはさすがに勝らないのだ。


 魔力を循環出来るってことは周囲の魔力を自分の物として使えるってことだ。


 使用者の魔力は殆ど不要で魔法を使い放題チートレベルの武器である。


 それに比べたら使用者の魔力を必要とするフェルが作った刀はただの刀に過ぎない。


補助(ほじょ)魔法を変えましたね……」


 と、ルナは魔法名を聞いて呆れた。


 彼女が言っている補助魔法とは他の人の能力を上昇する魔法の事だ。しかし効果は一時的だけ。


 じゃあ同じ魔法を物に定着できないかと考えたフェルは色々試して実験した結果、刀に付与してある魔法なのだ。


〝プロテクション〟は物の原子間結合力を強くする補助魔法。この魔法のおかげで刀が折れる心配はなくなる。


〝ブレイバリー〟は使用者の血の流れを安定させて精神を落ち着かせる補助魔法。これで使用者はいつも冷静でいられる。


 他にも色々あるけど、さっき行った二つの魔法は代理的だ。


「つまり魔力さえあれば大丈夫って事だ」


「これにそれらの能力があるのか……なんて恐ろしい魔剣、いや、魔刀(まがたな)だ」


 説明を聞いたディアはマジマジと刀を見る。


「あー、いや、それ魔剣とか魔刀じゃないけどな」


「「「え?」」」


「魔剣みたいにキーワードはないから、魔剣じゃないだろう?」


 同じく魔石から作られるけど、魔剣は秘められた力を引き出すためにキーワードが必要だ。それに反してこの刀は単に使用者を強くするだけ。


「黒歴史増やしたくないもんな!」


 そういうことだ。


 中二心を刺激する、人生の黒歴史になるようなカッコイイキーワードなんて存在しない。


「そ、そうか」


 笑顔でそう言ったフェルにディアは引き攣った笑みを浮かべた。


「それよりお前ら、勝負はどうなった?」


 三人が話に加わったから勝負はもうついたと思ったフェルに訊かれるとレイアとアンナの表情は悔しそうになってーー


「ふふふ〜」


 ーー自然にみんなはルナに視線をやると彼女は左手を腰に当てて、右手を上げていながらその手にある銃をクルクル回して、最後に顔の横に止めてふぅー、と銃口(じゅうこう)を吹いた。


「「「……」」」



 ……ポリスウーマンである。

フェル「ちょっとルナ、そのポーズどこで学んだ?」

ルナ「さぁ?」


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