57。ホモじゃねぇんだよ!
2025年6月27日 視点変更(物語に影響なし)
「嫁会議とは、フェルさんの嫁になる決意についた乙女達が開かれる会議のことですわ」
自分の部屋に来たレイアとルンがソファーに腰を掛けるとアンナは立ち上がって得気な顔で言った。
「誰に説明してんの?」
「知らない人に決まっていますわ!」
自分たちしかいないのにアンナはそう答えた。
っていうかナレーターである私の仕事を奪わないでくれないかな?
「ここは……私たちしかいませんよね?」
だよな!?
「まあ、一応説明しただけですわ」
「だから誰にーーまあいいわ」
「諦めましたね?」
「仕方ないでしょう? こいつフェル並みにバカなんだから」
あー、確かに。
フェルに影響されたアンナは時々フェルみたいに変なことを言うからな。
「コホン! それでは、これにて嫁会議を始めますわ」
パチパチ、とアンナに続いて他の二人は拍手した。
「……毎回拍手必要あるの?」
席に座り直したアンナにレイアは問うた。
「まあまあ場を盛り上げる為と思ってください、ね?」
「……ルナさんもなんか言ってよ」
「え?」
ウィンクしたアンナに呆れて、レイアはルナに話を振ると彼女は困る表情を浮かべる。
「はぁ……それで、今回の議題は?」
「愚痴ですわ」
「「……」」
何言っているのだ? と二人はアンナの言葉を聞いて思ってしまった。
「ドライアード様ばかり連れまわされてずるいと思いませんの!? わたくしもフェルさんと二人きりであちこち行きたいですわ!」
「ルーゼンに行った時ドライアード様は留守をしてたじゃない、なに言ってんの?」
拳を握って悔しそうな顔で言ったアンナにレイアはツッコミを入れたけど、そんな彼女の顔にアンナは自分の顔を近付けて言う。
「ふ・た・り・き・りっと言いましたわよね?」
「わ、わかったから離れてくれる?」
と、ちょっと引いたレイアはアンナを押し戻した。
コンコン。
「奥様方、お茶を持ってまいりました」
「っ!?」
「奥様……いい響きですわ〜」
突然来たダルミアの言葉にレイアは驚いて、アンナは蕩けるような表情、やばい表情になった。
「ちょっと何とかしてよ、ルーーあんたもかああぁぁ!?」
ああああもう! とやけくそになったレイアは二人の代わりにダルミアに入室を許可して、入った彼女はテキパキにお茶を入れたあと頭を下げて退室した。
流石プロだ。
妄想の中にいてだらしない表情をしているアンナとルナに全く動じなかった!
「ーーコホン! それはさておき、今回は愚痴の他に話したいことがあります」
「愚痴は確定なんだ……」
「今回フェルの外出について、ですか?」
呆れたレイアをよそにして、ルナに確認の質問に投げられたアンナは頷いて、前にロダール女王国で女王との謁見した日の夜、フェルと自分は女王に呼び出された事を二人に話した。
「話題はマセリア帝国の皇子に持ち掛けられた縁談でしたわ」
「……アンナ様と、ですか?」
「流石ルナさん、鋭いですわね」
「ですがあの男に良くない印象しかありませんね、当然フェルもそうだと思うでしょう」
一早く話を掴めたルナは自分の感想を言い出して、レイアはただ黙って二人の会話を聞いている。
「ですからフェルさんは決めましたの」
その夜の出来事を思い出していながらアンナは目を閉じて両手を胸の前に持った。
「クズにくれるくらいなら俺にくれ、それがフェルさんの言葉でしたわ」
「それ、プロポーズですよね?」
「そうね……娘をくれ、と女王に言ったようなものだもの」
「流石にあの夜自分の部屋に帰りたくありませんでしたけど……フェルさんのいけず」
くねくねしながら呟いたアンナは最後に口を尖らせる。
「ふぅー、何もなかったようね、よかーーって! よくなあああい!」
「レ、レイアちゃん!?」
「ど、どうかしましたの!?」
な、何考えてんの、あたし!? と内心で悶えているレイアにルナたちはちょっと引いた。
「そ、それにしてもやりましたね、アンナ様」
「何言っていますの? 今回の外出はあなたの為にもありますわよ?」
フェルは今抱えている問題の一つは迫ってきているレヴァスタ王国の使者、勇者たちだ。
