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勇者? 人違いです  作者: Adhen
54/129

54。幕間 気楽でいいな、お前……

2025年6月24日 視点変更(物語に影響なし)


 これはレダスたちがまだフェルに出会っていない頃の話。


 レダスとダルミアは結婚して、自分たちが育てられた村に時々トラブルはあるけど、村の住民たちと何とか解決できて、みんなはそこそこの平和で暮らしていーー




 カーン、カーン




「盗賊だ! 中に魔獣使いるぞ!」


 ーーたけど、今回はちょっと違う!


 見張り台の上から狐人は警報の(かね)を鳴らしてそう告げた!


「ちっ! なんてタイミングだ……」


 いやそうな顔でレダスはつぶやいた。


「私も出ます……」


「なに言ってんだ!? 出産(しゅっさん)したばかりだろう!? お前は残れ!」


 そう、これはソフィマが生まれたばかりの頃の話だ。


 レダスは弱っているダルミアの言葉に一瞬驚いて、彼女を叱って玄関へ赴く。


「お前は確かに凄腕の魔術師だが、今は違う」


 そしてドアを潜る寸前に、外を向いているまま彼はさらに続ける。


「俺たちの娘を守ってくれ……」



 そう言い残して、レダスは家を飛び出した。







 襲撃を受けてから既に数時間が経って、遠くから鋼と鋼がぶつかる音、爆音、悲鳴、そして笑い声は残されたダルミアの耳にずっと入っている。


(レダス……)


 今まで盗賊の襲撃自体は何度もあるけど規模は大きくなかった。


 しかし冒頭で言った通り、今回は違う。


 彼ら狐人は魔法に優れるけど、大規模な襲撃だけあって戦闘が長引いてしまって、狐人たちは段々不利な状態に陥ってしまう!


(やはり私も出た方が良さそうね……)


 レダスが言ったように出産したばかりのダルミアは本来の力を発揮出来ないけど、それでも彼女は無力ではない。


「だからいい子にしてここで隠れてね。お母さんはちょっとみんなを助けに行くから」


 決意についた彼女は眠っている娘を洋服タンスの奥に匿った。


「……」



 家を出る前に最後にもう一度タンスに視線をやって、彼女は家を出した。







「ファイアウォール!」


「「「ぎゃああ!」」」


 最前線に着いた途端、ダルミアはすぐ火の壁を同胞と盗賊の間に作って、壁を越えようとしている魔獣たちは燃え尽くされた!


「ーーっ! ダルミア!? なぜここにいる!?」


 そして彼女の姿を捉えた瞬間、レダスは駆けつけて彼女の肩を掴んだ。


「助けに来るに決まっているでしょう! それより状況は!?」


「あ、ああ、盗賊の中に想像以上に魔獣使い、しかもかなりの腕持ちが沢山いるんだ」


 魔獣使いはその名通り、魔獣を調教し駒として使っている人の事だ。


 魔獣は獣と違って魔力に汚染されているから当然魔法に対する耐性も持っている。


 つまりーー


「私たちにとって相性が悪い相手ね……」


 狐人族は魔法に優れている種族だ。色んな魔法を扱えて、凄まじい魔法で相手を撃退すると世の中に知れ渡っている。


 だけど魔法が得意なら魔法耐性さえあれば対抗できるのだ。


「ああ。どこのどいつの差し金かは知らんが、俺たちに悪意を持ってるなぁ」


 だから沢山魔獣使いを引き連れて襲っている今回の盗賊たちは明確に自分たちを狙っている、と狐人たちは分かっている。


「とにかく早く片付けましょう、娘がしんーー」




「おいおい、俺たちを片付けるだと?」




 盗賊の中から大柄な男はダルミアの火の壁をすり抜けて前に出た。


「……盗賊じゃねえな、何者だ?」


 ダルミアを自分の背中に隠してレダスは盗賊を睨む。


「ガッハッハ! 盗賊じゃねぇのは確かだが、動物が知る必要はねえ」


 愉快そうに笑った男は右手を高く上げて、言い出した。


「狐人族は今日で終わりだ! 行くぞ、野郎ども!」


 男はそう言った直後、彼の体、いや、彼だけじゃない、後ろにいる他の盗賊も、そして魔獣も虹色に一瞬だけ光った!


「……魔法耐性の魔法か?」


 何の魔法かダルミアには知らないけど、さっきの光からすると防御系の魔法だと彼女は推測した。


「おいおい……」


「小賢しい真似を……!」


 そしてその推測は見事に的中した。


 何の躊躇もなくさっき魔獣を焼き尽くした火の壁をすり抜けた男の部下たちを見て、狐人たちは舌打ちした。


「相当強力な魔法ね」


「ガッハッハ! ご名答!」


「ダルミア、お前は早く戻って娘と共に逃げろ……」


 流石にまずいと思ったレダスは盗賊たちに向いているままそう言った。


「むだむだ! 村全体囲んでる! 今頃向こうから部下たちが村をーー」




 キーン!




