6。あんたを警戒してるのよ!!!
2021年3月31日 マイナー編集
2025年2月23日 視点変更(物語に影響なし)
「日が暮れているし、キャンプ出来る場所探しましょうか?」
「そうね、今日は川の近くにした方がいいでしょう」
「それでは川を沿って、もし開けた場所があったらそこにしましょう。ネアもそれでいいよね?」
「あたしはオッケーよ~」
と話し合って足を止めたルーガン、レイアとネアは再び動き出した。
ミシーから幻想の森へ旅立ってから既に二日間が経ったのだ。
森に入る前にレイアが精霊たちに話をかけたおかげで三人は何事もなく順調に森の中で進んでいる。
そして暗闇の中で森を探索するのは危険と理解している彼らは今日のキャンプ出来る場所を探しているところに開けた場所に出たのだ。
しかしそこにはーー
「小屋? なぜこんな所に小屋が?」
木から出来た小屋があった。
幻想の森に纏わる噂、そして自分たちが実際に経験していた事を考えればこんな所に小屋があるのは可笑しいと感じて、ルーガンは思わず険しい顔になって小さく呟いた。
(ん? 精霊たちがーー)
一方レイアは自分の周りにいる精霊たちを観察している。
「中に人いるかな~?」
「……まあ、どのみち僕たちはここでキャンプしなければならないし、とりあえず確かめよう」
周りがすでに暗くなって他の場所を探す余裕はないから、彼らにとってここしかない。
ここしかないのだけどーー
「あ、ちょっとまーーっ!」
精霊たちに気が取られたレイアはルーガンとネアに精霊たちの急な変化について伝えようとした時、二人はすでに開けた場所に足を踏み入れたのだ。
(ーーっ!? な、なに!?)
その直後さっきまで何かに怯えて、騒いでいる精霊たちは一斉にレイアの後ろに隠れて静かにしている。
「どうかしましたか、レイアさん?」
「顔色悪いよ~?」
「……い、いや、大丈夫よ」
レイアが後ろに付いていないと気付き、ルーガンたちは振り向いて不思議そうに彼女を見る。
そんな彼らに冷や汗が背中に走っても、レイアは笑顔で答えた。
なぜ精霊のことを二人に言わない?
(これはもう行くしかないわね……!)
精霊たちの様子からすでに遅い、小屋にいる何かがすでに自分たちのことを認識していると彼女は悟ったからだ。
「じゃあ僕たちは先頭で、レイアさんはちょっと距離を空けてから付いてきてください」
「わかった、気を付けて」
ルーガンとネアは頷いた後、再び小屋へ歩き出した。その彼らの後ろにレイアは言われた通り付いていっている。
そしてーー
コンコンコン!
「すみません、誰かいませんか?」
……。
しばし三人は待っていても小屋の中から返事がこない。
(よかったぁ、誰もいないみーー)
ギッ、ギィー!
とレイアは心の中で安堵した途端、扉が開いた。
「どちら様でしょうか?」
丁寧な言葉遣いの割にやや冷たいトーンの声と共に扉が開かれ、その隙間から一人の男が顔を覗かせている。
「こ、こんな時間に申し訳ありません。僕たちは探検者なのです。この広場のあたりでキャンプしたいのですが、大丈夫ですか?」
顔立ちからその男はまだ少年だとルーガンは分かっていてもさっきの少年の冷たい声が頭の中から離れなくて緊張している。
「……そこの少女、大丈夫ですか?」
少年はしばらく沈黙を保ってルーガン、ネアを順番で最後にレイアを見るとそう彼女に問うた。
「ひゃい! だだ大丈夫、れす~」
ずっと少年の事を警戒しているレイアは突然の問いかけにびっくりしてカミカミになって、あまりの恥ずかしさでその直後顔を隠した。
「……そ、そうですか。広場を好きに使って構いませんよ」
「あ、ありがとうございます」
レイアの事気にしないでおこうと決めた少年は話すことはもうないと言わんばかりにルーガンのお礼に対してただ頷いて、扉を閉めた。
「許可もらったし、とりあえずあの辺りを使いましょう」
少年が考えを変えることはないと思うけど、それでもルーガンは早く広場の一面を確保したい。
そして数分後ーー
「ねぇ、本当に大丈夫、レイアちゃん?」
キャンプの準備を終えた三人は焚き火を囲んで晩飯食べている。
「……あの少年に気を付けて」
この場に着いてからずっと様子がおかしいレイアにネアは心配そうに声を掛けると、小声で答えが返ってきた。
「え~? でもいい人みーー」
