7。すみません、うちの人が……
2021年3月31日 マイナー編集
2025年2月24日 視点変更(物語に影響なし)
「こ、これはっ!?」
少年の後に付いていくルーガン、ネアとレイアの三人は小屋の裏方に着いたら驚きの声を上げた。
「さあ、遠慮は無用、沢山ありますから」
すごい笑顔で少年は三人にテーブルに並べてある食物を見せた。
(え、おっさんなの!? でも顔と声からしてあたしとそう変わらないけど!?)
他の二人の目線は食べ物に釘付かれたけど、レイアだけは少年を観察して、彼の黒髪に白髪が混じっている事に気付いて内心で驚いた。
「い、いや、いいのですか?」
「えぇ、おかけください」
席をすすめた後、少年は先に自分の席へ向かった。
(これ、ステーキよね? でも何このソース?)
(だ、大丈夫か、これ?)
(た、食べ物だよね?)
並べられた食物の見た目に三人は席に着いたものの、誰も食べ物に手をつけていない。
「どうかしましたか? 大丈夫ですよ、毒は入ってませんから」
「え? い、いえ、そういう事じゃないんです」
ステーキのソースの色が濃い紫なのだ、誰が見ても毒しか見えない。
こういう場合は自分が先に行動した方が相手に始めさせやすいだろうと思った少年は三人を無視して、食べ物に手をつけた。
それを見た三人は密かに安堵の溜め息を吐いて、目の前にあるステーキを食べ始めた。
「「「っ!?」」」
用意された食物を口にした瞬間、三人は固着してしまった……。
▽
「はぁ~おいしかったよ~」
ネアは満足そうに言った。
「本当ですね、ごちそうさまでした、えーと……」
遠回しにルーガンは少年の名前を訊こうとしたけど、少年に悟られなかった。
(もしかして鈍い? コミュ力低い? それともわざと?)
気が効く相手なら今のルーガンの合図に気付くはずだから、レイアはそう思っても当然だ。
「ぼ、僕は探検者ギルドに所属しているルーガンです、えっとーー」
何とも言えない空気になりそうだからルーガンは先に自己紹介してまた少年の名前を訊こうとしたけど、少年はただそれに頷いてレイアを見る。
「レレレレイア、です!」
また失敗した!!! と突然来た視線に不意打ちを食らって噛んでしまった彼女は渾身のツッコミを心の中でした。
仕方ないのだ。昨夜の出来事のせいでレイアの中に少年に対してちょっと苦手意識が出来てしまったのだ。
(泣きたい……とりあえず自己紹はした……)
レイアの内心なんて知るはずがない少年は頷いて、今度はさっきから少年とルーガンたちのやりとりをただ見ているだけのネアに顔を向ける。
「?」
しかし当のネアはただ黙って少し首を傾げるだけだった!
「コホン!」
「ん……? あっ! あたし、ネア! ルーと同じ探検者ね!」
やがてルーガンがわざとらしく咳払いしてようやく意図に気付いたネアは自己紹介した。
(こっちにも鈍い人が!? もしかしてルーガンさん、結構苦労してる!?)
(頼むよ、ネア!)
その通りである。
「うーん、ルーガンさんにネアさんそして……レレレレイアさん???」
少年は不思議そうな顔で再びレイアを見る。
「ち、違います!」
「ぶっ! はははは! 〝レレレレイア〟だって! ねぇ、ルー、きい――」
「ちょっ、ネア! ちょっと黙ってろ!」
「むぐっ~!」
慌ててネアの口を手で塞いだルーガンだけどーー
「もう遅いよ、ルーガンさん……」
被害はすでに出てしまった!
