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勇者? 人違いです  作者: Adhen
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59。フェルの事になるとバカになるよ

2025年6月27日 視点変更(物語に影響なし)


「ーー彼は王になると決意しましたわ」


「ん?」


 アンナの言葉にちょっと違和感を覚えたレイアは思わず首を傾げた。


「ちょっと待ってください、フェルは精霊王ですよね?」


 そしてルナも同じ疑問を抱いて、アンナに訊いた。


 フェルに対して大精霊であるドライアードの態度と言葉使い、そして忠実性を考えれば当然の疑問だな。


 しかしそれは誤解。


「いいえ? 彼いつも言っていますわよね? 自分はただの旅人だ、と」


 フェルは紛れもなくただ人で、ただの旅人だ。


「いやいや。ただ人があれほど知識と力を持ってるの可笑しいよ」


 力はともかく、フェルは四年間をかけて世界を一周したから色んな知識を持っても不思議ではない。


「正確に言いますとフェルさんは精霊の王の候補らしいですわ」


「候補? ってことはフェルみたいな人は後何人いると? 勘弁してよ……」


 規格外人物はあと数人いてたまるか! と言わんばかりにレイアは頭を抑えた。


「いいえ、候補はフェルさん一人だけですけど、彼は今まで王になりたがらなかったらしいです」


「すみません……さっきから〝らしい〟と言っていますが、フェルから直接聞かなかったのですか?」


「……実はこれらはすべてお母様から聞きましたの」


「す、すごいね。あのフェルから情報を引き出せたなんて」


 自分の事をあまり喋らない、喋りたくないからな、フェルは。


 しかし彼女たちは知らない。これらの情報は女王がフェルから引き出したではなく、自分の能力で盗んだのだ。


 ……言い方はアレなんだけど。


「っていうかなんで今更その決心をしたの?」


「……たぶん身分でしょう」


 ルナの呟きにアンナは反応した。


「わたくしもそう思いますわ。相手は一国の皇子ですわよ? 下手に断れば国際問題になる恐れがあります……」


「え? 何それ? 理不尽じゃない」


 まるで強制的に縁談を受け入れろって言っているからな。


 レイアの反応は当然だ。


「政治はそういうものですわよ、レイアさん」


「政治家って大変ね……」


「ですが身分だけじゃ足りませんよ、アンナ様?」


 そうだ。王を名乗ったら国を持つ必要がある。


「ですが国どころか、王城すらーーっ!」


 と、そこで再び森の方から強力な魔力の波動がして、レイアとルナは二人揃って頭を抑えてしまった。


「またですの?」


 心配そうな顔で彼女たちを見ているアンナに大丈夫と言ったレイアはしばらく目を閉じると頭痛が引いた。


「ふぅ……それにしても何してんの、あいつ?」


「えっと、さっきルナさんが言いかけましたわよね? 王城すら持っていませんって」


「……ま、まさかーー」


 魔力に敏感な体質をしているルナはまだ頭を抑えていて、アンナに視線をやった。


「ええ、この森を国に変えようとしていますわ」


 アンナは苦笑する。


「さっきの魔力はその準備ってこと?」


「さあ? おそらくそうでしょう」


 実際にアンナは知らない、っていうか誰もフェルがやろうとしている事知る人はいないのだ。


 でもレイアたちの中に彼の行動は全てこの先に迫ってきている問題のため、すなわちアンナのためになっている。


(うらやまーーじゃなくて、やるわね、アンナ)


 その思い込みに女としてレイアは羨ましく思ってしまった。


「やりますね、アンナ様……」 


 まあルナは実際に口にしたけ……彼女は意外とフェル見たいにすぐ思っている事を口に出すタイプだ。


「ですから何言っていますの? あなたの為にもあると言いましたわよね?」


 さっきもアンナは言ったけど、今回フェルの行動は彼女の為だけではなく、ルナの為にもある。


 建前だけど、ルナの死因を理由にしてレヴァスタ王国は邪魔者であるフェルの首を欲しがっている。もしそのルナがまだ生きていて、しかもフェルの味方だと知ったら彼らは必ずルナを狙ってくるとフェルは思っている。


 建前の理由が消えてしまうから。


 マセリア帝国からはアンナを、レヴァスタ王国からはルナを守る。


 この二つの国を敵対することになって、しかもローダル女王国を巻き込まないようにどうすればいいか? と考えた結果、フェルは王になると決意した。


 しかし治める国がないと王として名乗れない。それをちゃんと理解したフェルは既にいくつか手を打った。


「いつの間に???」


「この前ディンゼール商会に行った時ですわ」


 あー、話し合いの途中寝てしまったレイアたちは知らなくても仕方ない。


「領地は……言うまでもなくこの森全体、ですよね?」


「でもこの土地ってロダール女王国の物でしょ?」


「いいえ? れっきとしたフェルさんの所有物ですわよ?」


「だからいつの間によ!?」


「この前ギーフにーー」


「よーくわかった! それ以上言わなくてよくわかったわ!」


 そう? と頭を抑えながら自分に掌を突き出しているレイアにアンナは首を傾げた。


「っていうかルナさんもーールナさん!?」


 さっきから黙っているルナは両頬に手を当ててとろけるような表情をしている!


「あああああ、だめだ! フェルの事になるとバカになるよ、この二人!」



 レイアはついに諦めた……。







「ふむ、集中力が足りないね。それじゃあ精霊達を上手く扱えないよ?」


 数日が過ぎて、フェルは未だ屋敷に帰って来ない。


(確かに集中できなーーえ?)


 いつものように屋敷から少し離れた所でレイアは朝練をしていると、誰もいないはずの自分の背後から知らない声がして、彼女は反射的に距離を取って振り返った。


「……誰?」


 そこには漏出が多い灰色の服を着ている一人の女性がいて、腕を組んでいるその女性は右手の親指を顎に添えて興味深そうにレイアを見ている。


 そしてレイアの目にはさっきまで彼女の周りに浮いている精霊たちは女性を囲んで嬉しそうに浮いている光景が映っている。


「あなた達もちゃんと彼女の言う事を聞くのよ? ほら、もう行きなさい」


 女性は精霊達に向かってそう言うと彼らは一斉にレイアの所に戻ってきた。


「……一体なにーー」


「エイオン様、こちらにいらっしゃったのでーーむ? なんだ、レイアか」


「ド、ドライアード様……」


 エイオンと呼ばれる女性にレイアは警戒していて、誰何しようとしている時そのエイオンの後ろにドライアードが突然現れた。


「ほう? この娘がレイアか? ふむふむ……」


「な、何?」


 自分をつま先から頭のてっぺんまで見ているエイオンにレイアはちょっと戸惑う。


「とりあえず屋敷に戻ろうか? 全員に伝言を扱っているのでね」


「ではこちらへどうぞ。レイア、あなたも来なさい」


 未だに状況を掴めていないレイアにドライアードはそう言って、エイオンと二人で屋敷へ歩き出した。


「……え?」



 レイアに構わず。

ルナとアンナ「「はう〜フェル(さん)ったら」」

レイア「……だめねこりゃ、思ったより重症」


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