レヴァスタ王国はフェルを捕獲するためにロダール女王国の王都、ギーフに勇者たちを赴かせた。
建前の理由はルナの戦死だから、もし彼女はまだ生きていると知ったら彼らは確実に彼女を狙うだろう。
「ですがドライアード様と二人きりで外出するなんて納得いけませんわ!」
「あ、愚痴に戻ったね」
「フェ、フェルなりの理由はーーっ!!!」
「庇わなくてめもーーってルナさんだいじょーーっ!」
突然固まって青い顔になったルナに不思議に思って彼女の具合を伺おうとしているレイアはその理由をすぐに悟った。
「ル、ルナさん、今のは……」
自分の身を抱いて震えているルナはレイアを見て頷いた。
「急にどうかしましたの、二人とも?」
「え? 感じなかったの?」
「アンナ様は魔力に敏感じゃありませんね……」
ふぅ……と息を整って自分を落ち着かせたあとルナ続ける。
「さっき、魔力を感じました……膨大な魔力を、です」
まるで体が大波に押しつぶされたかのように、呼吸する事すら忘れてしまうほどの威圧感だった。
「どうやら正確にはドライアード様だけ連れていったではなく、ドライアード様しか連れていけませんでしたね」
もしレイアたちは付いていったら今頃気を失っているだろう、それほど圧力が凄まじだった。
「爆発音はなかったから戦闘ではないでしょうけど……」
「何やってんの……」
当然ここにいる面子は知らないけど、さっきのはフェルが結界の装置一つ設置した結果なのだ。
まあ、この後同じ現象が三回も起きて慣れたレイアとルナは呆れるけどな。
「えー、さっき縁談の話に戻りますけど、実はフェルさんはある決意をしましたの」
フェルの魔力を全く感じなかったアンナはただ首を傾げて、話を続けた。
「決意?」
「たぶんさっきお二人さんが言っていた魔力はその決意を実現する為の準備ですわよ」
しかし魔力を感じなくてもアンナはレイアたちが知らない情報を知っている。
それはーー
▽
何もない空間にドライアードに案内されて、フェルに振り返った彼女はここが目的地だと言わんばかりに真顔で頷く。
「おおおい、マクス爺いるか?」
何もない空間にフェルはそう叫んだ直後、彼ら目の前に一つのドアが現れた。
「……どこでもドーー」
ーーコホン! えー、申し訳ありませんが、フェルの台詞を遮らせていただきます。
「いらっしゃい、フェル、ドライアード」
ドアをくぐって中に入った二人は灰色ローブを着けているお姉さんに出迎えられた。
「エイオン、爺に会いたいんだけどいるか?」
「はい、こちらへ」
頷いて、お姉さん改めてエイオンは歩き出した。
「それにしても、今回は和風屋敷か……前は要塞だったっけ?」
木から出来た大きな建物に大きい庭、そしてその庭に池があって、盆栽もいくつかある。
いかにも高級な和風屋敷だ。
基本何もない精霊界けど、精霊の気分次第にそれが変わる。
さっき見たいにフェルたちの前に突然現れたドアも、ドアをくぐった先にあるこの和風屋敷も全てここの大精霊、フェルが言っていたマクス爺の仕業なのだ。
「おお、フェル、待ってたぞ」
庭に案内されたフェルたちは縁側で両足をぶら下げて寝転がっている人に笑みで歓迎された。
「……なあ、マクス爺、姿を変えたのは良しとして、影響されすぎんじゃないか?」
精霊たちに固定の姿という概念はないから、彼らにとって容姿を変えるのは容易い事だ。
そして今フェルたちの前にいるマクス爺は黒髪、黒目、低いでも高いでもない身長、美少年、そして和服姿をしている。
ちなみに以前は爺の姿だ。
「お前のためにやってんだぞ? 前の世界の事を思い出させるためだぞ? 感謝の言葉一つもないのか? ん???」
こ、こいつ……! と上半身を起こしてドヤ顔をしているマクス爺にフェルはムカついてーー
「ショウタに興味ねえ! ホモじゃねぇんだよ!」
全力で言った!
「そもそも俺がここにいるのはお前のせいだろうが!」
そして最後にブチ切れた彼はマクス爺に殴りかかった……。
マクス爺「なら女に変身するぞ!」
フェル「中身が爺のままじゃねぇか!」
ドライアードとエイオン「「……」」
よかったらぜひブックマークと評価を。