63。あ、あの、当たっているんだが?
2025年7月4日 視点変更(物語に影響なし)
「我が家だぁ!!! 」
外出してから一週間くらい経って、フェルは一人で自分の屋敷の前に転移した。
ドライアード? 彼女は精霊界に残って精霊の女王になるための儀式をやっている。
それはいいとして、時間の感覚が可笑しいな精霊界にずっといるので、フェルにとって久々に家に帰ったって感じだから屋敷の姿を見る途端歓喜の声を上げた。
「ただいま!」
と元気よく家に入ったフェルだけど、誰にも出迎えてくれなかった。
今の時間帯は夜遅く、一〇時くらいだけどそんなこと帰ったばかりのフェルには分からない。
(まあ、まずはお風呂行こうかな)
寂しい気持ちになった彼は気を取り直して、風呂場へあるきだした。
この屋敷はフェルの注文通りに建てられて、当然風呂場も和風に作ってもらったのだ。
(決して外出の後に帰って脱衣室のあのお約束シチュエーションを期待して建てられたんじゃないからな!)
……なぜナレーターに突然話掛けるのだ?
(……ふふふ、さーているかーーなぁんだ、誰もいないのかよ)
いや、さっきそういうシチュエーションを期待しなーーまあいいや。
コホン……脱衣室の中に誰もいない事にすけべおじさんことフェルは肩を落とした。
(まあいいや、せっかくだから風呂でも入ろう)
ドアを閉めて魔法ポーチに仕舞ってあった服を取り出して、フェルは着ている服を脱いで洗濯バスケットにーー
カチャ。
ーー置こうとした時ドアが突然開かれて、彼はそこに視線を動かすとそこにはドアノッブを掴むまま佇んでいるディアがいた。
「きゃああああああ!!!」
絶叫だった……時間が一瞬止まったかのように誰も動かなかったけど、やがて脱衣室の中は絶叫に満たされた!
「ちょっ、普通逆だろう!? なんでお前が叫んだのだ、フェル!?」
そう、フェルの絶叫で、だ……情けない事この上ない。
「ばっ、見るな! 手で目を覆うつもりかもしれんが、全然覆ってねぇからな!」
「おおぉぉお前こそ女見たいに胸を隠すな! 胸ないだろう!? 下だけで充分じゃないか!?」
はっ! そうだった! と指摘されたフェルは両手で下を隠す!
「と、とにかく早くでーー」
ダダダダ!
フェルはディアに退出してもらうつもりだったけど、誰か来ている足音がしてもう間に合わない!
「どうしーーん? 誰もいない?」
「どうですか、レイアちゃん?」
入ってきたのはレイアとルナだった。
二人はさっき女みたいなフェルの悲鳴を聞いて駆けつけた。
(……レイアとルナか? なんでみんな起きてんだよ!? 夜明け前じゃなかったのか!?)
あー、精霊界から帰ったばかりだからフェルはずっと時間帯を間違えている。
「ん!? んん!!!」
「ちょ、黙ってろ! 見つかったらどうすんだよ!?」
とっさにディアを風呂場に連れて逃げたのは悪かったとフェルは思っている。
しかし他の選択肢はーーいや、あったか?
「……中に誰かいるの?」
日本みたいに半透明ドアにするんじゃなかったな、フェル!
「あ、ああ、俺だ」
とりあえず怪しまれないようにとフェルは返事した。
「え? フェル!? 帰ったの!?」
中からフェルの声が聞こえ、驚いたもののレイアはなんとなく嬉しいのだ。
「さ、さっき帰ったばかりさ」
「んー! んん!!!」
「ちょ、暴れんなよ! レイアに殺されたいのか!?」
「……」
フェルの手で口が塞がれて暴れているディアはレイアの名前を聞いた途端、大人しくなった。
まあ、レイアは怖いからな。
「さっきはフェルの悲鳴ですよね?」
ここでルナ参戦だ。
「ああ、すまん。ちょっとびっくりしただけさ」
これは本当だ。ディアの突然の登場にフェルはびっくりした。
「ふーん……あんたがびっくり、ねぇ」
……言い訳が甘かったか? とフェルは内心でハラハラしている。
「まあいいわ。邪魔してごめんね」
絶叫の源はフェルだとわかったレイアたちはここにもう用事はないから脱衣室を出る事にしーー
「……そういえばそろそろディアが風呂に入る時間ですね?」
ーーなかった……。
遠ざかっている彼女たちの気配が止まったとわかったフェルは舌打ちしたくなったけどなんとか堪えた!
「そうね。会ったらフェルが入ってると伝えておくわ」
「あ、ああ、ありがとう」
また後でね、とレイアは言って脱衣室のドアを閉めた。
「「ふぅー」」
緊張感から解放されたフェルたちは溜息を吐いた。
「あ、あの、当たっているんだが?」
咄嗟にディアを風呂場に連れてきたフェルは後ろから手で彼女の口を塞ぐために、彼女に密着しなければならないからずっと当たっているのだ。
何がとは言わないけど元気でよかったな、フェル。
「あ、ああ、すまん……いいか、ディア、今からお前を玄関に飛ばすから、帰ったばかりのように振舞ってくれ」
「わ、分かった」
前を向いているまま返事したディアにフェルはすぐさまテレポートを掛けて、その後お風呂を堪能した。
▽
「おは、よう?」
朝食を取るために食堂に来たフェルだけど、既に揃っているレイア達の視線と俯いているディアを見て固まってしまった。
「あ、ごめん、朝食は後にするから先にーー」
ガツ!
「あら、どこへ行きますの?」
「え、えっと……忘れ物?」
逃げようとしているフェルの肩をいつものようにアンナはすぐ捕まえた!
「もうすぐ朝食の時間ですわよ?」
「わ、忘れ物を取りに行くから、先に済ませてくれ」
「あら、待ちますわよ?」
「いやいや、時間がかかーー」
「座りなさい」
「はい」
一応言い訳をしてこの場から抜け出すとフェルは試みたけど、ニコニコだったアンナの顔が急に無表情になったから怖くなって諦めた。
「昨日の夜の事だけどーー」
ギクっ! と席に着いたフェルはルナの言葉に凍り付く。
「ーー風呂場で何かありましたよね?」
終わった……と彼はルナの質問を聞いて悟った。
なんで? そりゃあ、今のはただの質問じゃなく確認だからだ。
確認というのはある程度確証を持たないとしないから、どういう意味か分かるだろう?
(ま、まずいぞ、ディーーおい! 目を逸らすんじゃない! 手伝ってくーー)
バン!
「どうかしましたか、フェル?」
「あ、あの、ルナ、ちょっと顔近いんだが?」
ちらちらっとディアに視線を飛ばしているフェルを見て、ルナは立ち上がってフェルの顔を覗き込んできた。
「あら? まだまだですわよ?」
「ええ、昨夜に比べればね」
「そうですね。もっと近いでしょう?」
「「……」」
彼女たちに圧を掛けられたフェルは視線を泳がすと一瞬ディアと目があってしまって、彼女は申し訳なさそうに顔を背けた。
「「「フェル(さん)?」」」
「ま、待って! ちゃんと説明するから!」
と両手を前に突いて必死に弁明するフェルである。
フェル「しずまれ、我がムスコよ……」
ディア「……」
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