69。いえいえ、まさか~
2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)
プッシュ! プッシュ!
「ああぁぁ! これ難しいわ!」
と、レイアは手の中に握っている魔法道具、マナ銃を投げようとしたけど、踏み留まった彼女は銃を恨めしそうに睨んだ数秒後、落ち着きを取り戻して再び銃を構えて的に撃った。
「もう! また外れた!」
そしてまた再びマナ銃を投げようとしている……。
「はぁー、銃を貸してくれ」
さっきからその繰り返しでフェルには見てられない。
「な、何よ? 取り上げはなしからね!?」
しねぇよ、そんな事! と彼女に突っ込んで銃を受け取った。
「いいか? やる事は二つ。魔力の識別と的定めだ」
プッシュ!
渡された銃から放たれた魔力、魔弾は的に当たった。
「ほら、簡単だろう?」
ぐぬぬぬ! とレイアは返された銃を睨め、再び的目掛けに魔力を撃つ。
「どう思う、アンナ?」
「そうですわね……反動はありませんし、魔力を圧縮する時間も極めて短いですわ。思ったよりいい出来だと思いますわよ?」
二人が開発した銃の形は現代の拳銃と似ていて、仕組みとしては使用者が識別した魔力を吸い込んで、圧縮する。それによって魔力は強度を得られて弾丸、この場合は魔弾になる。そしてトリガーを引いた時、圧縮された魔弾は銃の後部分から銃口に移動されていながら高速で回転される。これによって魔弾は貫通性を持って遠くへ飛べるようになるのだ。
火薬は必要ないし重量がある弾丸ではなく重量なしの魔力を飛ばすから反動はなくなって、それによって連発は可能になる。
パパパパパパッシュ!
「案外使いやすいですね」
と、ルナは銃を数発撃った後フェルとレイアに近付きながら笑みを浮かべてそう言った。
「流石だな。レイアも見習えよ?」
「ぐぬぬぬ!」
「そう睨むなよ……」
パッシュ!
レイアは的に銃を撃って、また外れた。
「だああああああ! どうして当たらないのよ!?」
そしてまたきれた。
「はぁー、仕方ない」
このままだと銃が地面に投げられる未来は必ず来るだろうと思ったフェルは溜め息を吐いた。
「え!? フェ、フェル?」
横から銃を持っているレイアの右手を握って、フェルは説明し始めた。
「いいか? お前は右利きだから、銃を構える時左足を前に出せて少し曲げろ。銃を目線まで持ち上げ、肩から手をまっすぐ伸ばせ。左手は右手を下から支え、狙いを安定させろ」
「うぅ、うん」
重要なポイントを説明しながらレイアの姿勢を正して、最後にフェルは後ろから彼女の右手を自分のと重ねて銃を持ち、左手を彼女の肩に置いた。
「ほら、魔力を識別して狙いを定めろ。呼吸を整ってーー撃つ!」
パッシュ!
トリガーに乗せてあるレイアの指に自分の指を重ねて、フェルはトリガーを引くと魔弾は見事に的に当たった。
「あ、当たった……当たったよ!」
しばらく呆然としているレイアはやがて我に返って、嬉しそうに跳びはねた。ついにやり遂げた! みたいな顔をしているのだ。
「「ーーはっ!」」
そんな彼らの様子を見ているルナとアンナは急に声をあげた。
「フェ、フェルさん! わたくしもレイアさんみたいに教えてください!」
「わ、私も!」
そして勢いよくフェルに迫る!
「い、いや、無理だな」
「「どうしてですか!?」」
「どうしても何もお前らの背は俺より高いだろうが! レイアの時みたいに後ろから支えられないんだよ!」
自分の背の低さに思い出させたフェルはヤケクソに言ってーー
「「そんなぁ〜」」
ーー説明を受けた二人は肩を落とした。
全員ダメージを受けている、救いのない結末だった……。
「そ、それにアンナならともかく、ルナはさっき見事に扱えたじゃないか?」
「ぐ、偶然ですよ。ほらーー当たれませんよ?」
パッシュパッシュと的を目掛けに銃を撃ったルナ。
さっきと違って全部外れた。
「絶対わざとだろう!?」
「いえいえ、まさか〜」
ぶんぶん、と手を振りながら苦笑しているルナは目を逸らした。
「……まあいいだろう! だが内容はそれぞれ違うからいいな?」
アンナに自衛を教えるいい機会だと内心で思ったフェルは二人に確認を取った。
「そうだな……まずはーー」
その後フェルは二人に、途中でレイアが加わって、三人に銃の扱いを教えた。
今更なのだが、何故銃の扱い方分かるのだ???
▽
パッシュ! パッシュ!
「よし! ねえ、ルナさん! 勝負しない?」
「ふふ、いいですわね。わたくしも参加させていただきますわ」
「この私に勝てると思ってます?」
数日後、仲良く練習をしているレイア、アンナとルナは何やら競い始めた。
「ーーフェルとーー」
「ーーダメですわ!」
「ーーナーー大きい!」
こそこそ話している三人だけど、自分の名前が聞こえたからフェルはちょっと不安になってきた。
「あれでいいのか、フェル?」
「いいも何も、会話がよく聞こえないから何も出来ないだろう? 何か企んでるのは確かだが……」
ちらちらと話し合いしながらフェルを見ている三人に彼の背後から来たディアはちょっと引いた。
「休憩か?」
「いや、切り上げだ。もうすぐ日が暮れるからな」
ディアの言う通り、空はもうオレンジ色に染まっている。
「先に戻るわ」
「ああ、おつかーーあれ? ディア、剣はどうした?」
歩き出したディアの後ろ姿を見て、彼女の腰に吊るされている剣はフェルの視界に入って、微かな魔力を感じているから魔剣に違いないと彼は推測した。
しかしそれだけだ、特別な何かが何もない。
「以前もっとすごい魔剣を使ってたような……」
交戦した事あるからこそフェルはそう違和感を感じてしまう。
「何言っているのだ? この前お前が切ったじゃないか?」
「この前? 俺が?」
「幻想の森でドライアード様が来た直前だよ」
いつ? どこで? と自問自答しているフェルにディアは言ったけどその通り、彼女の魔剣は綺麗さっぱりフェルの手によって幻想の森での戦いに切られたのだ。
「あー、それは悪かった……代わりにこれをやるよ」
自分がやった事を思い出したフェルは罰が悪そうになって、魔法ポーチから一本の剣を鞘ごと取り出してディアに投げた。
「もしその剣の質が良ければ、の話だが」
剣を抜いたディアはまじまじと剣を無言で見つめている。
フェル「お前ら、何を賭けたんだ?」
レイアたち「「「……」」」
フェル「笑みを浮かべないで答えろよ! ちょっと怖いわ!」
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