61。アンナ様の回想長いですからね……
2025年7月1日 視点変更(物語に影響なし)
「あれは確か三、四年前の冬でしたわ」
魔族の大陸と言われている南大陸と中央大陸の境界付近に魔族が頻繁に見られ、何かよくない事でも企んでいるかと中央大陸の国々に怪しまれ、中央大陸の最大国、そして唯一勇者召喚を行えるレヴァスタ王国は自国の王都、ケルティンに会議を開催しました。
その会議にお母様も招待されていましたけど距離が距離なので、女王であるお母様は長期間国を離れられません故、参加出来ませんでした。
代わりに情報部隊の隊長であるジューナさんは国の代表として隊員数人と共にレヴァスタ王国に赴かされましたの。
それからーー
「ちょっと待って! え? 何勝手に回想に入ったの?」
そうだそうだ! ナレーターの仕事奪うな!
「え? 別にいいじゃありませんの?」
お茶を淹れてくると言ったレイアは左手でトレイを持ってアンナたちの所に歩いていながら待ったを掛けた。
それはいいーーいや、寧ろ助かる! ナレーターの仕事を失う所だった!
「回想の意味あんの?」
「そんなのあるに決まっていますわ! ディアさんにフェルさんの事をもっと知ってもらうのはこれがベストですわよ!?」
「あの、私はその、別に回想とかーー」
「さっきまだ決められないと言いましたよね? だから教えようかなとーー」
「あんたただ自慢したいだけでしょう?」
「……」
「当たりなの!? 否定してよ!」
自分の指摘に顔を背けたアンナを見て、レイアは頭を抱えたくなってきた!
「アンナ様の回想長いですからね……」
え? とルナの言葉にアンナは驚いた。
「その顔、自覚はないね……とにかく、ディアはまだ悩んでるなら仕方ないとして、これからどうする?」
このままだと話が進まないから、アンナに呆れたレイアは話題を変えた。
「己を鍛える以外やる事ありませんね」
「あら、わたくし、戦闘とか無理ですわよ?」
当たり前でしょ? と言わんばかりにアンナは肩をすくめた。
まあ、ごく稀だけど王族でも戦闘訓練に強いられる国はある。王族たる者、民より強くならなければならない、らしい。
しかしアンナは幼い頃からずっと王女として育てられたのだ、戦闘が苦手なのは仕方がない。
「頭に自信ありますけどね」
「「え?」」
「ん? あー」
自分の力をちゃんと把握しているアンナは身体能力ではなく知能を主張したけど、それを聞いたレイアとルナは一斉に彼女を見て、ディアは一瞬で理解してうんうんと頷いた。
「ちょっと、何驚いていますの!?」
「あー、いや、うん、頭いいね」
「え、えぇ、私もそう思いますよ……」
「あら、ありがとうございます。ですがこっちを見てもう一度言ったらどうですの?」
誰も彼女の目をまっすぐ見て言える人はこの場にいない……全員目を逸らしているのだ!
