68。少し俺の苦労を考えてくれよ……
2025年7月29日 視点変更(物語に影響なし)
「今度こっちから行くぞ」
そう言った直後フェルは上空にアイスニードルを出現してレイアとルナ目掛けに飛ばすーー
プシュー!
ーーつもりだったけど、出現した氷柱はほぼ瞬時に火の波動みたいなものに溶かされた!
それを見たフェルは再びアイスニードルを、しかも今回は二ヶ所に同時に発動して飛ばそうとしたけど、同じように溶かされた!
「成長したな、レイア!」
フェルの氷魔法はピンポイントに火魔法で対応されたのだ。
それをやったのはルナだけど、展開された魔法は氷属性だと特定したのはレイアだった。
「いやぁ、師匠として嬉しい事だな!」
魔力コントロールしか教えなかった人が師匠面をしている……。
「ふん! あんたの魔法なんてどうってことないわ!」
「お? 言ったな?」
「レイアちゃん……」
「バカかお前!? こいつを挑発してどうする!?」
「いやいや、そんな安い挑発なんて乗らないよ」
「っ! ディア!」
「ああぁぁーもうっ!」
挑発に乗らないとか言ったわりにフェルは魔法を発動しようとして、高密な魔力を感じたルナの慌てぶりの呼び声に答えて、ディアは高速でフェルを襲ってくる!
「させると思うかっ!?」
「いい判断だな!」
接近したディアはその言葉と同時に連撃を放って、フェルはそれを短剣で受け止めて、いなして、躱した!
自分よりずっといい剣の腕前をしているディアの前にフェルは大魔法のために集めた魔力を維持する余裕はなく、解放する事にした。
さらにーー
「アースバインド!」
後方からルナは彼女をサポートしている!
「アースランス!」
魔法でフェルの足を拘束して、追い討ちにレイアは土の槍を彼の足元に出現した!
「まじかよっ!?」
「くっ!」
直前に魔力を感じたフェルは慌ててディアの剣を強く叩いて、力を入れて足を自由にした彼はギリギリ土の槍を回避した!
「危なっ! レイア、お尻の穴に刺さったらどうすんだよ!? もうちょっと他人の事を考えろよ!」
「な、何言ってんのよ!? さっき情けを掛けるなって言ったのはあんたじゃない!?」
「それはそれ、これはこれだ!」
ええ〜、とレイアは理不尽な怒りに引いた。
「私の剣技の前で余裕だな、フェル!」
「しつこいな!」
体制が崩されてリカバーしたディアは再びフェルに接近して、このままじゃ埒が明かないと思った彼は魔法を発動して彼女の前から消えた!
「なっ! ミラージュ!」
そう、フェルが使ったのは転移ではなく瞬間移動だ。彼を追いつくためにディアも自分の身体強化魔法、ミラージュを発動した。
「ま、まったく見えない……」
「見えますが、魔法では追い付けませんね……」
高速で交戦している二人の動きに付いていけないレイアたちはただ魔法をいつでも発動できるように構えている。
やがて十数回ぐらいの瞬間移動の直後、ついに限界に来たディアの動きが突然鈍くなって、一瞬隙が出来てしまった!
それを見逃すわけがなく、フェルは瞬時に彼女の剣を弾き飛ばし、右手を彼女の腹にやって魔法をぶち込んだ!
「ブラスト!」
「ぐふっ!」
「「ディア!」」
「よそ見をしてる場合か!?」
「しまーーっ!」
吹き飛ばされたディアを見て驚いたレイアたちに瞬間移動で近付いたフェルはエアボムを発動した!
そこで模擬戦は終わった。三人は仲良く飛ばされて、気を失ってしまったのだ。
もちろんフェルは三人をきちんと受け止めた。当然だろう? 可愛いと綺麗な女性たちを受け止めなかったら紳士失格だ。
……まあ、彼女たちを攻撃した時点で紳士失格けどな!
