58。そろそろ学習した方がよろしいかと……
2025年6月27日 視点変更(物語に影響なし)
「ひどいじゃないか、フェル……」
とマクス爺は泣き出した。
「うるせぇ! まったく痛くないくせにその噓泣きはやめろ! またボコボコにするぞ!?」
そんな彼にフェルはうんざりになって拳を見せた!
「お前たちも止めてくれよ……」
「いいえ、王を止めませんよ」
「流石に今のはあなたが悪いわ」
そんな! とドライアードとエイオンに助けてを求めたマクス爺は彼女たちの言葉に絶句した。
「まあいい! んで? 要件は?」
ここに味方はいないと分かった膝を抱えていたマクス爺は立ち上がって、不機嫌な顔でフェルを見る。
「その前にその姿何とかしてくれないか?」
ショウタのままだと違和感しかないんだよ……とフェルは理由を述べだけどーー
「いやだ! さあ! 要件をいーーわ、分かった! 分かってるから殴るな!」
一応反抗を試みたマクス爺だけど、ポキポキとフェルは指をならしたら慌てて両手を前に出した。
ポフっ!
「これでどうだ? お前と最初に会った姿だぞ?」
突然マクス爺を中心にして煙は立って、その中から老人の姿のマクス爺は出てきた。
「はあ、煙立たなくてもいいだろうに……」
「ま、まさかワシの裸を見たいのか!?」
「誰がそんな事言った!? 精霊はみんな一瞬で姿を変えるだろうが! お前ただ演出好きだけだろう!?」
「お、王、気をしっかり持ってください!」
「と、止めるな、ドライアード! 放せ!」
またマクス爺に殴り掛かろうとしたフェルの後からドライアードは抱き止めた!
普段の彼なら背中に伝わる感触に幸せ気持ちになるけど、マクス爺を懲らしめる事に夢中だからそんなこと頭にはない。
とっても、本当にとっても残念である!
「そうだそうだ! 気をしっかりーーあいたっ!」
「あなたもちょっと黙っていてください」
煽ってくるマクス爺の背後にエイオンは素早くまわって、彼の頭を叩いた!
「ざーまー!」
それを見たフェルは笑い出した!
この先その代償をすぐに収穫する事に全く気付かなかったけどな。
▽
「ちゃんと聞いている?」
「「はい」」
カオス状態はしばらく続いて、いい加減うんざりしたエイオンはフェルとマクス爺に切れてしまった……。
〝説教受けてるなう!〟ともしこの世界にSNSがあればフェルはそうステータスに書くだろう。
……ちょっと古い!
まあ説教している人の目を盗めたらの話だけどな。
「な、なあ、マクス爺、エイオンってこんなに怖かったっけ?」
正座して俯きながらフェルは隣にいるマクス爺の顔色を窺う。
「お前は知らないだけだ……」
恐怖だった。そこに恐怖しかなかった。
「あん!? 何か聞こえーー」
「「いいえ! なんでもありません!」」
番長エイオンである。
「な、なあ、エイオン、足が痺れてきたんだがーーん? 引いたーー」
「あいだだだだだ! 足ががががが!!!」
足はそろそろ限界だとフェルはエイオンに教えようとした時、彼女は指パッチンをしてその瞬間痺れが引いて、隣に正座しているマクス爺は突然足を抱えながら地面に転がる。
「フッハッハ! どうしたんだ、マクス爺? 足でも痺れたのか? ざーーあいだだだだだ! 足ががががが!!!」
そんなマクス爺を見てフェルは吹き出してバカにしようとした瞬間、引いたはずの痺れが戻って、いや、さっきより激しくなって彼も膝を抱えて地面に転がる!
「王、そろそろ学習した方がよろしいかと……」
全然凝りない自分の王を見て、ドライアードは溜め息を吐いた。
▽
「それで? 要件は?」
真顔で訊いたマクス爺だけど、両足を摩りながらそう訊かれたからフェルはあまり真面目に受けない……まあ、彼も他人の事を言える場合ではないけどな!
二人共仲良く両足を摩っているのだ!
「その前に確認したい事がある」
そんなバカな事はさておき、もう彼らの会話から既に気付くと思うけどマクス爺はフェルが死んだ原因の一つである老人だ。
……他の原因は自分の愚かさだったけど。
とにかく、どうしてあの夜マクス爺は日本にいたのかフェルに知る術はないけど、自分のせいで人は死んだと悔やんだマクス爺はその場で力を使って、彼の魂をこの世界に送ったのだ。
なお若返りはマクス爺曰く消えかけたフェルの魂を無理やり引き留め、元の形、肉体を取らせたからだ。
まあ、それはいい。
フェルにとって重要なのはーー
「本当に何もしなくていいんだよな? マクス爺は悔やんでたから俺をこの世界に送ったよな?」
勇者たちみたいに魔王を倒せ! とかそういうのはいやだからフェルはずっと気にしている。
「おう! お前を助けた時からずっと自由に生きてきて欲しいと願ってるぞ?」
お前の生きる道だ、好きにやればいい! と笑みを浮かべたマクス爺は言った。
……両足を摩っていなかったら絵になるのにな。
っていうかそもそもフェルの死因はマクス爺にあるから、〝助けた〟とはちょっと違うのでは?
まあ、すぎた事にごちゃごちゃ言っても仕方ないかとフェルは思い直して、言い出す。
「……覚悟は出来てる」
「「ほう?」」
その言葉にマクス爺とエイオンは二人揃って興味深そうに目を細める。
「フェル、本当にいいの?」
何の覚悟かははっきりと言わなかったけど、二人はしっかりと理解して、フェルはエイオンの確認の問いに頷いた。
「ハッハッハッハ! 面白い! いいぞ! 早速儀式やろうじゃないか! エイオン、他の精霊今すぐ呼べ!」
「王……」
するとマクス爺は愉快そうに笑い出していながら立ち上がって、ドライアードはフェルの隣で頬を赤らめて彼を見ている。
何故二人はそう反応した? それはーー
「今日は新な王の誕生だ!」
そういう事だ。
フェル「エイオンって番長なのか?」
マクス爺「お前はただ知らない――」
エイオン「ふん!」
フェルとマクス爺「「ぎゃあ――」」
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