62。格好よかったよ、レイアちゃん
2025年7月1日 視点変更(物語に影響なし)
「詳細、というと?」
情報はある程度持っているディアだけど、それでも自分たちが起こした事件の詳細は知らない。あの時ミシーを守る事とルナの事で精一杯だからあんまり情報収集出来なかった。
「ーーていうか何でレイアは知っているんだ?」
「当時フェルと一緒に居たからね」
訊かれると遠い目をして答えたレイアにディアは驚きを隠せなかった。
「多分あんた達との戦闘で彼は傷を負ってしまったでしょう」
彼が着ていた服は傷だらけだったし、とレイアは更に足した。
ディアが驚いたのはまさにこの事だ。
あの時フェルの胸は勇者サトウによって貫かれたと彼女はしっかり覚えている。なのにレイアの話だと普通なら死に至る傷を負ったフェルはたった数日で普通に動けるようになったのだ。
驚いても仕方がない。
「すぐにドライアード様に治してもらったのよ」
「あ、あー、なるほど」
フェルはドライアードと共にディアたちの前から消えて、宿に着いた直後ドライアードにすぐフ傷を治してもらったのだ。
そして完治した彼は森の周縁にあった市町村をこれから来る災害について注意するために駆け回った。
「まあ、上手くいかなかったけどね……」
だけどそんな彼を市町村の人々はバカにして、詐欺師とか、盗賊とかまで疑っていた。
(当然だな……)
そう。それは当然の反応だった。
もし知らない人に突然〝この家は危険だ、すぐに避難しろ!〟と言われたら誰でも似たような反応はするだろう。
それでもフェルは曲げる事なく次々と森の周辺の市町村を回り続けた。
「途中で耐えれなくてもういいと彼を止めようとしたけど、どう答えられたと思う?」
「……」
「まだ助けられる人がいるかもしれない、と。バカだよね?」
あの時大体の人々にバカにされ、罵倒されていたフェルの姿は今にも鮮明にレイアの脳内にあるのだ。
彼女はその記憶を思い出す度に怒りを感じて、今にも力無く笑っているけど、震えて強く握られている拳からその怒りの凄さはディアに伝わっている。
「たとえフェルはあんたを信じても、あんたはフェルを疑ってる限りあたしはあんたを信用しない」
「……」
その台詞がレイアの口から出ていると共に微かでしかないけど、ディアは高密な魔力を感じて一瞬固着してしまった。
「あの事件の被害を最小限に抑えれたのは彼のおかげだと忘れないで」
「……」
ディアを睨んでそう言い残したレイアは森の奥へ歩いて、残されたディアは彼女の後姿を見ながら考えの海へ旅立った。
レヴァスタ王国の歴史上で最大被害の事件、フェルの名は事件を起こした張本人として残るだろう。だが実際に引き金を引いたのは自分たち、レヴァスタ王国側の人間だったとディアは今になってやっと理解した。
フェルは自分が指名手配される結果を最初から分かって、それでも被害を抑えるために動きを止めなかったとレイアは言った。
(……本当に正しいか?)
事件を起こした張本人である自分は全力を尽くして人々を助けようとした人、フェルを疑っていいのか? 自分たちがやったことは世界のための行為だと信じているディアはその考えを疑い始めた。
(だめだ……やめよう)
考えれば考えるほど自暴自棄になりそうだから彼女はこの件について思考を走らせるのをやめて、屋敷へ戻ることにした。
「……」
最後に彼女はレイアが去った方向に振り返ったあと頭を軽く振った。
▽
「ふふふ、格好よかったよ、レイアちゃん」
ディアを置いたレイアはしばらく森の奥へ進んだら背後から話しかけられた。
「っ! 誰!?」
またなの!? と反射的に振り向いた彼女は最近不意打ちされる事が多いことに自分に呆れた。
「エ、エイオン様!? どうしてここに!?」
でもそれは仕方ない、相手はかの精霊女王だからな。しかもその女王はやや高い木の枝に座っている。
「さっきの話聞きましたか?」
微笑みを浮かべているままエイオンは身を浮かせてゆっくり降りてきた。
「偶然よ。レイアちゃんを探していたのよ。見つけた時丁度ディアちゃんとの会話が始まったの。偶然でしょう?」
それ、最初から最後まで、会話の内容全部聞いたってことだな。
「偶然にしてはてタイミングがぴったりですね……それで、なぜ私を?」
まあ、別に聞かれても困る話じゃないからレイアは話を進めた。
「レイアちゃんの練習を見ようかな、とね」
エイオンは本当にレイアの練習を見たいのだ、レイアとエイオンの最初の出会いはレイアが精霊魔法を練習している時だったし。
「練習しないの?」
「えー、まあ、今からやります」
練習している所が見られていると思って、レイアは若干恥ずかしい気持ちになった。
それでも彼女は練習し始めーー
「そうそう、精霊の気配感知できる?」
ーーない。
集中しようしいる彼女は再びエイオンに話しかけられ、その努力は虚しくに終わった。
「……どうして感知が必要ですか?」
精霊は魔力の塊みたいなものだから理論上では感知出来るけど、レイアにはそのメリットがわからない。
「精霊の存在をより簡単につかめるためよ」
人間の精霊使いは大体精霊たちの存在を感知してから彼ら魔法を頼む。だからエイオンの助言はあながち間違いない。
だけどレイアは魔力が見える、つまり精霊も見えるのだ。
「うーん、フェルに魔力を完璧にコントロール出来るようにと言われましたけど」
「フェルが? あ、そうか、レイアちゃん魔力見えるのね。フェルはそう言うならその方がいいでしょ」
実際にフェルは正しいのだ。
フェルのトレーニングメニューのお陰で今のレイアは最初に比べられないくらい成長したのだ。
それでもまだまだだとフェルに言われたから彼女は今もそのメニューをやっている。
「フェルみたいに魔力を自由に扱えればベストだけど、普通じゃないからあまり真似しないようにね」
大精霊に、しかも精霊の女王に普通じゃないと思われているフェルにレイアはちょっと引いた。
でもまあ仕方ないか? 大精霊でさえ自分の魔力と同じ属性以外コントロールできない者いるから。例えば森の大精霊ドライアードは木属性、土属性、水属性を完璧に使えるけど火魔法になったらあまり使えないとか。
んで、全部巧みに使えるフェルは確かに大精霊たちにとって異常者だ。
余談だけど、現精霊王であるマクス爺もフェルと同じく全属性を使えるのだ。
「魔力が見えたら当然私達精霊の魔力も見えるけど、各属性の色が分からないと意味ないから、その辺もちゃんと勉強してね」
精霊たちの属性によって出している魔力の色は異なる。赤いは火、青は水、と様々な色があるからそれらをちゃんと理解しないと魔力が見えるとしても正確に精霊魔法を扱えない。
「硬貨を知ってもその価値が分からなければ意味がないと同じ、ですね? ーーあれ?」
「じゃあねぇ」
「あ、はい! 助言ありがとうございました!」
軽い感じで言ったエイオンは慌てて頭を下げたレイアを見て笑みを浮かべたあとその場から消えた。
「……魔力が見える事話したっけ?」
そう違和感を覚えていながらレイアは練習を再開した。
レイア「うーん、話したっけ?」
エイオン「ふぅ、危ない危ない」
レイア「?」
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