▽
「お疲れ様でした」
レイアたちを私室に寝かせておいて、居間に戻たフェルはソファーに座っていてお茶を飲んでのんびりしているアンナに労われた。
「本当に疲れたよ……主にお前がいたせいでな」
後頭を掻きながらフェルはアンナに勧められた彼女の隣のスペースに腰を掛けた。
「ふふふ、ハンデと言うべきでしょうか? あの三人はあなたに勝てないと信じていましたわ」
「ありがたいが、少し俺の苦労を考えてくれよ……」
戦闘中ずっとアンナが巻き込まらないようにフェルは配慮していた。
「戦いながらお前を守ってるのは大変だったぞ……」
「ふふふ、ありがとうございました。それでフェルさん、どう思いますの?」
あのなぁ……と妖艶に笑みを浮かべているアンナにフェルは溜め息を吐いた。
「まあ、レイアたちは充分強い。特にルナとディアの連携はすごかった」
魔法の選び、魔力の見分け、反応の速さ、ディアとルナは言うまでもないけど、レイアもフェルからすると十分すごかった。
「問題は勇者たちに通用するかしないかだが……」
今の彼女たちの強さだと勇者たちに勝るかもしれないけど、数ヶ月後はどうだろう? それにこれから起こり得るのは戦争だ、一対一とは全然違うからフェルとしてはまだ心配の種が残っている。
「勇者は四人しかいませんよね? フェルさんがまとめて相手したら?」
「おいおい、買い被りだぞ? 無茶言うなって。いくら俺でも勇者四人を同時に相手するのは厳しいんだぞ?」
「無理じゃなく、厳しいですか……」
と、肩をすくめたフェルにアンナは呆れた。
「そめてレイアたちを前線にーー待てよ?」
「どうかしましたか、フェルさん?」
森の中にクマと遭遇したかのようにフェルは突然動かなくなった。
「あるじゃないか! 前線に行かなくても戦う方法!」
「きゃっ! ど、どうしましたの?」
そして何か思い付いた彼は突然アンナの両肩を掴んだ。
「アンナ! お前が必要なんだ!」
彼女の目をまっすぐ見てフェルはそう言った!
「……そういう意味じゃないのが分かりますわ」
アンナ、頑張れ……。
▽
「お前らの力を認めよう!」
その日の夜、目を覚まして夕食を終えたレイアたちはフェルに呼び出されて居間にやってくるとそう告げられた。
「だが! こっちの条件を呑んでもらう。いいか?」
嬉しいそうに彼の言葉を聞いたレイアに悪いと思いながら、フェルは続けた。
「……条件次第だ」
流石探検者ディア、慎重だ……。
「……」
「な、何よ?」
「……お前もディアみたいに慎重になれよ」
「う、うぅ……」
すぐに頷いたレイアはそのフェルの言葉にたじろいだ。
とにかく! と肩を落としたレイアを無視して、フェルは条件を言い出した。
それらをまとめるとーー
一つ、防衛に力を入れること。
二つ、最前線に出ないこと。
三つ、特定の道具を使ってもらうこと。
「待って! それじゃ意味ないでしょう!?」
「まあまあ、そう急かすな」
条件を聞いて立ち上がったレイアを制止して、彼女が再びソファーに腰を掛けることを確認したフェルは説明を続ける。
「これを見ろ」
テーブルに紙一枚が載せられて、それを覗き込むようにレイアたちは身を乗り出した。
「これは……魔法道具ですか?」
紙に描かれたのは魔法道具の設計図だ。
「道具の名はまだだが、これは収集した魔力を圧縮した後、その魔力を発射する道具だ」
「……魔力源は関係ありません、と?」
「そうだ。しかし魔力の属性には関係あるから注意しろよ?」
「それじゃほぼ無属性魔力しか飛ばせないじゃない?」
「いや、周囲の魔力を収集出来ればそうでもない」
出来ればの話だけどな、とフェルは加えた。
「まあ、殆どの人間の魔力は無属性だから、この魔法道具は人間が自分の魔力を使ったら無属性になる可能性が高いだろう」
言い換えれば精霊の魔力を使ったら属性はその精霊の属性になるけど、精霊の魔力を自由自在に操れる人はそうそういないのだ。
それでも魔法を使えない人間でもを魔力を飛ばせる魔法道具だから、十分すごい。
「ルナみたいな凄腕の魔法使いにはいらないと思うが、どう? 使うか?」
「うーん、どんな魔法道具かまだ分かりませんから何とも……」
「それもそうか」
ルナの魔力は無属性、そして彼女は精霊使いではないから当然この魔法道具を使えば無属性しか飛ばせないだろう。彼女みたいな凄腕魔法使いなら自分の魔力を集め、物質に変えて放った方がずっといいのだ。
まあ、一応厄介な過程を省く魔法道具だから役に立つかもしれないけどな。
「……分かった、その条件でいいわ」
しばらく沈黙を保ったルナたちはやがて頷き合って、レイアはそう言った。
「オッケー! アンナ、仕事の時間だ」
「はいはい、妻にもうちょっと優しくして欲しいですわね」
「う、うるせぇ……」
力強く頷いたフェルはアンナを連れて、二人は研究室にこもってから数日後、魔法道具が出来上がった。
ーー〝マナ銃〟という魔法道具が。
アンナ「私も受け止められたいですわ!」
レイアたち「「「フェルに飛ばしてもらったら?」」」
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