56。さっきの感触好きだよ?
2025年6月27日 視点変更(物語に影響なし)
翌朝、朝食を済ませたドライアードとフェルは森の奥へ行った。
目的はりゅうじぃが言っていたモンスターとドライアードがちび達のために用意してあった家を確認するためだ。
家と言っても屋敷とか建物ではなく、ただ周囲の魔力が調整された場所だ。
精霊は自分の属性と同じ魔力の多い場所を好む存在だ。熱い場所に火精霊が、湖に水精霊が見つかりやすいのはそのためである。
そういった場所の周囲にある魔力がより純粋になるように時々魔力を調整する必要がある。そしてそれは周囲の魔力を自分の属性にある程度調整できる大精霊の仕事だ。
とにかく今回ドライアードのおかげで森の精霊はこの森に住めるようになった。
なったけどーー
「ちょっとお主ら? なぜワレの後ろに隠れている?」
ドライアードにちび達がいる所に案内されたフェルはその領域に踏み入った瞬間、精霊たちは騒ぎを立ててしばらくあちこちに飛んでいた後、ドライアードの後ろに隠れた!
「……よく直視できるなぁ」
「はい? 何か言いましたか、王?」
精霊は基本光っているからフェルの目からだと今のドライアードはシルエットにしか見えない。
「いや、何でもない。それより森全体に結界を張るつもりだが、いいか?」
「よろしいのですか?」
幻想の森の事件は二度と起こらないように結界は絶対だとフェルは思っている。
この前フェルが幻想の森に張った結界はルナの手によって簡単に破られたと見えるけど、あれはフェルが自ら結界を解いた事もあるからそうなった。
しかし今回彼はちょっと自分でもそう簡単に解けない結界を作るつもりだ。結果は自分が更にちび達に怖がられると知っていても構わない、とにかく強い結界を張る! とフェルの意志は固いのだ!
「王がいいなら構いません……」
「ありがとう」
許可は貰ったからフェルは今回の結界を頭の中で設計し始めた。
結界には装置が必要だ。これは結界の柱と考えればいい。万が一侵入者が居たら装置は簡単に見つけられないように普通の装置はダメだと思ったフェルは森の中にいる一本の木を装置にしたのだ。
まあ葉を隠すなら森の中というからな。この場合は木だけど。
「ふぅ……終わーーどうしたんだ?」
それで結界の一つの柱を作る為に必要な魔力を注ぎ終わったフェルは振り向くとそこには疲れた顔で地面に女の子座りしているドライアードの姿あった。
「お、王、どんな結界を張ったのですか?」
「はぁ? どんなって……ドーム型、装置四つ、魔力自動回復、認識妨害、視覚妨害、転移妨害、そして幻覚の結界、そのような結界を作るつもりだぞ?」
ちなみに今のは一つ目の柱だな、とフェルは何ともない顔で更に続けた。
「て、転移妨害は必要ですか?」
フェルが差し伸べた手を取って立ち上がったドライアードは気まずそうに言った。
「あー、確かにな。もう付けたからいいや」
転移魔法を使えるフェルからすると当たり前の事だから、知らない相手は転移できないように結界を張ったけど、そもそも転移魔法使いはそんなにいない。
「……ところでちび達は?」
「その、王が出した魔力に怖がってどこかに隠れていると思います……」
「だよなぁ……」
あまりにも膨大な魔力だから、魔力の塊で普通の精霊であるちび達は今のフェルが出した魔力を耐えれるはずがない。自分の存在が消されるかもと脅威を感じた途端、彼らはどこかで隠れたのだ。
ちび達に嫌われる瞬間かもしれない……それをわかったフェルは落ち込んでいる。
「だ、大丈夫です! 彼らも分かっているはずーー」
「いいんだ、ドライアード、いいんだ……」
諦めたフェルはただ左手で顔を覆って、右手でドライアードの弁明を阻止した。
▽
「あ、フェル様だ!」
「本当か!?」