「はぁ、もういいですわ。あなた達は好きなようにしてください。私は研究に戻りますから」
諦めたアンナは溜め息を吐いていながらいつも持ち歩いている魔法袋からペンと一冊の本を取り出した。
彼女の言葉で嫁会議はもう終わりと理解して、アンナ以外みんな部屋を出るために立ち上がった。
「何の研究ですか?」
「この前ディンゼールにある〝フォーン〟ですわ」
魔法道具フォーンの仕組みと改良の可能性をフェルに教えてもらったアンナはその魔法道具を研究する事にした。
「そうですか。頑張ってください」
とルナは言い残して、ディアと共に部屋を出る。
「自分で考えろ、ですか……」
フォーンの何かを改良すればいいかまでは教えてくれなかったアンナは小さく呟いた。
「フェルの言葉?」
「っ! え、えぇ……」
その呟きはレイアの耳に入って、他の者と同じように部屋を出ようとした彼女は振り返った。
「ふーん……まあ、相応しい嫁になるよう、お互い頑張ろうね、それじゃ」
激励を言い残して、今度こそ彼女は部屋を後にした。
「相応しい嫁、ですか……ふふふ、レイアさんったら、違いますわよ。わたくし達はーー」
部屋の入り口を見ているままアンナは笑みを浮かべた。
▽
「珍しいね、あなたが自分の道を見失うなんて」
嫁会議が解散されて、アンナの部屋から出たルナは一緒に出て、廊下を歩きながら俯いているディアにそう言った。
「さすがだな……」
「伊達に姉をやっていないからね」
苦笑して、ルナはさらに続ける。
「そうね……フェルの伝言通り、あなた自身が決めないといけない」
「ちなみにルナねぇはーー」
「もちろん、ついていくよ? 私、いいえ、私達はとっくに覚悟を決めたからね」
背後に付いてきているディアに振り返らない、前を向いているままルナは自信に満ちる言葉で言った。
「……勇者と戦うことになるかもしれないのに? 」
フェル側についたらレヴァスタ王国を敵対する、すなわち勇者たちと戦う事になる可能性は非常に高い。
今はまだまだだけど、勇者たちの力は必ず成長し膨大になるとディアは確信して、これからその勇者たちと戦うかもしれない、と考えた彼女は思わず戸惑った。
「その原因は誰だと思う?」
だけどルナにとってそれは承知の上だ。
「それは……私達、だよね?」
幻想の森にあった剣を抜いたのは勇者サトウかもしれないが、ディアたちも一枚噛んでいた。
その際、ルナは行方不明になってレヴァスタ王国に戦死と認定されて、結果はこの状況だ。
「まあ、よく考えなさい」
未だに躊躇しているディアを残して、ルナは自分の部屋へ向かった。
▽
「ーーーー」
考えをまとめる為に少し体を動かそうと思ったディアは森に入ったけど、前方から声が聞こえて一瞬で身を潜めた。
「っ! 誰!?」
慎重に近付いているにも関わらずディアは向こうに気付かれてしまって誰何された。
「ディア? こそこそ何やってんの?」
振り返って構えているその女性、レイアはディアの姿を捉えると一瞬驚いて、呆れた顔で構えを解いた。
「いや、考えをまとめようとして森でぶらぶらしたら、声が聞こえてね」
なるほど、と納得したレイアは練習を再開するためにディアを背にした。
「そういえば、レイアはルーガンさん達と以前幻想の森を一緒に調査した事あるよな?」
「そうだけど?」
「四年前ミシーを訪ねた時いなかったけど?」
そのディアの問いかけにレイアは動きを止めた。
「……幻想の森、どう思う? あの事件を起こした張本人の一人でしょ?」
「……」
そしてさっきの声と違って、真剣さを感じさせる程レイアは低い声でそう訊いた。
「フェルはね、最初からわかったのよ。剣の事、起こりえる事、周囲にどう影響する事ーー」
レイアは四年の出来事を語り始めた。
剣の祭壇に着いた自分たちはドライアードに進行が邪魔されてそこで戦う事になった事を、フェルの介入によって戦いが終わった事を、そしてその後剣の事と祭壇から抜かれた時に起こりえる事をフェルから全部聞かされた。
「レヴァスタ王国ははっきりあの剣を回収しようとしたのよ? リスクを知らなかったなんてありえない……だから当時レヴァスタ王国の人間、しかも王都から来たあんたの事を信用し出来なかったわ」
「……今は?」
「もちろん、まだ信用してないわよ」
当たり前でしょう? と見たいな顔をしているレイアはディアに振り返った。
「事件の詳細、聞きたい?」
そして真っ直ぐにディアの目を見ながら、彼女は問うた。
「事件の詳細、か……」
その質問にディアは空を見上げて、ちょっと考えた。
アンナ「そういえば三年前、フェルさんが――」
レイア「だから勝手に回想に入らないでよ!」
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