「あ、あの、彼女の名前はレイアですよ、えーと……」
「あ、ああ、すみません。自分はフェルと言います」
誤解だと気付いた少年、あらためてフェルは苦笑してレイアに謝罪の言葉を述べた。
「い、いえ、こちらこそ……」
「てっきりこっちのネーミングセンスかと思もいましたよ……」
「うぅ……」
あまりの恥で顔が熱くなって、今自分の顔は絶対に赤くなっているとわかったレイアは俯いた。
「あの、その口振りだとフェルさんはこの辺りの人じゃないですよね?」
そんなレイアのためにルーガンは素早く話題を変えた。
「ん? ああ、そうですよ。旅をしている身なんで」
「なるほど、それでこの森にたどり着いて出られなくなったのですか?」
「いや、出たいならいつでも出られるんですけど……そうだ! よかったら一番近い村、もしくは町の方向を教えてくれませんか?」
「……なるほど、もちろんいいですよ」
そう言ってルーガンはミシーについて説明し始め、それが終わった後フェルに問いかけた。
「ちなみにフェルさんはいつからこの森に?」
「そうですね……一ヶ月前くらいですかね」
「「「!」」」
「それがどうかしましたか?」
考え素振りを見せて答えたフェルにレイアたちは驚きを隠しきれなかった。
無理もない。彼らにとってもしそれが本当ならこの少年、フェルは自分たちが受けている依頼のカギになるかもしれないからだ。
「え? あぁ、何でもないです! ねぇ、皆さん?」
フォローを求めているルーガンは仲間に振り向いた。
「そ、そうよ〜。フェルってもしかしてすごい人〜?」
「いいえ? どうしてそう思います?」
「一ヶ月間ずっとこの森の中だよね〜? 普通にすごいよ〜」
慌てて話題を変えたネアの言う通り、魔力に影響された獣、魔獣と猛獣が多いこの森の中で一ヶ月間過ごすのは危険すぎる。
普通に過ごしているフェルは他人からしたら只者ではないのだ。
「あの、この一ヶ月間、何か変なことありましたか?」
「変なこととは?」
もしかして森の異変について何か知っているかもしれないと思ったレイアは訊いてみたけど、意味がわからないと言わんばかりにフェルは首を傾げた。
「例えば大きな音とか聞いたことありますか?」
「え? あ、あぁ、いいえ?」
とフェルは答えながら目を逸らした。
(怪しいわね……)
(怪しいな……)
(わかりやすい〜?)
まあ、当然彼の反応を見たら誰だって怪しむだろう。
それに彼が何も聞こえなかったなんて有り得ない。ミシーにまで轟いたのだ、この森で一ヶ月間過ごしている人にも聞こえたはずだ。
「そ、それより皆さんはどうしてこの森に?」
ついに来た! フェルが話題を変える番!
「森の調査をしに来たのよ〜」
「ギルドに依頼されました。ここ最近森から大きな音とかいろいろ聞こえるという報告がありましたから」
「へ、へぇー、そうですか」
ルーガンたちはお互いの顔を見て頷いた後事情の説明をして、それに対してフェルは引きつった笑みを浮かべた。
(何か知ってるわね)
(なんか知っているな)
(わかりやすい〜!)
その笑みを見た三人の疑惑は確信に変わった。
「はい、だからしばらくこの森にいるつもりです。出来ればこの辺りを拠点として使いたいのですがーー」
「ええ、もちろん構いません。自分はそろそろ町に行きたい所ですし小屋も使って構いませんよ」
普通の人ならここで遠慮すべきなのだ。そしてルーガンはその普通の人に分類されるから、フェルの提案を断る。
「い、いえ、そこまでとはーー」
「え!? いいの!? やった〜!」
つもりだったけど、ネアに遮られて代わりに提案を受けた。
「ちょ、ネア! この口か!?」
「|ほえぇ〜!? いはいお〜、うー《えぇ〜!? いたいよ〜、ルー》」
ルーガンに両頬をもみくちゃされた彼女は涙目しながら抗議している。
「ははは、いいですよ。自分からの提案ですし、好きに使ってください」
「す、すみません、うちの人が……」
愉快そうに笑っているフェルに本当に申し訳ないと思って謝っているルーガンの姿はそこにあった。
「苦労しているね、ルーガンさん……」
そんな彼を見てレイアは哀れみを覚えた。
▽
「さて、自分はもう行きますね」
手に蔦袋を握っているフェルは小屋から出て三人に言った。
「は、はい、気を付けてください」
旅人のわりに荷物が非常に少ないと思っているルーガンの返事は少しぎこちなかった。
「ありがとうございます。小屋にあるものは好きに使ってください」
ではっ! とそう言い残し、フェルはルーガンに教えられた方向へ出発した。
「……どう思います、レイアさん?」
残されたルーガンたちはしばらく去っていく彼を無言で見ていて、姿が見えなくなった途端ルーガンは突然話を切り出した。
「そうね……はっきり言って怪しいわ」
「ですよね」
当然だ。
反応からみるとフェルは何かを隠しているに違いない。ルーガンとレイアはそれに何となく勘付いたけど本人には聞けなかった。
それはいいけどーー
「ねーねー、二人とも! 小屋の中がすごいよ〜!」
小屋の方からからネアは二人を呼んでいるのだ。
「うぅ……すみません、うちの人が」
「え、ええ。いつもああなの?」
「はい……」
肩をすくめて小屋の方へとぼとぼと歩いていったルーガン。
「苦労してるわね、ルーガンさん」
そんな彼を見てレイアは再び哀れみを覚えた。
ネア「ねぇねぇ! この紫ソースなに〜?」
フェル「グレープソースですよ」
ネア「確かに甘酸っぱかったね〜! おかわり〜!」
フェル「どうぞ」
ルーガン「すみません……」
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