50。幕間 こいつを懲らしめないとっ!
2025年6月19日 視点変更(物語に影響なし)
ここは女性陣の部屋。時はフェルが魔法鞄の仕組みを説明した後に遡った。
「それにしてもとんでもないね、フェルは」
魔法鞄の説明が終わって、フェルが退室してからしばらく部屋は沈黙に支配されたあとレイアはソファーの背にもたれて呟いた。
「同感ですね……頭脳、強さ、普通の人間とは桁違いです」
……それは言い過ぎだ。
「はぁー、あなた達はフェルさんの事をどう考えているかはしりませんが、わたくしはあの人を愛していますわ」
「え、えっと、どうしたの? 急に」
溜め息を吐いて、アンナの突然のカーミングアウトにレイアはちょっと引いている。
「そうですわね……この際ではっきり言わせてもらいますわ」
アンナは立ち上がってからレイアたちを見下ろして宣言した。
「二人とも、フェルさんの妻になりなさい」
「「……え?」」
それは本当に突然だった。
レイアとルナは一緒にポカーンとした顔になってアンナを見ている。
「な、なななに言ってんの!?」
「う、うぅ……」
「あ、ソフィマちゃんがっ! レイアちゃん、声抑えてください!」
アンナの発言はあまりにも急すぎてレイアは思わず大声を出してしまった。
そのせいで寝ているソフィマは起きそうになって、レイアはルナの注意によっては! と自分の口を抑えて、アンナは素早くソフィマに駆けつけて彼女の頭を優しく撫でる。
見事な連携だった。
「あの方はわたくし一人身に余りますわよ……」
「だ、だからといって別にあたしたちじゃなくてもいいでしょ!?」
決して大声を出さないようにレイアは強く抗議している。
「そ、そうですよ、アンナ様。フェルを殺そうとしていた私にはーー」
「彼はあなたを咎めたことありますの?」
「「……」」
確かにない。
「ふふふ」
しばらく部屋は沈黙に支配された後、アンナは立ち上がってレイアたちが座っているソファーへ歩きながら力なく笑いをこぼした。
「二人には羨ましいですわ……」
そして寂しそうな笑顔を二人に見せた。
「羨ましい、ですか?」
そう、とアンナはルナの質問を答えて、フェルについて語り始めた。
「フェルさんはですね、相当な面倒くさがり屋で同じ事を、面倒事を何回やるのが大嫌なの」
一回目の試みで事を済ませれるならそうして、出来ないなら時間を掛けても出来るように考えて、二回目の試みで終わらせる。もしまだダメだったらやる気が出るまでその面倒事を触れないのだ。
超が付くほどの面倒臭がり屋だ。
「レイアさんは自ら付いていくと言いましたわよね? 理由は確か……訊きたい事が沢山ある、でしたっけ?」
「沢山あるよ? 例えば精霊界の事とか、他の大精霊の事とか、そして精霊王とか」
「……どれも精霊関連ですね」
纏めればいいんじゃありませんか? とルナは加えて呆れた。
「そんなあなたを連れて行ったというと少なくともフェルさんはあなたに気がありますわよ」
「あの状況は仕方なーー」
「本当にそう思っていますの?」
「……」
もしその気になればレイアをフィリーの所に転移するのはフェルにとって容易い事だ、しかし彼はそうしなかった。
「ルナさんのケースはもっと簡単ですわ」
自分を殺そうとした人をわざわざ側に置くとは、フェルは物好きだな。
「いいえ。人を助けるには理由なんていりません、と彼が言いました」
「確かにそうですわね。ですが助けると側に置くとは別ですわよ?」
それに、とアンナは続ける。
「彼自身あなた達を妻と呼んでいるじゃありませんか?」
「あれは冗談に決まってるでしょう?」
ドライアードも最初は妻としてレイアとルーガンたちに紹介されたしな。
「ふふふ、まだ若いですね、レイアさん」
「なっ! 喧嘩売ってんの!?」
「レ、レイアちゃん、落ち着いてください!」
「放して、ルナさん! こいつを懲らしめないとっ!」
「ううぅ……」
「「「あ」」」
わざと挑発するような笑みを見せたアンナに激昂しているレイアはルナに拘束されて、ちょっと騒がしくなっているせいで夢の世界へ旅立っているソフィマは戻ろうとしている!
「アンナ、早く!」
「え、えぇ!」
動けないレイアとルナは出来る事あるわけがなく、ソフィマを宥める役は自然にアンナに転んでしまった。
「ん〜むにゃむにゃ〜」
「「「はぁ〜」」」
優しく撫でられているソフィマはまたすやすやと眠りに戻ったことに三人は一緒に安堵の溜め息を吐いた。
「……フェルはあんたの事ちゃんと気に入ってるじゃない」
だから羨む必要なんてないよ、とルナに解放してもらった後、レイアは続けた。
「初めて会った時あんたフェルを捕まってたでしょう?」
あー、それは初めてアンナが登場した時だ。
彼女は逃げようとしているフェルを引き留めるために後ろから抱き着いた。
「フェルは時空魔法使いですよ? あの時アンナ様から簡単に逃げれたはずです。そう言いたいでしょう、レイアちゃん?」
「……だってそうでしょう? あいつがそうしなかったって事はアンナの事気に入ってるからじゃない?」
台詞が奪われたレイアはちょっと頬を膨らませてからそう言って、更に続ける。
「まあ、単に抱かれる感触を味わっていただけかもしれないけどね」
それは……あり得る。
ルナに比べたら小さいけど、アンナも中々の物を持っているからな……。
「そ、そうでしょう、か……?」
改めてそう指摘されるとアンナはちょっと赤面になって俯く。
「若いね、あんたも」
お返しだ! とレイアはさっきアンナみたいにわざと挑発するような笑みを見せて、アンナはちょっとキョトンしているとーー
「ふふふ、やっぱりあなた達なら認めますわ」
女同士でも見とれてしまうほど微笑んだ。
ソフィマ「むにゃむにゃ……すーすー」
レイアたち「「「はぁ、かわいいぃぃ」」」
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