60。王じゃなくて、旦那でしょう?
2025年7月1日 視点変更(物語に影響なし)
「ふむ……一人足りないね」
ドライアードの呼び出しによって食堂に集まったアンナたちを見て、エイオンは首を傾げた。
「全員が揃わないと始められないよ?」
「あのー、ここにいる人は全員だとーー」
「一人足りないでしょ? フェルから確か〝四人の嫁に〟と頼まれたのよ」
そう。食堂に呼ばれたのはフェルの未来のお嫁さんたちだけだ。
「えっと……ドライアード様、ルナさん、レイアさん、わたくしーー四人、ですよね?」
「ふふ、違うよ。四人だと言っているのよ? 人間、四人」
お互い顔を見合わせているアンナたちにエイオンは四本の指を立てて笑みを見せた。
「ここにきて隠し女を持っているとは……ふ、ふふふ」
エイオンの言葉を聞いたルナは怖い笑みを浮かべ、素の喋り方を出して呟いた。
本人は気付いていないけど……。
「ディ、ディアの事じゃない!?」
「そ、そう、ディアの事ですわ!」
どうしようかとアンナとレイアは慌てて、そう二人は言ったけどーー
「……まさか妹にまで手を出すとは、覚悟しなさいよ、フェル……ふふふ」
全く逆効果だった。
「フェル大変そうね」
そういうけど、エイオンは愉快そうに笑った。
▽
「それにしてもフェルのお嫁さんみんな変わり者ばかりよねぇ」
訳わからずレイアに連れて来られたディアは席に着くとエイオンは言い出した。
「あの、私もですか?」
それはもちろん、と自分を指差したドライアードにエイオンは笑って、さらに続ける。
「人間界にずっと引き籠っている大精霊に、精霊と人間の間に生まれた娘が二人に、全魔法の素質を持つ娘に、まったく魔法の素質はないけど魔力が非常にスムーズに流れている娘ーーどれも変わり者じゃない?」
「「「え?」」」
気になる単語は多すぎてドライアード以外エイオンの話に誰もついていけなかった。
「ふむ、あなた迷っているのね?」
「っ!」
そしてレイアたちを見渡したエイオンはその視線をディアに留まるとディアは気まずそうに顔を背けて沈黙した。
そんなディアをしばらく見たエイオンは〝まあいいわ〟と言って話を進めた。
「私はエイオン、精霊の女王よ」
「「「!」」」
突然の自己紹介にレイアたちは驚いて固着してしまった。
「もうすぐ〝元〟になるけどね」
「あ、あの! という事は跡継ぎーー」
「こっちのドライアードよ」
「「「あー」」」
確認のつもりでもあるレイアの質問を気軽に答えたエイオンは隣のドライアードを指して、やっぱりと思った全員はそのドライアードに視線を動かすと彼女は得意気な顔を浮かべた。
「そんな事より、次期精霊王の伝言よ」
「あ、あの、フェルさんは君主になるために外出したのは知っていますけど、精霊王は聞いてませんわ」
確かにフェルはドライアードに〝王〟と呼ばれているけど、それでもアンナ、そして他の女性陣の中にフェルは人間だ。
だから彼は精霊ではなく人間の王になろうとしていると彼女たちは思い込んでいる。
しかし現精霊王であるマクス爺の手によってこの世界に生き返されたフェルは精霊たちにとって現精霊王の子供に等しく、すなわち自分たちの次期王である。
まあ、この事実を知らない彼女たちは驚いても仕方がないのだ。
「何そんなに驚いているのだ? 王の事だぞ?」
「王じゃなくて旦那でしょ?」
「ちょっ! え、エイオン様!」
エイオンにそう指摘されて、涼しい顔をしていたドライアードは赤面になって慌てて抗議した。
「「「……」」」
「な、何だ?」
「「「いえ、何でもありません」」」
レイアたちの反応にドライアードは呻いて、顔を背けた。
「仲がいいのはいい事だけど、そろそろ本題に入りたいわ」
話が進まないよ? とドライアードたちを温かい目で見ていて頷いた後、エイオンは先を促す。
……場をかき乱した本人が何を言っている?
▽
食堂でフェルの伝言を聞いたアンナたちはその後アンナの私室に集まった。
「あのぉ、ルナねぇ? なんで?」
ディアを連れて。
「ん? それは、ねぇ?」
ルナに顔を向けられ、肯定を求める彼女にレイアとアンナは頷いた。
「いや、“ねぇ”、と言われても分からないよ……」
入口付近に自分の姉に呆れて、ディアは肩を落とした。
「さっきエイオン様から話を聞きましたわ。ディアさん、迷っているみたいですわね?」
「んで、さっきの話を踏まえて、あなたの話を聞こうかなとみんなが同意したの」
この部屋に連れられた理由になってないぞ? とルナの言葉を聞いたディアは内心で思っているけどーー
「ほら、座りなさい」
「あ、はい」
全く動いていない彼女に向かってルナは命令口調でそういうと、ディアは反射的に肯定した。
自分の姉の性格をちゃんと理解した故にな。
ルナは昔から厳しいのだ。相手と自分の格をちゃんと弁えて、相手によって話し方を変える。
二枚舌だと思うかもしれないけど、それは決して違う。
以前ディアに丁寧に話していたのは彼女がレヴァスタ王国全探検者ギルドの総ギルド長だったから。
自分のポジションと同じ格だからこその話し方だったけど、各々のポジションから辞退した今彼女たちはただの姉妹だ。
「さて、まずはエイオン様から聞いたフェルさんの伝言ですがーー」
さっき食堂でエイオンから聞いたフェルの伝言をまとめるとこうだ。
まずは謝罪。彼は今、精霊王になる為の儀式の真っ最中で予定より帰りが遅くなるのだ。
次は計画。フェルはこの森で国を作るつもりで、先日森全体に結界を張った。ドライアードもこれについて肯定し、中にいる限り安全に暮らせるほど強力な結界だと言い足した。
それで城を建てて、そのあと外から国民として人を呼ぶつもりだけど、アンナたちの意見が欲しいとのことだ。
そして最後にーー
「面倒事に巻き込まれてーー」
「俺についてくる覚悟あるのか? ですか……」
ガタッ!
「レ、レイアちゃん?」
アンナとルナの呟きにレイアは突然立ち上がる。
「お茶、淹れてくるわ」
そう言って、彼女は部屋を出た。
「はぁ……まだ怒っていますわね、あれ」
フェルはこれから起きる事を予測して、レイアたちに向かってそのフェルの質問をエイオンから聞いた時、レイアは〝舐めてんのか!?〟と怒り出してドライアードにフェルの所に案内して欲しいと頼んだ。
まあもちろん断られたけど。
「仕方ないでしょ……私たちの中ではもっとも血が上りやすいですから」
「その分フェルさんの事を一番想っていますけどね、表に出しませんけど」
とルナとアンナは苦笑した。
「ディアさんは? まだ迷っていると思いますが、どうしますの?」
未だに迷っているディアに話が飛んだ。
「……私はーー」
と、ディアは自分が今思っている事を、感じる事を語った。
ドライアード「だだだだだ――」
レイアたち「だだだだだ?」
ドライアード「〝旦那〟だなんて……ポッ」
レイアたち「意外と乙女だった!!!」
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