「きゃあ! フェル様、会いたかったよ!」
「フェル様! お嫁にしてください!」
「いや! お婿にしてくれ!」
結界を張り終わったフェルたちはドライアードの案内によって次の目的地に着いた途端、あちこちから人が飛んできた……最後の二人は無視しよう。
「えっと……なんで毎回ここに訪れるといつもこうなんだ?」
戸惑っているフェルに反して彼の隣にいるドライアードは何とも思わなくて前を向いているままだ。
「たぶん、王が滅多に精霊界に来ないのが原因かと」
そう、彼らは今精霊界にいるのだ。
精霊界、精霊の世界、まあ〝世界〟と言われるけど基本は何もないただの白い空間だ。
その空間の中で精霊たちは普通の人間のように暮らしている。
「すまん、マクス爺に用があるから、通してくれないか?」
「えぇ〜? もう行くの〜? 少し遊んでよ〜」
「ちょっと、ニンフ!」
大精霊達に向かってそう言ったフェルの背後から一人の女性、水の大精霊は彼を抱きついて、耳元で甘い声で囁いた。
「……お前の〝遊ぶ〟と俺の〝遊ぶ〟はちょっと違うから、遠慮しとくよ」
この前もそうだったし……とフェルは肩を落とした。
実はこの前ノームとシルフの為に精霊界に行ったフェルはこのニンフに散々弄ばれていたのだ。
だからフィリーたちの所に戻った時、ディアに接触されたフェルは凄い疲れている顔で対応していた。
「あうぅ〜いけず〜」
誘いが断られて、そう言いながらニンフはフェルから離れた。
「あーでもさっきの感触悪くないぞ?」
そりゃあそうだろうな。
ニンフはわざと豊富な胸をフェルに押し付けていたから。
「王……」
「直なフェル様好きよ〜」
「うむ、俺もさっきの感触好きだよ?」
「……」
ニンフに向かって親指を立てたフェルをドライアードはジーッと目で見ている。
「コホン! と、とにかく行くぞ!」
その無言の威圧に耐えられなくて、情けないフェルは先を促した!
△
「気を付けて行ってらっしゃいませ、フェル様」
「ありがとう。ん? ディアか、朝からおつかれ」
朝の練習から帰った時、ディアは玄関でダルミアに見送られたフェルとドライアードにばったり会った。
「もう行くのか?」
ああ、とフェルは答えてそのままドライアードと一緒に出て行った。
「朝食いかがですか?」
「あ、あー、うん、もらうよ」
しばらくフェルたちの後ろ姿を見ているディアはダルミアに声を掛けられて、彼女と共に食堂に行くとそこにはルナたちがいる。
「さて、これから会議を開きたいと思いますわ!」
と、食事が終わった所でアンナは突然言い出した。
「後でわたくしの部屋に集合、いいですわね?」
言いながら食堂にいるみんなを見渡した彼女はディアを見て、あっと思い出した。
「ディアさんは来なくて大丈夫ですわ」
「……え?」
突然名指しされたディアは驚いてアンナを見る。
「そうね、覚悟ないみたいだし」
追い討ちするかのようにレイアは言い加えて、ディアは更に困惑になった。
「何困っている顔をしているのよ?」
「いや、だってーー」
「これから開かれるのは嫁会議よ。あなたフェルの事なんとも思わないでしょう?」
そういう事。
この面子が会議をする、しかもフェルを除けるというと嫁会議しかない。
「それは、まあ……」
「そういう事です。では一時間後、わたくしの部屋で」
アンナが場を責め括った後、みんなはそれぞれ部屋に戻った。
「お茶はいかがですか?」
「あ、もらうよ」
取り残されて、呆然としているディアにダルミアはお茶を淹れた。
フェル「仕方ない寂しがり屋さん達だな~」
精霊たち「「「フェルさま~」」」
ドライアード「何デレデレしているのですか、王?」
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