「ーーな、何、今の!?」


 男は台詞を言い終える前に村の方からまるで体が膨大な魔力にぶつかれるような感覚がして、狐人たちは目眩に襲われて辛い表情をしている。


「団長! 他の部隊に派遣した連絡用の魔獣の反応が消えました!」


「なにっ!? 何があった!? 他の魔獣をーー」


 部下から報告を受けた男は吠えたその直後だったーー




「こいつの親は誰だ?」




 フードを深く被っていて赤子を抱えている背が低い男は盗賊と狐人たちの間に現れて、突然の出来事で誰も反応出来なかった。


「もう一度訊こう、こいつの親は誰だ?」


 今度は声に少し威圧感があって、男はさっきと同じ質問をして、同時に腕の中にいる赤子を自分の前に浮かせる。


「きゃあい!」


「む? ちょっと黙ってろ、今お前の親を探してるんだよ」


 嬉しそうに浮かされている赤子と違って、男はいやそうな声でそう言った。


「ーーっ! 娘をかえせええぇぇ!」


「おまえかああああぁぁぁぁ!!!」


 ドゴーン!


 そう、男が浮かせているのは家のタンスに匿っているはずのレダスとダルミアの娘なのだ。


 娘の姿を確認したレダスは全力で男に接近して攻撃を仕掛けたけど、男は苛立ちをこもった声を上げた瞬間、レダスの背後に突然土壁が現れ、大音と共に壁全体に亀裂が入って崩れた。


「あ、あなたーーっ!」


 壁に叩き付けられたレダスは壁の瓦礫(がれき)の下に倒れて、そんな夫の姿を見たダルミアは慌てて駆けつけた。


「お前が母親か……? 覚悟はいいな?」


 ダルミアは自分が浮かせている赤子の母親だと悟った男は彼女の前に移動して、見下ろしながら手元に火玉を具現化した。


「……何のつもり?」


「よくもーー」


 自分はここで終わり、そして娘を一人にする事に対して後悔しているダルミアはそう質問したけど、男はそれを無視して更に続ける。




「よくもこの子を一人にしたなあぁ! それでも親かあああ!?」




 勢いよく手を挙げて、男が具現化した火玉の大きさは一瞬で何倍になって、そしてそれに応じたかのように周りの風は激しく吹きはじめ、彼のフードを取り外した!


 白髪混じった黒髪が印象的で、男、フェルの表情は怒りに満ちている!


「ーーっ!」


 そこでダルミアはやっと分かった、目の前の男は盗賊ではない事を、そして本気で娘の為に怒っている事を。


「ごめん、なさい……」


 だから彼女は謝ることにした。


「このっ! 謝ったらこいつにしろ!!!」


「きゃあい!」


 土下座しようとしたダルミアを胸ぐらして無理矢理立たせてからフェルは浮かせている赤子、ソフィマを彼女の前に移動した。


「ちっ! 気楽でいいな、お前……」


 一度自分に向かせて、嬉しいそうにはっしゃいでいるソフィマに対してフェルは半眼で見ている。


「いいか? こいつを二度と置いたらこの子を取り上げる。いいな、このクソ親共が!?」


「は、はい!」



 強い忠告にダルミアは頭を下げた。







「珍しいな、王が怒って」


「フォッホッホ! 痛かったじゃろう、レダス?」


 昼飯の時にフェルとの出会いの経緯が訊かれ、ダルミアは三、四年前の出来事を語って、話を聞いたドライアードとりゅうじぃはそれぞれの感想を述べた。


「腹にパンチして土壁に叩きつけられたんだ……意識を保っているだけで精一杯だったぜ……」


 痛そうに自分の腹を抱えているレダスにりゅうじぃは愉快そうに笑いだした。


「結局村を襲っていた盗賊達はどうなった?」


「それは、正直言って分かりません……」


 ダルミアが分からないのは仕方ない。


 あの時村全体を囲んでいた盗賊達はフェルがダルミアたちの前に現れた時、既に彼の手によって片付けられたのだ。


「娘を返した後フェル様は私たちが相手をしていた大柄男とその部下達と共にどこかへ消えて、しばらく時間が経ったら戻ってきました」


「なるほど、消えた(・・・)な、そいつらは」


 ダルミアから話を聞いたドライアードは目を閉じてうんうんと頷いた。




「ーーかあしゃん!」




「帰ったようだのう」


 とその時玄関から声がした。


「ただいまーーほれ、母に飛んでいけ」


 そうフェルが言うとソフィマはゆっくりと浮いて、ダルミアとレダスにふよふよと飛んでいった。


「ふふふ、いい子にしていた?」


「うん!」


 満面の笑みで頷く娘と背後から肩に手を置いている夫の笑顔を見て、ダルミアは嬉しい気持ちになった。


(フェル様、村を、夫を、そして娘を救ってありがとうございました)



 と内心で彼女は自分の主人に感謝の言葉を述べた。

ソフィマ「あのね、おっしゃんはねーー」

ダルミア「うんうん」

ソフィマ「泣いたの」

ダルミア「……え?」


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