「精霊たちはあの少年に怯えてるのよ!」
「「えっ!?」
精霊たちをずっと見ているレイアは小声であっても強く、ルーガンとネアに精霊たちの様子を教えた。
「なるほど……今までこんなことは?」
「ない」
事情整理しながらルーガンはレイアに訊いて、即答で返した彼女は続ける。
「精霊は自然の生き物、その自然を混乱させる何かがあの少年にあると考えていいでしょう」
「じゃ~依頼の事を伏せた方がいいね~」
「そうだな、賛成だ……」
相手の正体は不明だし何より精霊を怖がらせる存在だ、三人の警戒が上がっても仕方がない。
「とにかく明日から本格的に森の調査を始めたいので今日はもう休みましょう。大丈夫だと思いますが、最初の見張りは僕がします。二人は先に寝ていってください、三時間ごとに交代します」
とルーガンは話をしめて、彼の提案に賛成したネアとレイアは寝る準備に移った。
そして瞼が睡魔に完全に支配される最後までレイアはずっと小屋を睨めていた。
▽
「ーーて~」
「ん、ん?」
「レイアちゃん、起きて~」
体が揺さぶられて、目を覚ましたレイアの視界に眠そうな顔をしているネアが入った。
「もう交代の時間……?」
「次はレイアちゃんの番ね~。眠いからもう寝る~」
だるそうに体を起こしたレイアにそう言うと、ネアは自分の寝袋に向かった。
「……お疲れ様、あとは任せて」
そして寝袋に入って眠りに落ちたネアにレイアはそう言って、体を伸ばして見張りの準備に入った。
ギッ、ギィー!
一人での見張りだから暇を持て余しているレイアはただぼーっとしていて数時間が過ぎて、明け方の頃に小屋の方から音がした。
ビクンっと驚いたレイアはすぐ小屋の方へ振り向くと、扉の前に体を伸ばしている昨夜の少年の姿があった。
(っ! せ、精霊たちはーーえ? あの子が原因じゃないの!?)
それで彼女は慌てて精霊たちの様子を確認したけど、精霊たちはいつものようにふよふよと自分の周りに飛んでいる。昨夜の彼らの様子と全く違うから不思議に思った彼女は少年を観察する事にした。
少年の身長はレイアより少し高いけど、男性としては低い方だ。黒服と黒ジーンズを着て、前髪が左目を少し覆っている黒髪。細いでも太いでもない体で肩の幅がちょっと広い。
「……ちょっとイケメーーちょっ!」
パシャ!
とレイアはふらふらな足取りで川に近付いて、川沿いで膝についた少年を見ていて、突然川に頭を打ち込んだ彼の行動に驚かされた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ふぅー」
慌てて駆けつけたレイアをよそに少年はスッキリした顔をしている。
「……」
「あなたも顔を洗った方がいいですよ、スッキリしますから。それと見張りはしなくても大丈夫ですよ」
昨夜と同じ人物だと思えないほど少年はとっても優しい声でここは安全だよと言うつもりだったけどーー
(あんたを警戒してるのよ!!!)
警戒している相手にそう言われても全く安心できないだろう。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、何でもないです、はい」
「……そうですか?」
レイアの内心でのツッコミは当然少年に聞こえないから、レイアはただ黙って自分を見ている変な女だと思っていながら少年は小屋に戻った。
(……顔、洗おうか)
残されたレイアはしばらく小屋の方を見ていた後、溜め息を吐いて顔を洗った。
「二人ともおはよう」
「んぁ? 朝ごはん作ったの~?」
レイアが持ち場に戻ってから数分後、小屋からいい匂いがしてまるで釣られた、いや、確実に匂いに釣られたネアとルーガンは起きた。
「レイアさん、朝食までーー」
「あぁ、えっと、これはーー」
「もう起きましたね?」
二人が勘違いしているから説明しようとしいるレイアは小屋の後ろから来た少年に遮られた。
「朝食用意しましたから付いてきてください」
笑顔でそれだけ言って、少年はまた小屋の方へ戻った。
残された三人はお互いを見つめ合うと頷いて、やや遅れて少年の後を追った。
そしてそこにはーー
レイア「なんで川に頭をぶち込めたの?」
少年「いや〜その方が早いかなって」
レイア「バカなの!?」
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